本当の実力者は?
(こえぇぇえ! 勇者怒らすとか、まじでどうしよう!?)
ロイドは必死に冷静を装っていたが、内心はパニック寸前だった。
戦う力なんてあるわけがない。勇者どころか、そこらの一般戦闘職にすら一撃でノックアウトされるレベルなのだ。
(マジでなんで俺は勇者じゃないんだよ!! 俺が勇者だったらこんなにビビらなくてよかったのによぉぉお!!)
(マジシャンってマジでなんだよ! 俺ですらまだ全容わかってねぇよ! とりあえず何とかなりそうだと思ってリリアを誘って配信始めたけどよ……なんでここまで来れてんだよ!?)
ロイドの職業は『マジシャン』。
自身が身に着けている衣服のポケットから、収納しているものを出し入れできる――ただそれだけの能力だ。長さに関しては上限がないものの、出すポケットの幅を超えるものは収納できないという制約まである。
(この力だけで勝ち上がれるほど甘い世界じゃねぇんだよなぁ……)
だが世間には、この能力のチープさは知られていない。
知られていないと言うよりは、――まだ「バレていない」のだ。
もしバレてしまえば、ただの外れ職業だと露呈する。
そうなれば、もう一つ「おかしなこと」にまで疑問の目が向いてしまう。
――それは、なぜこの二人だけのパーティがここまで勝ち上がってこられたのか、という疑問だ。
実は、このパーティには2つの秘密がある。
1つは、ロイドが戦闘職ではなく、戦闘職相手に勝てるわけがないこと。
もう1つは、そんなロイドが「1人で戦ってどんな相手も倒している」ように見せかけることができる、とんでもない白魔導士が常にサポートしていることだ。
それこそ、幼馴染のリリアである。
この世界において、職業には大きく分けて2つの系統が存在する。
勇者や魔法使い、戦士など、配信に欠かせない花形ともいえる『戦闘職』。
そして、料理人や鍛冶など、日常の生活において必要とされる『一般職』。
要するに、戦い向きかそうでないかだ。
ロイドの『マジシャン』は、どう見ても一般職の部類だろう。
リリアの『白魔導士』も、分類としては一般職と言える。
切られた腕の治療やデバフの解除など、戦闘面においてもサポートとして優秀なためパーティに1人いることもあるが……とはいえ、パーティに勧誘するにしては不人気な職業の一つだった。
理由は簡単。――「配信映え」しないからだ。
今、配信に求められているのは圧倒的な力。
勇者が戦場で見せる鮮烈な戦い、魔法使いが放つ派手な魔法。
配信でしか見られない超常の光景だからこそ、世間は熱狂する。
パーティの定員は2人〜5人と決まっている。
つまり、貴重な枠に地味な職業を入れるよりも、視聴者が「見たくなる戦い」ができる職業が優先して選ばれるのが常識だった。
ただし、それは「一般的な白魔導士」の場合に限る。
一般的というよりも、――リリア以外の白魔導士、と言ったほうが正しい。
リリアの白魔術は、完全に別格だった。
たとえ腕を切り落されたとしても、切られた瞬間に元通りになっている。初めから切られてすらいなかったと錯覚させるほどの超絶的な修復スピード。
さらには、対象者への様々なバフ効果の同時付与。
その上、白魔術を発動しているタイミングすら周囲に悟らせない隠蔽技術まで持ち合わせている。
これだけでも歴代の白魔導士の中で「最強」と言えるが、それに加えて彼女はなぜか『黒魔術』も極めていた。
本来、自分の職業とは別の系統の力を使うこと自体は珍しくない。
勇者だって自身の力以外に得意な魔法を使えるし、魔法使いが武器を持って戦うことだってある。とはいえ、本職の魔法使いほどの多種多様な魔法は使えないし、本職の剣士の技術には遠く及ばないのが普通だ。
だから、白魔導士が黒魔術を使えること自体は、そこまで不思議ではない。
使えるだけなら、の話だが……。
(リリアの黒魔術は、おそらく……いや確実に世界最強と言っていいと思う)
(普通、黒魔術なんて使ったら、かけられた相手は『あ、デバフを付与されたな』ってすぐに気がつく。つまり、普通に発動すれば一発で周囲にバレるんだ。……だけど、リリアの場合はそうはならない)
通常の黒魔術は、相手の感覚を鈍らせたり、速度を低下させたりと、とにかく相手の動きを制限するもの。本来なら非常に役立つ術なのだが、やはり配信映えはしない。
そんな理由からパーティに加入できない黒魔導士はたくさんいる。
だがリリアには関係のないことだ。
なぜなら彼女は、戦闘中、相手に気づかれないレベルの精密さで、なおかつ「最高のタイミング」でデバフをかけ続けてくれているからだ。
(だって、何が起こっているか、かけられている本人すらもわからない……。リリアは相手の動きに合わせて黒魔術をかけ、俺には最高の白魔術をかけるから相手からしたら俺の動きがいいだけに見えるんだよなぁ。本当は弱体化させられて気づかないズレを生じさせられているのに......。本当に恐ろしい幼馴染だよ……)




