第27話 アロニーの村Ⅵ 過去の後悔
『師匠!どうしたら僕は王女様の婚約者候補から外れる事ができますか?』
『このバカ!そんな事を簡単に言うな!不敬で処罰されるぞ』
『師匠!おねがいします!師匠は王女様が好きなんでしょう?師匠が婚約者になるのが1番でしょう?』
ウォルト殿は涙目で訴えて来る。
夢であっただけの女の子にそこまで執着するものなのか?国の未来を考えるなら、王女様に素晴らしい伴侶を見つけてあげるのが1番じゃないか?
私には、ウォルト殿の気持ちがわからなかった。
私はどこかで、ウォルト殿より上だと自惚れていたのだから。
王女が城下町の視察にお忍びで行ったと、私とウォルト殿は王宮で知らされた。
近衛騎士がついているから大丈夫だと誰もが過信していた。
キーーーーーーン!!
『師匠この音は!?』
『これは緊急信号だ!城下町の方から・・・・・王女様に何かあったのかも。』
そう言った瞬間!
ウォルト殿は私の手を掴んだ!
そして私達の足元に魔法陣が浮かび上がる
次の瞬間、視界が真っ白になり、次に視界が開けた時には、王女様が目の前にいた。歩いて30分かかる場所に一瞬でついたのだ
『瞬間移動・・・・・』
ウォルト殿はどれだけの魔法が使えるのだろうか。
そんな事を考え目の前にいる王女様の状況を把握できなかった。
ウォルト殿が風魔法を使い、王女様の両端に立つ男を風刃で切り裂く!男達が怯んだすきに水魔法で王女様にシャボン玉のような結界を張りシャボン玉ごとふわふわとこちらに引き寄せた!引き寄せた瞬間近衛騎士達が男達を取り押さえた。
王女様は攫われそうになっていたんだ。
私が状況を把握した時には、すでに事件が解決していた。私は何も出来なかった。ただただウォルト殿の魔法に見惚れていたんだ。
王女様はウォルト殿に抱きつき、わんわん泣いていた。
ウォルト殿は困った顔をしながらも王女様をなだめるように背中をトントン叩いていた。
それを私は見ていただけだった。
私はウォルト殿以上の魔法は使えない。
王女様は最初からウォルト殿に夢中だった。
私が入る隙間はなかった。
それから数日して
ウォルト殿と王女様の婚約発表が近々行われると聞かされた。
私の心に歪みが出来たんだ。このままここにいても、嫉妬と自分への幻滅感でおかしくなりそうだった。
だけど発表を目前に、魔王が誕生したと祭司様が感知した。
王家は婚約どころではなくなった。
このままでは、世界は滅亡してしまう。文献を頼りに数年かけて勇者を召喚する事になったんだ。
私はあの後すぐに城を出た。
魔王が住むとされる森に1番近い場所で魔王を見張りながら、魔物が王都に行かないように、私は私のやるべき事をして、国を王女様を守ると誓ったんだ。
私は叶わぬ恋を夢見ない。
ウォルト殿に王女様を幸せにしてもらいたいんだ。
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そう語ってくれたアルク様の瞳からは大粒の涙が流れている。
アルク様は王女を愛しているのね。
本当は自分が幸せにしたかったのに好きさえも言えないまま。
アルク様・・・・・
私はアルク様の頭をポンポンと撫でた。
アルク様は黙ってしまった。
少しして、アルク様はクスクスと笑った。
「ありがとう。ハナさん」
アルク様は私に優しく微笑んだ。
ここに来て初めてアルク様の本当の笑顔を見た気がした。




