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アルト=ボクテスは混乱している。

食べるものがないよ。と聞いたら、ミノタウロスがいるじゃない。と返された。

まったく意味がわからない。

……いや、本当は理解している。

理解したくないだけだ。


「……喰うの? ミノタウロス?」


おそるおそる聞いたら、あっさりと返事が帰ってきた。


「え? うん、食べるけど……それがどうかしたの?」


そんなにあっさりと答えらると、まるで自分の方がおかしいように思える。


「……」


救いを求める様な目でカトリーナを見ると、彼女は彼女で、


「ああ、君には馴染みのない事かもしれませんが騎士学校では普通に習う事ですよ」


などと言ってくる。


「………」


また、でた! 騎士学校の謎教育!

騎士学校に通った事もないアルトには理解不能だ。

そんな苦虫を噛み潰した様なアルトにアイリスが気を使ってきた。


「アルト君は魔物を食べるのは初めてなの? 大丈夫、ミノタウロスは他の魔物に比べて食べやすいよ。なんたって二足歩行しているだけの牛だから」


アイリスはアルトに気を使っているのだろうがその気の使い方が斜め上にずれているとしか思えない。

その二足歩行している所が重要だと思う。そしてミノタウロスを食うなんて一言も言ってない。

「俺は…遠慮しとくよ…ミノタウロスなんて食いたくない…」


「アルト君、好き嫌いは良くないよ。それに、食べないと飢えて死んでしまうんだよ」


好き嫌いどうこうの問題じゃないとアルトは思った。

そして、ミノタウロスを食うなんて死んでも嫌だ。


「………」


アルトが何も言えずにいるとカトリーナが口を挟んだ。


「アイリス、ここは私に任せなさい。私は貴女ほど常識から外れていないので、貴女より彼と話が通じるでしょう」


アイリスはムッとした。


「私の何処が常識外れなのさ?」


「ミノタウロスを美味しい。などとのたまう所ですかね、とにかく、ここは私に任せなさいな」


カトリーナはそう言うとアルトと向き合った。

「さて少年。私達は騎士学校で、魔物の食べ方を教わったのですが、私は正直、あまり食べたいと思いません。それは私だけではなく、大半の騎士達に共通する思いでしょう」


そうだよな…普通、そう思うよな…。

カトリーナの言葉はアルトの知っている常識と重なっていてホッとした。

が、続きがあった。


「しかし、騎士には王と民を守る責務があり、その為ならば個人の感情など犠牲にしなければならないのです。いまこの国はベルーと言うと狼藉者の為に危険にさらされているのです。その危険から民を守る為にはなんとしても、この迷宮から生還して私は領主にならなければならないのです。飢えて死ぬなど許されないのです」


「あ、ああ…」


「少年、あなたは恐らく騎士学校を出てはいないのでしょう。そんなあなたが何故、王命隊などと言う特殊な場所にいるのかは、正直、私には理解できません。しかし、いかにごみ捨て場と呼ばれる王命隊でも騎士団の一つには違いなく、そこに所属するあなたは騎士のはしくれです。民を守る為ならば魔物を食することを受け入れなさい」


「…………」


アルトは口を閉ざした。カトリーナの言葉には説得力があった。少なくともアルトには反論が出来なかった。

が、それでも魔物を食べたくはなかった。

方々は一つしかなかった。

「……………もう、謎はとけてる」


「は?」


「もうこの迷宮の謎は解けている」


アルトの告白に二人は目を丸くした。




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