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38話・最終話・旦那さまには敵わない


「これ、お土産にどうぞ。お義母さまに差し上げて」

「えっ? これは何?」

「琥珀糖と言うのよ。お砂糖とゼラチンで作るの」

「綺麗な青い色。見たこともないお菓子だ」


 わたしはこの間、ベルサザとロミオの母からチョウマメの紅茶を頂いていた。チョウマメの紅茶は青い色になる。それをもとに何かお菓子が出来ないかと考えていたら、前世、よく祖母とお砂糖が余ると琥珀糖を作っていたことを思い出した。

 日干しして乾いていたので、それを瓶に詰めて渡すと、ロミオが驚いていた。


「砂糖の塊みたいなものだから、紅茶を飲むときとかに砂糖の代りとして中に入れても良いかも」

「綺麗だねぇ。良いものを頂いたよ。母上も喜ぶよ」


 ロミオは喜んで、恋人のベンと共に帰って行った。


「いつも済まないな」

「良いのよ。ロミオくんは、あなたの顔がみたいから、ああやって来るんでしょう?」

「うっとうしくてごめん」


 三人掛けのソファーに、二人で隣り合って座る。ベルサザが迷惑をかけてごめんと謝ってきた。


「愛されているじゃない。良い事よ。わたしは一人っ子だったから羨ましいわ」


 ジュリエットがもう少し、まともに育っていたのなら今頃、交流があって彼女が家に足を運んでいたかも知れないのにと、あり得ないことを思ってしまった。


「そう言えばハンスさんと、レノアのところはそろそろ出産になるわね。あの件、ロマーノ小父さまは認めてくれそう?」

「夫の産休と、産後ヘルパーの申請かい?」


 それは小父さまのぼやきから始まったものだけど、最近、小父さまは少子化問題に悩んでいた。特権階級以外の者達が子供をあまり産まなくなっていると言うので、色々調べたら皆、出産に不安を持っていることが分かってきた。

 安心して出産出来る状態になればと考えて小父さまに提案したのは、出産を取り上げる医者や、産婆さんを増やすこと。若い平民は二人暮らしの人がほとんどだから、妊娠したらそれを助けてくれるシステムを作ること。旦那さんの産休を認めること。前世の記憶からちょっと拝借した。

 これらに小父さまは、前回とは違い、すぐに頷くような事はしなかった。見当してみると言ってわたしの案を持ち帰っていた。


「医者とかはどうにかなりそうだ。産後のヘルパーもご年配の奥さま方の協力を得ることは出来たし、あとは夫の産休なんだけど、こっちの方が問題かなぁ」

「女が子供を産むのは当然だし、自分達の手伝いなんているのかと男性達がいい顔をしない。休んで子供の世話をするなんて無理だと言っているやつもいるしね」

「そう、こっちでも難しい問題なのね」

「きみの前世では聞くところによると文明が発達した世界に思われるけど、それでも男性の意識は変わらなかったのかい?」

「初めはそうよ。でも、少しずつ理解してもらって、産休は無理でも奥さんを手伝おうとする若い男性達は増えて来たわ」

「そうか。じゃあ、もう少し頑張ってみようか?」


 わたしの言葉にベルが微笑む。不審に思うと、ベルは胸を叩いていった。


「僕が窓口で動いているからさ。叔父上に頼まれたら嫌と言えないし、愛する奥さんの提案だしね」

「ありがとう。ベル。わたしも協力するわ」

「僕の奥さんは知識が豊富で驚かされたりするけれど、そうやって色々考えて行動しているときが生き生きして見えるよ」

「ありがとう。ベル」


 わたしが前世の記憶持ちな事を、ベルサザはきみ悪がらない。そればかりか何か思いつくと、なになに? と、聞いてくるほど好奇心が強かった。


「あなたという理解者があってのことよ」

「きみは僕の自慢の奥さんだよ」


 ベルサザの膝の上に乗せられる。彼の首に腕を回し、顔を寄せた時だった。いきなりドアが開いた。


「いま、帰ったぞ」

「お帰りなさい」


 慌ててベルサザの膝から降りようとしたら、固く抱きしめられて無理だった。


「なんだ。邪魔したか?」


 父はベルサザの膝の上で固まるわたしと目があい、何ごとも無かったかのような顔をして応接間から出て行った。


「ベル」

「大丈夫だって。僕達は新婚だよ」


 だからと言っても父の前で、親密な様子を見せるのには抵抗がある。父の前ではいちゃつかないようにしていたというのに。ベルサザを批難するように見れば、口づけの再開が始まった。

 前世の記憶持ちのわたしでも、ベルサザには全然構わない。彼の掌の上で転がされているような気がしてならない毎日です。



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