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3章 40話 鍋より先に、考える

商都から戻った翌日、私は台所へ向かわなかった。


本当は行きたかった。鍋を出し、肉を放り込み、煙と湯気の中で答えを掴みたかった。

市場で見たあの乾燥麺の無骨さが、頭から離れない。太く、重く、塩に頼る味。

完成していない食。


だが、私は椅子に腰を下ろし、帳面を開いた。

前世でも、私はよくこれをやった。

思いついた瞬間に動き、材料を無駄にし、あとで段取り不足を悔やむ。

感覚だけで突っ走り、結局は遠回りする。


「……学習しろ」


 小さく呟き、筆を取る。

 まず考えるべきは、何を目指すかだ。

 前世の袋麺の味をこの世界に再現する?

 無理だ。温度計も乾燥機もない。密封包装もない。工場もない。


 だが、塩だけより明確に旨い汁を作ることならどうだ。

 湯を注げば、それなりに整う。

 旅の途中でも、兵の陣でも、宿屋の厨房でも。

 完璧でなくていい。


 「売ってみる価値がある」程度でいい。

 それだけで、意味はある。


私は、鍋の上で起きることを頭の中で追う。肉を煮る。灰汁を取る。香味を加える。

弱火にする。焦げないように、ただひたすら煮詰める。


焦げるのが怖いなら、火を弱くする。それだけだ。

煮汁が濃くなれば、それを薄く広げて乾かす。風に任せる。完全な粉でなくていい。

砕ける薄片でも、粒でもいい。湯に入れて溶けるなら、それでいい。


私は一度、筆を止める。

この程度の工程なら、この町でもできる。

特別な道具はいらない。必要なのは時間と薪と、人の手だ。


人。


そこまで考えて、ようやく現実が顔を出す。

猟師が肉を持ってくる。料理女が鍋を見る。

乾物に慣れた者が乾燥を気にかける。カイが銀貨の流れを確認する。


粉一袋のために、四人。

「……遊びじゃないな」

思わず笑う。

前世なら、自分一人で台所に立てば済んだ。ここでは違う。

町の資源を使う。人の時間を使う。薪を燃やす。塩を消費する。


それでも、やる価値はあるか。

市場で見た相場が思い出される。穀物は一・四倍に跳ね上がっていた。

徴収が来るたびに、町は削られる。


軽い価値を作らなければならない。

私は最後に、帳面の余白へ短く書いた。


十日。

三回試す。

塩を超えなければやめる。

完璧を求めない。

まずは越える。


帳面を閉じたとき、ようやく火を入れる覚悟が固まった。



ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。




この物語は、派手な奇跡ではなく、小さな選択と積み重ねを


大切にして書いています。


リンドの一歩一歩が、少しでも皆さまに届いていれば嬉しいです。




もし続きが気になる、応援してもいいと思っていただけましたら、


ブックマークや評価をいただけると励みになります。




いただいた反応は、今後の執筆の力になります。




これからも静かに、誠実に物語を積み上げていきます。


引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。

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