ネガティブ日和
ウインカーを出す。
ここを曲がれば今日最後の店舗。
この店舗はちょっと苦手。
うちの商品の売れ行きが悪いから。
でも、園田さんと話せるから少し気晴らしになる。
園田さんは別に異性とかではなくて、アニメ好きのただのオタク。でも、俺が園田さんの推しキャラのイラストを描くとすごい喜んでくれる。それを見て、また、お絵描き頑張ろうってなる。
「園田さん、お疲れ様です」
ワンフロアに全ての種類の家電が売られているこの店舗。
そのパソコンコーナーで、園田さんは、商品の整理をしていた。そして、俺に気づいてくれた。
「あ、お疲れ様です! いやー、でも今週は割と御社のパソコン売りましたよ!」
「え! 売ってくれたんですか?」
「はい! この新しいモデル? ユーチューブの企画で始まったって説明して、スペックとやっぱバッテリーの持ち? からのトークで! 本当教えてくれたおかげです」
「いやー、ありがとうございます! ほんと助かります! 園田さん、もしよかったら、また、描いてみたんで」
そうして、四つ折りにしたイラストを隠すように渡す。
「ありがとうございます! 嬉しい! けど、なんか毎回賄賂みたいな渡し方するの面白いですね」
「いやいや、これは一種の賄賂なんで」
「なにをゆうてるんですか」
2人でハハハと笑う。いかにもtoB営業トークくさくてなんか笑けてくる。
「……あの」
園田さんが、何か、誰にも話せなそうなことを話そうとしている。
「……僕、やめようと思うんです。この仕事」
「……そっ、か」
「続けようと思ったんです、でも、実は精神科の医師に止められてて……」
少し泣きそうになりながら、俺が描いた紙を開く。
そのイラストは、俺が一生懸命描いたイラスト。実は俺も、園田さんがなんとなく、辛そうにしているのはずっと気づいていて。園田さんは、俺と同い年くらい。社会人経験は多分まだ数年しかないんだろうなって感じ。
だから、元気づけようと思って。
そして園田さんは、口を開く。
「でも、こうやって、売ってくれてありがとうとか、言ってくれたり、本当に、そういう言葉とか、このイラストも、僕の、励みになってる、それでも、しんどい時はしんどくて」
「すみませーん」
洗濯機コーナーから、俺たちの商談を見ているお客さんの声がかかった。
「はい、いま行きまーす」
そうして園田さんは、俺の渡したイラストをポケットにしまい、接客へと向かった。
運転しながら、支店に帰りながら思う。
多分、悩みは人それぞれで。
しんどい時もあれば、しんどい時もあって。
そんなもんなんだろうなって。
俺の絵が誰かを元気づけてる。誰かの力になってる。それが嬉しい。それはそうなのに。
なんで人って、夢を、持ってしまうんだろう。
なんで、有名になりたいとか、恋をしたいとか。
思う感情なんて、なくなればいいのに。
大人になるにつれて、だんだんと、そう思えてくる。




