第86話「女神と美少女の共通項⑤」
※前話に引き続き、今話は一時的に、主人公視点ではなくなります。
何卒宜しくお願い致します。
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魔獣ケルベロスと妖精猫ジャンは、予定した方向へ駆けている。
リゼットの夢の場所であるハーブ園から、少しでもゴブの群れを引き離す為だ。
時折、ジャンが足を引きずるようにして見せるのは、
作戦通り、手負いのように擬態しているからである。
猿を凶悪にしたような面構えのゴブどもは、
小柄な体躯であるにもかかわらず、食欲は旺盛だ。
雑食であり、食べられるものは、何でも食べると言っても過言では無い。
300体以上の大群であるゴブの腹が、犬と猫たった2匹では到底、満たせる筈はない がしかし、「目の前の獲物を捕らえろ!」という本能が思いっきり働いていた。
その上、ジャンは手負いだと偽っていたのである。
「見逃す」などという判断を下すなんて、ゴブどもには考えも及ばなかった。
背中が、とても「ひりひり」する。
ジャンはそう感じていた。
「捕らえて、餌として思い切り喰らってしまいたい!」
ゴブリンどもの放つ、どろどろした食欲という本能の波動が、
ジャンの背中を刺激していたのである。
そんなこんなで、 もう2kmは駆けただろうか……
足が少し疲れて来た。
だが、ケルベロスの言った5kmにはまだまだ足らない。
くっそ! 頑張るぜ、人間族のあの子の為に!
あの子は……リゼットは本当にいい子だ。
誰にでも優しくてまるで天使さ。
あんな、ケンなんかには勿体ないがな。
まあ、……あの子がべた惚れしているから、仕方が無いか……
妖精猫のジャンには分かる。
リゼットの柔らかい眼差しと、放たれる爽やかな春風のような波動……
後から追いかけて来る、腐れ野郎のゴブどもとは大違いだと、
ジャンは苦笑したのだ。。
と、その時。
少し先を駆けるケルベロスが止まると、いきなり話し掛けて来た。
戦闘が始まってから、ケルベロスはずっと無言であった。
まるで「無駄口などは、一切不要」と言わんばかりに。
だが、魔獣――魔犬の口から、いきなり発せられたのは、
衝撃的ともいえる発言である。
『おい、猫。そろそろ、俺の背に乗れ』
『は!? 俺の背?』
一体、何を言っているのか!?
ジャンは耳を疑った。
白昼夢とまで思ってしまう。
初めて会った時から、そう思ったし、実際、事実であったが……
魔獣ケルベロスは誇り高い男である。
主たるケンに召喚された縁で、いやいや付き合って来たが……
初対面ですぐに分かった。
常にジャンを見下す態度といい、物言いといい、
まるでプライドの塊だとジャンは感じていたのだ。
それなのに……ケルベロスは、ジャンの馬代わりをするというのである。
『こら! 何をぐずぐずしている! 早く乗れ!』
『ど、どうして!?』
ジャンは、やっとの事で絞り出すように声を出して聞く。
『とりあえず乗れ! 話はそれからだ!』
『わ、分かった』
そこまで言われては ジャンは、もう遠慮しない。
ケルベロスに「ひらり」と跨った。
うおおん!
背中にジャンを乗せたケルベロスは、ひと声吠えると、また走り出したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ハーブ園からは充分離れた場所で……
ジャンを背に乗せたまま、ケルベロスは冥界の猛炎を吐き、
ゴブリンの群れを蹴散らした。
魔法も知恵も使えず、ただ数を頼んで戦うしか能のないゴブリンは、
相手の強さに敏感であった。
ケルベロスが、到底敵わない一騎当千の強大な相手だと知ると、
一気に戦意を失ったのである。
数多のゴブどもを噛み砕き、強靭な足で張り倒したケルベロスが、
「にやり」と笑う。
『ふむ! そろそろいいだろう。俺から降りて、奴らと存分に戦い、手柄を立てよ』
『え!?』
ジャンはケルベロスの背に跨ったまま、ポカンとしてしまった。
おいおいおい! 俺が手柄を立てるだと!?
一体、こいつは?
また何を……言っているんだ?
お前が、殆どゴブどもを倒し、大勢は既に決しているではないか!
『猫よ、奴らの生き残りは、まだ100は居る。これだけ倒せば、誰も、お前の強さを疑わない』
今の言葉で、はっきり分かった。
ケルベロスは、ジャンを助け、『男』にしようとしているのだ。
『おい! ケルベロス、お前……』
『さあ、行って来い! 俺も援護する!』
『わ、分かったぁ! ふぎゃー!』
ジャンは、雄叫びをあげ、ゴブリンの群れに突入した。
妖精猫の武器は、
信じられないほど素早い身のこなしを備えた身体能力。
そして岩をも切り裂く、切れ味鋭い爪、そして頑丈な牙である。
飛び散る血しぶき。
そして断末魔の悲鳴。
夢中になって戦うジャンを、ケルベロスはさりげなくサポートしている。
何と! ふたりの呼吸は、
まるで歴戦のコンビのようにぴったり合っていた。
――1時間後
……ケルベロスとジャンのコンビは、一方的な勝利を収めていた。
300体以上居たゴブリンの群れは、あちこちに無残な屍をさらしていたのである。
生き残りは僅かに数体居たのだが……とっくに逃げ出していた。
これで勝負はついた。
ふたりは身繕いをし、返り血などを綺麗にした。
このままでは主達の前に出られないから。
そんな身支度が終わった後……
不思議な事にケルベロスはジャンを再び、背中に乗せて主の下へ急いでいた。
『どうして……』
「聞きたい事がたくさんある」と、ジャンは思う。
『お前を背に乗せたのは、理由がある。お前達、猫族の身体は、長距離を走るのには、向いていないからな』
『…………』
対して、ジャンは、黙っている。
そんな表向きの理由ではない、本当の!理由が知りたいのだ。
そう! ケルベロスの『真意』が、聞きたいのである。
しばし経ち、ケルベロスは面白そうに笑う。
『くくく、俺がそんな理由で、乗せたのじゃないと言いたげだな』
『そうさ、どうしてか、聞きたい! 戦いの事も含めてな』
『うむ、俺はな、お前の言葉に、心を打たれたのだ』
『え!? 俺の言葉に……心を打たれた?』
『……貴方の夢を……叶える為に、戦う……まさに、主の為、身を挺して忠実に戦う騎士の、言葉だからな』
ケルベロスの目が、わざと遠くを見ている。
敢えて、ジャンと目を合わせないようにしているようだ。
ジャンも視線を外し、軽く息を吐く。
『ふう、何でかな? ……俺、リゼット奥様の優しい笑顔を見たら……自然に気持ちが出ちゃったんだよ』
『うむ! お前は、俺と同じ、漢だ。……これからも、頼むぞ』
『ふん……分かった。ありがとよ! 恩に着るぜ、ダチ公め』
そう言って、ジャンは、自分でも驚いていた。
あれだけ嫌っていた相手が、もうかけがえのない親友だと思えたのである。
しかし、ケルベロスの素は変わらない。
『ダチ公? 相変わらず、下品な言い方だ』
『うるせ~! 俺っちはな、そういう育ちなんだよ』
……相変わらずケルベロスは、ジャンを乗せて走り続ける。
と、やがて……
主であるケンと奥方リゼットが、
大きく手を振っているのが見えて来た。
ケルベロスとジャンは、それを見て、嬉しそうに笑ったのである。
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