第70話「真夜中の訪問者①」
異界から呼び出した俺の従士、妖精猫のジャン。
俺の指示に従い、宿の窓から屋外へ、ぱっと出て、
町中を、素早い身のこなしで、
どんどん、どんどん、凄まじい速度で駆け抜けて行く。
初めて知ったけれど、猫の目って色が曖昧に見えているんだ。
夜だと、殆ど白黒に近いらしい。
そして、当たり前なのだが、猫の視線はやたらに低かった。
地面より、ほんの少し高いくらいか。
ここで、ジャンの、心の声が聞こえて来る。
『お~い、ケン様ぁ、何だか、気持ち悪いよぉ……』
『おお、そうかい? たいした事ない、大丈夫! 大丈夫!』
『はあ? 本当に大丈夫なのかよ? 猫ごとだと思ってよ! 俺の目を通してさ、ケン様も景色を見ているんだろ?』
『ああ、ばっちり見えているぞ。お前は今、確実に俺の役に立っている。安心しろ』
俺とそんな会話をしながら、ジャンは機敏な動きを見せる。
猫特有な、キレッキレッという奴だ。
走る速度も相当なもので、あっという間に中央広場を抜け、
城館がそびえる丘を駆け上がった。
ちなみに猫は最高速度、時速40㎞以上らしい。
その代わり犬よりも持久力では劣る。
例えれば、短距離走のトップアスリート。
獲物を追いかける時などに、素晴らしい瞬発力を発揮するのだ。
当然ながら、妖精猫のジャンは、
通常の猫より遥かに遥かに速く走る。
多分だが、時速70㎞は楽に超えているだろう。
見やれば、景色が、飛ぶように変わって行く。
ジャンの視点で移り変わる景色を見る俺は、
まるで前世のレーシングゲームを遊んでいるみたいな感覚なのだ。
だが、エモシオンの町はそんなに広大ではない。
そんなこんなで、ジャンはすぐ、オベール家城館の正門前に着いた。
夜中なので門番などは居らず、木製の正門は固く閉ざされている。
さすがに、約15mほどありそうな正門の真上は飛び越えられないと見たのだろう。
ジャンは左右を見渡すと、城壁が低くなっている場所を探した。
低い場所といっても、城壁は8m以上は楽にある。
しばし、うろうろしたジャンは、「ここだ!」と目星をつけたらしい。
飛び上がる位置の狙いを定めると、
猫特有の『お尻振り振り』をして、ぱあっ!と城壁の上に飛び乗った。
ジャンが見やれば、城壁の内側は、芝が一面に植わっていた。
飛び降りて、ダメージを受けずに着地するには好都合だ。
さすが妖精猫、音も立てずに、すたっ!と地面へ飛び降りた。
そして……ジャンが居る、目の前には城館がある。
典型的な中世西洋風、石造りで4階建ての城だ。
果たして、目指すステファニーはどこだろう?
このような時には、索敵の魔法だ。
昼間、あれだけお尻を叩いて、悲鳴ともいえる心の、……魂の波動を感じた。
それゆえ俺はステファニーの『気配』を覚えている。
反応さえキャッチすれば、居る場所の特定は容易なのである。
『ええっと……どこだあ? 貴族のお姫様はよお?』
ジャンも、きょろきょろ左右を見渡す。
と、そこへ俺が指示を入れる。
『ジャン、今、俺が索敵の魔法を掛ける。お前の身体を通じて発動するぞ』
『え!? やや、やめてぇ~!』
俺が魔法を発動すると、やはりジャンの身体は相当痺れるらしい。
おお、クッカの言った通りだ。
ビリビリビリ! ビリビリビリ!
身体が痺れ、感じた痛みから、思わず、ジャンはひと鳴き。
「にゃおん!」
「あれっ!? あんな所に可愛い猫ちゃんが居る」
ひとりの少女が、4階の窓から身を乗り出してこちらを見ている。
何と!何と! 偶然にもステファニーであった。
これこそ、怪我の功名という奴である。
魔法発動の痺れに耐え切れず、思わず鳴いたジャンの声。
猫好きのステファニーが、たまたま聞きつけたのだ。
綺麗な女子の声に気付いたジャンは、ステファニーの居る窓を見上げた。
城館の石造りの壁面は所々でこぼこしているが、
角度はほぼ直角でいくら猫でも登るのは難しそうだ。
案の定、ジャンは泣きを入れる。
『ケン様、いくら妖精猫の俺でも、さすがに垂直の壁は無理だ』
『分かった、俺が転移魔法を使う。その前に役得だ、ステファニーと念話で喋らせてやろう』
『うおおおお! 美少女と直接、会話っすかあ!? ラララ、ラッキーぃ!!!』
狂喜するジャン。
何なんだ、こいつは……
俺は早速、魔法を発動する。
ジャンの心とステファニーの心が魔法の波動で繋がった。
こういう事も、全てクッカから教わっている。
『そら、呼び掛けてみろ』
『ええっと、俺はジャン。スス、ステファニーちゃんかい?』
猫がこちらを見詰めた上、何と念話で話し掛けて来た。
なので、ステファニーは仰天したらしい。
目を大きく見開いて、手で口を押えている。
『お~い、ステファニーちゃわ~ん』
「!!!???」
ジャンは文字通り猫なで声でステファニーに呼び掛ける。
しかし庭に居る猫から何故、心へ声が届くのか?
ステファニーには全く理解出来ないらしい。
まあ、当たり前だよな。
『へへへ、俺はジャン! 妖精猫のジャンさ』
『え、えええっ!? 猫が私の心に喋ってる!?』
『だ・か・ら・ぁ! 俺はジャン。ただの猫じゃないの、妖精猫なの! それよりさ、すっごく可愛いんだってね、君』
『あ、あの~……』
『ねぇねぇ、暇してるんだったらさぁ~。今度、遊びに行かない?』
ジャンの執念は、もの凄い。
いつもの、いいかげんを絵に書いたような、淡白な軽いチャラ男が、
嘘のように自分をアピールする。
こいつ、女の子の事となると。こんなにも、まめで熱いんだ。
しかし、もう潮時じゃね。
『ごら、ジャン。いい加減にしろよ! もう良いだろ』
『え~!!! もうちょいで落とせるのにぃ』
はあ? 落とせる?
こいつ……ナンパのつもりか?
何、考えているんだ?
ここまで来て、正気か?
本当に良い根性してやがる。
いや、俺も……少しは、見習うか、ジャンの女子への執念。
否、ひたむきな献身を。
苦笑した俺は、ジャンにきっぱりと言い放つ。
『お前なぁ……俺の指示に従わないと、また魔法を掛けるよ、今度は失神するくらい強力な奴』
『ひ、ひえっ! わわわ、分かりました』
俺の怒りのこもった言葉にジャンは即、ステファニーへの『口撃』を取り止めた。
『???』
いきなり会話に乱入して来た俺の声を聞いて、
ステファニーはやはり、びっくりしたようである。
これ以上、ステファニーが驚かないように、俺はゆっくりと話し掛けた。
『悪い、……ステファニー、御免な……俺だよ』
……聞き覚えのある声。
更に驚いたのであろう、ステファニーの心の波動がさざめく。
『え? 今度は誰? ……い、いえ!! こ、この声は!? も、もしかして!!』
『ああ、頼むから、このまま念話で話してくれ。見つかったら大騒ぎになるから、絶対に大きい声を出さずにね』
『えええ!? や、やっぱり! ケン!? も、も、もしかしてケンなの?』
俺の声を、確かめようとするステファニー。
じゃあ、ステファニーの期待に応えてやるか。
『そう、ケンだ。こいつは俺の従士である妖精猫のジャン、こいつの心を通じて、俺達は喋る事が出来るんだ』
『ケ~ン!!!』
ステファニーが、心で叫ぶ。
俺とジャンにしか聞こえない彼女の心の叫びが、喜びの声が、
オベール家の城館の庭に、大きく大きく響いていた。
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