第68話「ステファニーの事情」
『うう、駄目ぇ!! ケン!! ケン!! もう離さないでえ!! 絶対に私を離さないでぇ!!』
領主オベール様の娘ステファニーは、心の声で叫びつつ、必死に俺へしがみつく。
彼女の顔を良く見ると、完全に化粧は剥がれ落ち、素顔が露わとなっていた。
意外と言ったら失礼だが……
『険』が取れた素顔のステファニーは、
貴族の娘らしく凛とした品があり、且つ可憐だった。
おお! とんでもなく美しい、フランス人形と化している!
俺は、彼女の品と可憐さについ感動してぽつりと言う。
『ステファニー……お前、素顔の方が何倍も、いや何十倍、何百倍も可愛いぜ』
『え!?』
俺の褒め言葉を聞いて、しがみつくステファニーの腕から力が消えた。
おお、丁度良いタイミングだ。
脱力したステファニーを抱えたまま、俺は彼女と共に、ゆっくりと立ち上がった。
「ぽかん」としているステファニー。
俺は優しく離して、彼女と向き合う。
『安心しろ。あと1分後には喋れるようになる。同時に、お前の従士達も魔法が解ける筈さ』
『え!?』
『ステファニー、もう俺の事は忘れてくれ……だが、さっきの約束は守ってくれよ』
『は、はい……』
『お前は可愛くて綺麗だし、本当は凄く良い子だ』
『え!?』
『絶対に幸せになれよ……じゃあ、さよならだ』
俺との抱擁を解かれたステファニーは、呆然としたまま立ち尽くしている。
虚脱状態のステファニーへ手を振りながら踵を返すと、
俺はレベッカ達が待っている店へ戻って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
こうして……俺は嫁ズの待つ店へ無事に戻った。
席へ着くと、レベッカとミシェルは身を乗り出して来た。
俺がどうやってステファニーの魔手から逃れたか、知りたいらしい。
「まあ、それはここではなく、場所を変え、落ち着いてからな。トラブルは何も起きないだろうから、それだけは安心してくれ」
俺は、澄ました顔でお茶を濁す。
ここで顛末を詳しく話すと、驚いた嫁ズの声が大きくなるのは確実だからだ。
下手に誰かに聞かれでもしたら、大騒ぎになる。
そうなると、話は自然にステファニーの生い立ちや現在の事情へと変わった。
まあご領主様の娘の話だって、やたらに大声で喋って良いわけがない。
当然ながら、声のトーンを極力押えた口調となる。
ステファニーの事を詳しく知っているのはミシェルなので、
俺とレベッカが聞き役となった。
「あの子はね……本当に可哀想な子なのよ」
「え?」
「本当に可哀想って、何?」
俺とレベッカは、ミシェルの意外な切り出し方に驚いた。
あの高慢で、我儘し放題のステファニーが本当に可哀想って、
一体どういう事だろう?
「あの子……ステファニー様のお母様が、数年前にお亡くなりになってね。しばらくは父と娘、ふたりで仲良く暮らしていたの」
ふ~ん……
ステファニーのお母さん……もう亡くなっていたんだ。
「ふんふん」と頷く俺とレベッカを見て、ミシェルは話を続けた。
「去年の話……16歳になったステファニー様に、婿を取ろうという話が持ち上がったわ。オベール家の寄り親にあたる、王都のさる上級貴族のご子息という噂だったのよ」
へえ、ステファニーの縁談? 婿取り?
って、去年16歳ならば、今のステファニーは17歳で、俺よりも2歳上か……
俺はそう詳しくはないが、貴族の結婚って、多分、
利害関係ありきの政略結婚だろう。
こういうのって、一度も会った事無い、全く見知らぬ相手と、
いきなり夫婦になる事が多い、というイメージがある。
貴族の男=傲慢という微妙なイメージも、俺にはある。
であれば、ステファニー、……大変だな。
俺達の反応を見て、ミシェルは際どい話に踏む込んで行く。
「だけどね、驚いた事に、王都から来たのは、ステファニー様のお婿さんではなかったのよ」
「え? お婿さんとは違うって?」
「一体、誰が来たの?」
「それがね、ステファニー様と同じ貴族の娘……それもバツ2の23歳だったの」
おいおい、それって!? 百合?
いや、違うだろ!
王都から来た貴族娘の『結婚相手』はステファニーじゃない。
まさか! ステファニーの縁談じゃないって事?
俺とレベッカは、顔を見合わせた。
「そう! 今、旦那様とレベッカが思った通りよ。もう少し補足説明するとね」
「…………」
「…………」
「寄り子のオベール様を直属の部下として、もっと深く取り込みたい……王都の上級貴族にはそんな思惑があったらしいの』
「…………」
「…………」
「上級貴族の次男とステファニー様の縁談は一応は進んでいたの。だけど、たまたまその上級貴族には、嫁ぎ先から離縁された23歳の長女が居たのよ」
「…………」
「…………」
「上級貴族はね、予定していた次男をステファニー様の婿として送るより、この長女をオベール様の再婚相手として送り、オベール様を自分の義理の息子にした方が全然良い。自分の思惑が叶った上で、上手く纏まる、と思ったみたい」
うお! 凄いな! それ!
利害のみで考える結婚、ここに極まれりって奴だ。
王都で育った上級貴族の娘ならば、
こんな遠くの田舎へイヤイヤ来たのが目に浮かぶ。
ステファニーにしろ、その上級貴族の娘にしろ、
この世界の上流階級女性って……親とか兄弟とか、男の都合で単なる駒にされる。
ホント、気の毒だなぁ……
俺が「つらつら」考える間も、ミシェルの話は続いている。
「最初はひどく戸惑ったオベール様だったけれど、このバツ2娘が、とても美しかったからすぐ夢中になっちゃったの。即、年の差結婚、つまり再婚して、43歳のオベール様が、今や、20歳年下の、この新しい若奥様にベタ惚れなのよ」
何だよ、それ……良くある童話みたいになって来たぞ。
まあ、洗練された都会の若い女性にコロッと参ったんだろうなぁ……
ここのご領主オベール様は。
「そうなると、ステファニー様は全然面白くないわよね。母と言うよりも自分の姉のように若い、新しいお母様とも全く馴染まなかったようだし……そのうちに、自分に仕える者を手駒にして対抗しようとしたの」
成る程! 義母と娘の確執か。
でも、したの……って、過去形だな。
「だけど……その新しい若奥様は結構なやり手だった。ステファニー様の側につく、従士達を逆に取り込んでしまったのよ」
ミシェルは、ふうと息を吐き、話を続ける。
「結局、味方として残ったのはさっき居たあの3兄弟だけ……3兄弟は子供の頃からステファニー様へ仕えていたから、若奥様の懐柔工作も通じなかったらしいわ」
そうか……それでか。
ようく、分かった。
話が、見えた。
だからステファニーは下僕という名の『部下』で俺を欲しがったのか。
ちょっと可哀想だな、あいつ。
だけど……ご領主オベール騎士爵家、内部の権力争いなんて、
単なる領民で、平民の俺が出て行っても仕方がない。
下手にかかわって、そんな面倒ごとに巻き込まれるなど真っ平御免だ。
ボヌール村へ変な影響が出る可能性もあるし。
俺は気分を重くしながら、冷めた料理を口に運んだのである。
いつもご愛読頂きありがとうございます。
※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。
宜しければ、下方にあるブックマーク及び、
☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。
東導号の各作品を宜しくお願い致します。
⛤『魔法女子学園の助っ人教師』
◎小説書籍版既刊第1巻~8巻大好評発売中!
《紙版、電子版、ご注意!第8巻のみ電子書籍専売です》
(ホビージャパン様HJノベルス)
※第1巻から8巻の一気読みはいかがでしょうか。
◎コミカライズ版コミックス
(スクウェア・エニックス様Gファンタジーコミックス)
既刊第1巻~5巻大好評発売中!
《紙版、電子版》
何卒宜しくお願い致します。
コミックスの第1巻、第3巻、第4巻は重版しました!
皆様のおかげです。ありがとうございます。
今後とも宜しくお願い致します。
また「Gファンタジー」公式HP内には特設サイトもあります。
コミカライズ版第1話の試し読みも出来ます。
WEB版、小説書籍版と共に、存分に『魔法女子』の世界をお楽しみくださいませ。
マンガアプリ「マンガUP!」様でもコミカライズ版が購読可能です。
お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、
⛤『外れスキルの屑と言われ追放された最底辺の俺が大逆襲のリスタート! 最強賢者への道を歩み出す!「頼む、戻ってくれ」と言われても、もう遅い!』《連載中》
⛤『冒険者クラン新人選択希望会議でドラフト1位指名された無名最底辺の俺が、最強への道を歩みだす話!』《完結済み》
⛤『頑張ったら報われなきゃ!好条件提示!超ダークサイドな地獄パワハラ商会から、やりがいのあ
る王国職員へスカウトされた、いずれ最強となる賢者のお話』《完結》
⛤『異世界ゲームへモブ転生! 俺の中身が、育てあげた主人公の初期設定だった件!』《完結》
も何卒宜しくお願い致します。




