第65話「下僕になります!(嘘)」
「ちょっと、待ったぁ」
俺は、迫って来た3人の男達を制止させようと、大きく両手を挙げた。
やや、オーバーアクション気味だが、効果はバッチリ。
勢い込んで来ようとした、ステファニーの従士らしい男3人も反射的に止まる。
いやいや、だって、ここで暴れては、まずい、絶対にまずい。
この店に迷惑がかかるだけではなく、衆人環視の目に晒されれば、
俺の『秘密』がバレる可能性も高くなるもの。
なので、ここは、とりあえず穏便に『降伏』だ。
「ええっと、気が変わったっす。俺、ステファニー様の従士になりますよ」
「ふん! 決めるのが遅い! それに勘違いしないで! 従士じゃなくて下僕よ!」
「はぁ……」
「良い? 下僕はね、私の命令、全てに、忠実に従うのよ!」
「ですか、かしこまりました」
「ああ! かしこまりましたって! 生意気な男を屈服させるって、何て気持ち良いのかしら」
従士じゃなく、下僕。
わざわざ、言い直し、下僕とは何ぞやと、語ったステファニー。
生意気な男を屈服させる事が、気持ち良いだって?
ああ、こいつはひどく歪んでるぞ。
やっぱり、こういう子を『悪役令嬢』というのだろうか。
え? ちょっち違うって?
まあ、ステファニーは、領主の娘である事も相まって、
根っからの『女王様体質』なのだろう。
男を従わせ、顎で使う事が、メチャクチャ好きらしい。
今だって、とんでもない快感を覚えているらしく、
小さな拳を握り締めながら「ぶるぶる」と身体を震わせていた。
こんなの、俺から言わせれば、とんでもない変態だ。
改めて言う。
見た目が派手だけど、近くでステファニーを見ると結構可愛い。
はっきり言おう。
黙っていれば、美しき令嬢。
だが、口を開けば、がっかり令嬢。
可愛いのに凄く『痛い子』、それが、ステファニー。
俺が、冷めた目で見ていたら……
ステファニーの奴、敏感に察知したようで、こっちを睨んでいる。
「ケン! 何、貴方、その呆れたような目は? まだ反抗する気?」
「いいえ、滅相もございません」
「じゃあ、これからは大人しく私に従って貰うわ。とりあえずウチのお城まで来るのよ」
「了解っす」
「ダ~リ~ン!」
「旦那様!」
レベッカとミシェルは、俺がステファニーに連れて行かれると知り、
切なげに叫んだ。
ステファニーは、嫁ズのそんな悲しみも快感なのだろう。
さも面白そうに、「けたけた」と笑う。
ああ、意地が悪いな、この子は。
「ふふふ、ケン……それで、この女達はどうするの?」
「いやあ、ステファニー様の下僕になるのでしたら、仕方がないので別れます!(きりっ)」
俺は直立不動、無表情で、ステファニーに向かって敬礼する。
実は、あまりにも馬鹿馬鹿しいので、笑うのを必死に堪えている。
「お~ほほほほほ、よ~し、よし。ようやく私の奴隷、いえ、下僕になる覚悟を決めたようね」
高らかに、笑うステファニー。
やっぱ、コイツは悪役令嬢、ドが付くSお嬢様だ。
「ダーリン! そんなぁ! え?」
「旦那様ったら、何言って……!?」
レベッカとミシェルの悲しみの言葉が、驚きの感情と共に、途中で止まる。
振向いた俺が、笑顔でウインクしたからだ。
ステファニーや従士達からは、俺の表情は見えないからバレてはいない。
『合図』を受けた、レベッカとミシェルは黙り込んだ。
昨夜のカミーユ達の件もあったし、俺に何か考えがあると理解したようである。
心と心の会話、念話を使って、俺の意思を伝えようかと、思ったがやめておいた。
レベッカ達は、念話がまだ未経験。
いきなり使うと、びっくりして大騒ぎするかもしれないし。
それは、非常にまずい。
だからこの場では使わないが、嫁ズ全員とはいずれは念話が使えるようにおこう。
うん、それが良い。
「店主さん、食事は中止よ! 私達、お城に戻るから。食べたお金はお父様へ請求して!」
「はい、かしこまりました、お嬢様」
ステファニーは、店主が従ったのを聞いて満足そうに頷いた。
ああ、自分の思い通りに行くと嬉しいんだ。
「アベル、アレクシ、アンセルム、さあ、行くわよ。ケン、私が先頭を歩くから、最後方から着いて来て!」
先頭に立ったステファニーは、結構切れが良い動きを見せて、
さっさと歩いて行く。
こうして……俺は、ステファニー主従について店を出たのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
プリムヴェール王国の最南端に近い場所に位置するエモシオンの町は、
典型的な地球の中世西洋風の町。
中央広場を中心にして放射線状に伸びた道により各区画が分かれている。
だが、ここは辺境ともいえる片田舎の町である。
中央広場自体は極めて小さく、直径は200mほどしかない……
その周囲に、小規模な造りの様々な商店が40軒余り連なっている。
そして町から少し離れた小高い丘の上に、
領主オベール騎士爵様の城館があるのだ。
当然ステファニーは、その城館へ向かっている。
彼女が居住するその城館へ俺を連れて行って、
住み込みの下僕として召し使うらしい。
下僕ねぇ……
確かに美少女と四六時中、一緒に居るのは嫌ではない。
だが、ステファニーのわがまま、傲慢な性格ならば、散々顎でこき使われて、
機嫌が悪い時は罵倒されるのは確実。
挙句の果てに、「地べたに這いつくばって私の靴を舐めろ」なんて、
言われたら敵わない。
虐められるのが嬉しいM体質の人には、ウエルカム! であろうが、
俺にそのような趣味はない。
『うふふ、ケン様、そろそろですかねぇ』
空中から、クッカがほほ笑み掛けて来る。
食事の際は姿が見えなかったが、
彼女は店を出るとすぐに現れて、俺を見守っていた。
最近のクッカは、他の嫁ズとの兼ね合いを理解し、
登場する頻度を、とても良く考えている。
今回も、絶妙なタイミングで現れたのだ。
『あの辺りで……いかがでしょうか?』
クッカが指差した方向には、完全に人気の無い路地があった。
俺の索敵でも、路地に人間の気配は皆無。
愛する美・女神妻が、そろそろと言う通り、
もう『下僕ごっこ』は終わりとしよう。
そう決めた俺は、神妙な顔付きになって、頭を深々と下げた。
「ええっと……ステファニー様、皆様……ちょっと宜しいですか? 私からぜひ、お話したい事があるのですが、そこの路地でちょっと……」
俺の突然の申し出に、
ステファニー達4人は、怪訝な顔をして振り返ったのである。
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