第176話「男同士で出発だ!」
俺の提案を聞いて、不満そうな声を出したレベッカ。
頬を膨らませ、口を尖らせて抗議をしている。
いつもの狩りのメンバーである、クーガーが不在。
遂に遂に! 俺と、ふたりきりになれる、絶好のチャンスだと思ったのだろう。
とても残念そうな表情をしている。
「いや、悪い! ちょっと思うところがあってさ」
俺は、申し訳なさそうに両手を合わせた。
一方、頭上に、「ぱっ!」とLED電灯を灯らせたのはクーガーだ。
相変わらず勘が鋭い。
「あ~、分かった! たまには、『男同士』でって事でしょう?」
うお! ピンポーン! 大当たり!
図星である。
でも男同士って、結構ベタ。
俺は、軽く頭を掻く。
「おお、さすがだな。実は、そうなんだよ」
「ふ~ん、男同士ねぇ……良く分からないよ、それ」
クーガーから言われても、レベッカは半信半疑だ。
俺のフォローをしようとするクーガーは、レベッカを説得にかかる
「ねえ、レベッカ、聞いて」
「何よ?」
「あのさ……夜寝る前に、私達が、女子同士で話し込む時ってあるじゃないか。お茶を淹れ、菓子まで用意してさ。それで話に夢中になって、下手をしたら、時間を忘れて、朝まで盛り上がる……あれと同じさ」
おいおい、何だ? 嫁ズは、俺の知らない所でそんな事してたの?
たまに、凄く辛そうな表情で「眠~い!」とか言っていたのは、
そんな、夜更かしが原因なのか。
「あ~、成る程ね! クーガー、分かり易いよ、それ」
レベッカは、ポンと手を叩く。
クーガーの説明を聞いて、すぐ理解したようだ。
「分かった、納得したよ、ダーリン。留守中、村の事は私達に任せておいて。もしも何か、あったら、クーガーか、クッカに頼んで念話を使い、すぐに報せるから」
「おお、分かって、くれて良かった、今度ふたりでデートしような」
「うん! 楽しみにしてるっ」
他の嫁ズは、納得してくれていたので、
レベッカが理解してくれて、ようやく話は、まとまったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺はその夜、嫁ズが寝静まってから、従士達に声を掛けた。
当然ながら、会話は『念話』である。
3人の従士のうち……
ふたり——ケルベロスとベイヤールは喜んだ。
ケルベロスは硬派な地獄の魔獣、一応、外見は狼犬。
だけど最近は、奥さんのヴェガと子供達に、優しいマイホームパパと化していた。
それが、俺のお供と言う公式な理由で、堂々と出かけられる。
男同士の気ままな旅の上、思う存分暴れる事が出来るのは、大歓迎だと言う。
そして、某悪魔の騎乗馬だったベイヤールは、人語を話す事はない。
だが、心へ直接、意思を伝えて来る。
荒野を駈け巡り、魔物をバンバン!蹴散らしてやる!
と、気合いの入った意気込みを示したのだ。
しかし!
唯一、不満を洩らしたのが妖精猫のジャンだ。
『クーガーの姐御は、体調不良だから不参加ってのは、納得しますがね。何故、元気なレベッカの姐御までが、不参加なんですかい?』
口を尖らせるジャンに、俺は言う。
『いやいや、たまには、男同士で話そうと思ってな』
俺の言葉を聞いたジャンは、首を傾げて、抗議する。
『はあ!? ケン様の奥様方は皆、美女揃いじゃないですか! レベッカの姐御だって「きりり!」とした美顔で、スタイル抜群ですぜ』
『ああ、まあ、確かにそうだ』
『じゃあ、何故!? 何が悲しくて、野郎同士で、それも原野なんかに、行かなくちゃならんのですか! むさ苦しいだけですよ!』
『ま、まあな……』
『女子が不在で、華が無くちゃ、暗くて、つまらないですよ、そんなイベント』
健全な男とすれば、確かにジャンの言う事は分かる。
俺が、口ごもるのを見て、叱る者が居た。
お約束たる、ケルベロスである。
『おい! 生意気なことを言うな! この、駄猫め!』
ケルベロスから叱られ、ジャンは逆切れする。
『ああっ、てめ! ケルベロス! 駄猫だと! それを、二度と言わないって約束しただろう?』
『ふん!』
どうやら、ケルベロスとジャンは何か決め事をしていたようだ。
しかし、ケルベロスは取り合わない。
スルーし、鼻を鳴らして却下。
ジャンは引き続き、悔しそうに抗議する。
『ああ、く、糞っ! て、てめえ! せ、先日! 男としてお互いを認めたとか、敬うとか、言っていたじゃないかぁ!』
『はん! 約束だと? そんなものは、たった今、撤回だ。そこらの、豚にでも、食わせやがれ!』
『な!? 撤回!? 何だと! 犬! てめえ! き、汚ねぇぞ!』
『ふ! 主人を敬わない、くそ従士との約束など、守る必要も無い!』
『しゅ、主人を敬わない、く、くそ従士だと!? な、何、言ってる! 俺っち、ケン様を、う、敬っているじゃね~かよ!』
『だったら! ケン様の命令には、素直に従え! そうでなければ、ケン様へ頼んで、お前の契約を、解除してもらうが、どうだ? そうなれば、お前の家族とも、離れ離れになるぞ?』
『え!? けけけ、契約解除!? お、俺っちの、か、家族とも離ればなれ!?』
『そうだ! ケン様との契約が解除されたら、お前は、この世界とは全く違う異界へ送られる、そして持てる記憶を、全て失い、リセットされるだろう。愛する家族達、親しい仲間達も含め、全てを失うのだぞ!』
『い、嫌だっ! 違う世界へ送られ、記憶を失い、家族や仲間の事を忘れるなど、絶対に嫌だああ!!』
以前、聞いた事がある。
召喚する前に、ケルベロス達はどこに居たのか、を。
答えは……憶えていない。
そう! ケルベロスによれば、俺から呼び出される前の記憶が無いそうだ。
誰と、どのように、どう暮らしていたのかを……
例えれば、夢を見ていた事は分かっていても、目が覚めると全てを忘れている……
そんな感覚だという。
ちなみに、召喚された後に、契約解除されて戻されるのはどこか?
これも、ケルベロスが教えてくれた。
全く、別の異世界か、
もしくはエデンの園のような、穏やかな自然あふれる異界だという。
そして一旦、契約を解除されると、持っていた記憶は、
全てが消されてしまうらしい。
つまりはリセット、最初からのスタートって事。
俺が召喚後、男として、名を上げたジャンは多くの猫達を嫁にした。
夢にまで見た、ハーレム生活をゲットし、大勢の家族を得たのだ。
しかし、俺から、契約を解除されたら、現在、享受する夢のような生活が、
「しれっ」と消え失せてしまう……
そんな事情もあり……ジャンは渋々頷くと、同行を了解したのである。
『じゃあ、明日、出発だな』
こうして……
俺は従士達を連れて、小さな旅へ出る事となったのである。
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