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#63 羊田淳太朗の冒険の書

今回の中心人物→淳太朗

 秋もかなり深まり、 少しずつ冬の足音も近づいてきたある日。

 夕方……と言うより、 もう夜と言った方がいいような時間に、 部活帰りの淳太朗は帰宅した。


「ただいまー」と家の扉を開くと、 妹の芽衣が駆け寄ってきた。 その表情は、 兄との再会を喜んでいるように淳太朗には思えた。


(そういや、 中学の頃は暗くなってから家に帰る事なんてあんまり無かったな……)


 変わっていく自分の日常を思いながら淳太朗が部屋に入り、 宿題……の前にスマホで映画の上映情報を見ようとしていたら、 芽衣が部屋の扉を開けた。


「……なあ、 お兄ちゃん」

「えっ、 何?」

「今度、 作文で家族の事を書かなあかんねんけど」

「……それで?」

「私、 お兄ちゃんの事書きたいと思うんやけど、 ええかな?」


「ええっ!?」と困惑しながら淳太朗は、


「僕なんか書く事ないんとちゃう?」


 と言った。

 だが、 残念そうな目で自分を見る芽衣を見て、


「わかったから、 明日まで待って」


 と言ったのだった。



 次の日の放課後。

「拠点」に旋一、 謙司、 真、 そして淳太朗が集まっていた。


「珍しいな。 淳太朗が俺らを呼び出すなんて。 何かあったん?」


 と旋一が言った。


「実は、 芽衣……妹が、 作文で僕の事書きたいって言ってるんやけど……。 僕に作文のネタになる事なんてない気がするから、 皆で何かネタにできるような事考えてほしいんや」


 と淳太朗は頭を下げた。


「淳太朗にもいろいろええ所あると思うけどなあ。 自分で考えてみたら?」


 と旋一は言った。


「……自分で思いつかへんから聞いてるんやけど……」

「そっスかー……。 やったら、 やっぱ何か凄い技が出来るーとかがええんとちゃう? 玉乗りしながらジャグリングするとか」

「……それは、 作文を書くまでに覚えんのはちょっと無理かな……」

「旋一(そいつ)は遊んでるんやから、 マジメに答えんでもええぞ、 淳太朗」


 と謙司が口を挟んだ。


「そんなら、 淳太朗も最近は鍛えてる言うてたし、 妹さんに前より力強くなったってトコ見せてみたら? 腕相撲するとか」


 と、 旋一は言った。


「ええっ?」

「とりあえず、 俺とやってみようや」


 と、 旋一は腕を差し出した。


 少しためらった淳太朗だったがそれに応え、 二人は机の上に肘を付けて腕を組んだ。


 謙司の合図で勝負が始まった。

 勝負は最初均衡していたが、 やがて淳太朗が少しだけ旋一の腕を机に向けて傾けた。

 謙司と真がおおっと言う表情を浮かべた……のも束の間、 旋一が力を込めると一気に淳太朗の腕は逆方向に傾いて机の上に倒れた。


「ちょっとだけヤバかったけど、 残念やったなあ淳太朗」


 手首を撫でつつ旋一が言った。


「さすがに芽衣には勝て……るよ」

「なんか自信無さげに見えるんは気のせいか? 淳太朗……」

「でも、 やっぱり腕相撲は無しで。 もし芽衣の腕が痛くなったりしたらアカンし……」

「う~ん……」


 と旋一が言った所で真が、


「やったら、 見かけを変えてネタにしてみたら?」


 と言った。


「見かけ?」

「おう。 前、 服は大体ユミクロとかひまむらで買(こ)うてるって言うてたやろ。 もっと高い店で買うてみたら?」

「そんな金無いわ……」

「お、 おう……」

「でも、 カッコを変えてアピールするって言うんはええ考えかもしれへんな」


 と、 旋一が言った。 


「どういう事?」


 と淳太朗が返す。


「ホラ、 ハロウィンの時に特殊メイクしてくれはった二年の人。 あの人に頼んで外見をイメチェンしてもらうとか」

「ああ、 鷺沼先輩……。 でも、 あの人に頼んで上手く行くかな……」


 と淳太朗が言う間に、 旋一はスマホで鷺沼に電話を掛けた。

 しばらくして、 鷺沼が電話に出た。


「おう、 犬塚君。 何かあったん?」

「実は、 淳太ろ……羊田くんの妹さんが羊田くんをネタに作文を書こうとしてて、 それで羊田くんをバシッと格好よくイメチェンさせるために先輩の力を借りられへんかって思ったんスけど」

「もちろんや。 ゾンビから宇宙生物までメイクは色々あるで。 何にする?」

「あざす」


 と旋一は電話を切った。


「あの人、 根本的にコンセプト間違えてはるな」


 と旋一が言ったが、


「あの人に頼んで何とかなると思ったお前もお前やけどな」


 と謙司が突っ込んだ。


「ところで、 真はどこに行ったん?」


 と、 旋一はいつの間にか三人だけしかいなくなった教室を見渡した。


「あいつは『ハロウィンの時のトラウマが……』とか言って出て行きよったぞ」


 と謙司が言った。


「そんなら、 次は……」と旋一が言おうとしたが、


「ゴメン、 やっぱもうええよ」


 と淳太朗は言った。


「ええ?」

「やっぱ、 僕には他の皆みたいに凄い所とか無いし、 作文にとか書けへん気がするわ……。 芽衣には、 帰ったら父さんか母さんの事を書くように言うわ」

「えー。 もっと色々考えたかったのにー」

「旋一(おまえ)は自分が楽しみたかっただけやろ……。 でもな、 淳太朗。 妹さんがお前の事書きたいって言うたって事は、 妹さんにとってお前はそれくらいの魅力があるって言う事と違うかな。 兄弟とか居ん俺が言うんも何やけど……」


 と謙司が言った。


「うーん、 そうやろか……」


 と言う淳太朗に旋一が、


「そうや、 俺らでは分からん事も向こうは知ってるやろし、 もっと自信持ったらええねん」


 と言って背中を叩いた。


「そう……かなあ。 とりあえず、 芽衣が待ってるかもしれへんから今日は帰るわ」

「おう。 頑張れよ、 兄貴」


 その旋一の声を受けながら、 淳太朗はドアに手を掛けた。



 約一時間後、 淳太朗は自宅へと帰って来た。

 帰ってきた淳太朗を芽衣が、


「お帰りお兄ちゃん。 で、 作文のコトはどうなった?」


 と出迎えた。


「うん……。 やっぱ父さんか母さんの事書いた方がええんと違う? みんなに聞いてみたけど、 僕なんてそんな書く事もない気がするし……」


 それを聞いた芽衣はむっとしたような表情になった。


「もう、 アホ! アホお兄(にい)!」

(ええ……アホ……?)


 と思う淳太朗に、 芽衣は畳み掛けるように言った。


「作文のために無理してキャラ作らんでも、 お兄ちゃんは今のままで十分ええから。 ……覚えてる? 私が小学校に入学したての頃、 友達の中で私だけ登り棒に登れへんかったから、 毎日練習して登れるようになって私に教えてくれたやんな?」

「……でも、 それまでは6年生にもなって登れてへんかったんやけど……」


「それだけやないで。 私が図鑑を読んで綺麗な花があるって言うた時も、 自転車で遠くまで探し回って咲いてる所を見つけてくれたやん?」

「……」

「私が書きたいんは、 無理やりかっこ付けたお兄ちゃんやなくて、 そのままのお兄ちゃんが私のために頑張ってるトコやねん。 今かってそうや。 私の作文のために皆に相談してくれてたんやろ? 中学の頃は友達らしい友達も居いひんかったお兄ちゃんが」


 最後の言葉にグサリとなりながらも、 淳太朗は思った。

「そのままの自分」なんて大した価値はないと思ってたけど、 そんな自分も芽衣の言うとおりに少しずつ変わって行っているのかもしれない。

 もしそうなら、 それはきっと芽衣や蓬ヶ丘同盟の皆や、 そして杏香のために自分に出来る事をしようとして来たからで……つまりは皆のおかげなのだろう。


「ゴメン、 言い過ぎたわお兄ちゃん」

「今さら……?」

「そんで、 作文に書いてもええんやんな?」


 芽衣の言葉に、 淳太朗は旋一の「頑張れよ、 兄貴」という言葉を思い出した。


「うん。 僕でよかったら……」

「もうアホお兄、 またそんな自信なさそうな事言うて」


 芽衣の顔を見ながら、 淳太朗は謙司の「淳太朗は妹さんにとってそれくらいの魅力があるっていう事と違うかな」という言葉を思い出した。

 ――もしかしたら学校の皆も、 自分でも分からへん僕の魅力を知ってたりするんかも。


(いや、 まさかね……)


 と、 淳太朗は思った。

(つづく)


「ハロウィンの時のトラウマ」→ #59&#60「ハロウィンの冒険」


※旋一たちは、ハロウィンの時に鷺沼と連絡先を交換しています。

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