#62 遊園地の冒険
今回の中心人物→貫太、はるか
11月も半ばのある放課後。
「拠点」に貫太と淳太朗がいると、 帰宅前の旋一と謙司が顔を出してきた。
「バイトまで時間があるから来たったぞ……ってどないしたん?」
少し難しい顔をしている貫太に旋一が言った。
「……実は今度、 この前のハロウィンの詫びもかねて莵道と大京ドリーミーパークに行く事になったんやけどな……」
「ほーん、 それで?」
「……」
相変わらず難しい顔をして黙る貫太に、 旋一は「何かあったん? 何でも言うてみ?」と言った。
「……実はな…………」
「実は?」
「絶叫マシーンが、 どうも苦手なんや」
貫太は、 重々しく口を開いた。
「えー!? そんなゴリラみたいなナリしてるクセに、 絶叫マシーンなんか苦手なん!?」
と笑いを堪えながら言う旋一の口元を押さえつつ、 謙司が「珍しいな。 お前がそこまで嫌そうにすんのは」と言った。
「何かな。 スポーツで身体動かすんは平気やけど、 身体を無理矢理落とされるような感覚が昔からアカンねん」
と言うと貫太は、 他の三人を見ながら、
「……このままやとデートの時はるかにダサい所を見せてまう。 やから、 絶叫マシーンを克服するアイデアとか教えてほしい」
と丁寧にも頭を下げて頼んだ。
「そんなん、 気合で行ったったらエエやん」
と旋一が言った。
「体育会系と思って舐めんなや。 何でも気合で解決したら苦労せんわ」
「しゃあないな……淳太朗も何かない?」
と、 旋一が振った。
「ええと……………………乗りそうなマシーンの事をあらかじめ調べて、 どんな感じで進むか予習してみたら?」
「頑張って考えてくれて有難うな。 でもアカン。 マシーンの事考えるだけで気分悪くなりそうや」
「相当重症やな……いっその事、 コーヒーカップとか絶叫系と違う乗り物だけにしてみたら?」
と謙司が言った。
「それは嫌や……。 何か、 負けたみたいな気がする」
『う~ん……』
他の三人が唸った所で貫太は、
「そうや。 真にも聞いてみるか」
とスマホを手に取った。
貫太がメールで絶叫マシーンの悩みを送信すると、 しばらくして真から返信が来た。
[絶叫マシーンに使えるかは分からへんけど、 ガキの頃高い岩の上から川に飛び込んでた時は、 川に入る時に大きく息吸って腹に力を入れてたな。 そうすると、 衝撃が和らぐ気がすんねん]
「……」
サラッと凄い過去を話してる気がするが、 何かこのアドバイスが一番有用な気がすんな、 と貫太は思った。
「真のアドバイスが一番良かったかも……」
と言う貫太に旋一が、
「おいおーい、 そんなら俺らの立場は?」
と言う。
それも意に介さず、 貫太はデート当日の事を考え始めた。
(とりあえず、 ぶっつけ本番で行くしかないか……)
そして当日。 大京ドリーミーパークの入口に貫太とはるかは立っていた。
長袖のカーディガンとカジュアルなスカートを身につけてはしゃぐはるかを見て貫太は思う。
やはり、 どんな服を着ていても可愛い。
とりあえず、 ハロウィンの時の誤解は説明しまくって解けた。
あとは、 今日格好ええ所を見せて、 はるかに頼ってもらえるような男にならんとあかん。
そのためには、 やはり絶叫マシーンは避けて通れへんやろうな。
そう思い、 貫太は気を引き締めた。
遊園地の中央の広場で貫太が「まず何に乗る?」とはるかに聞くと、 コーヒーカップという答えが帰って来た。
それに内心安堵しつつ、 貫太ははるかと共にコーヒーカップへと向かった。
そして、 それからも二人はお化け屋敷に入ったり、 遊園地に併設されている池でボートに乗ったり、 フォトスポットで記念撮影をしたりして楽しんだ。 それは、 恋人たちの甘い時間そのものに思えた。
(よし……ええ感じで進んでる。 ハロウィンの事でのわだかまりとかももう無さそうや)
と貫太は思った。
そして。
はるかは、 「次はあれ乗ろっ」と、 ファルコンズバーストなるアトラクションを指さした。
(来たか……)
と貫太は思った。
ファルコンズバーストとは、 時速120km、 落差75mを誇る大京ドリーミーパークの看板ジェットコースターだった。
(大丈夫や……。 一応対策は考えてある……ここは、 はるかの前で堂々としている所を見せるんや……)
貫太とはるかが乗り込むと、 コースターはゆっくりと上昇していく。
バーを強く握り、 大京市の景色が少しづつ眼下に広がって行くのを見ながら、 貫太は唾を飲み込んだ。
そして、 上昇し切った所でコースターは一気に加速して急降下していった。
「来たか……」と思った貫太は、 はしゃぐはるかを尻目に、 真に言われた通りに大きく息を吸い込んでその鍛えられた腹筋に力を込めて耐えた。
やがて、 コースターは落ちきるとスピードを保ったまま直線の区間に入った。
貫太は少しだけ安堵した。 ここも怖いと言えばそうなのだが、 急降下に比べればまだ耐えられそうな感じではあった。
コースターは直線の区間を抜けると、 カーブや軽いアップダウンの区間を走り抜けていく。
そして、 トンネルの中へと入っていった。
貫太の中で、 先ほどの急降下の記憶が蘇ってくる。
(頼む、 もうあんな降下はせんといてくれ……)
だが、 貫太の願いも虚しく、 トンネルを出たコースターは再び上昇して行った。 しかも、 今回は前回よりさらに高さも角度も上だった。
「死」と言う言葉が貫太の頭の中をよぎる。
もはや目を開けているのも恐ろしくなった貫太は、 頂点に登る手前で目を閉じた。
そして、 頂点まで達したコースターは先ほど以上に凄まじい勢いで降下して行った。
目を閉じながらさっきのように腹に力を込めた貫太だったが、 それでも身体に強烈な圧が掛かっていく。
圧に耐えながら、 さすがにもう終わりかと思って目を開けた貫太だったが、 無情にもコースターはまだ落下を続けていた。
目を開けた所でその光景が飛び込んできた事に余計に恐怖を感じ、 貫太ははるかの前でかなり情けなく、
「うおっ」
と言う声を上げてしまったのだった。
コースターが止まって何とか降りると、 貫太はフラフラになりながら、 はるかとこの日最後に乗ると決めていた観覧車へと向かった。
二人が乗ると、 観覧車はゆっくり動き出していく。
西陽に照らされる中、 大京の街が視界に広がって行った。
本来なら、 ここには二人の甘い時間が流れるはずだった。 だが、 貫太は気まずい思いに包まれていた。
やがて、 耐えかねたように貫太は口を開いた。
「その……コースターの時は、 ダサいトコ見せてもうたな」
「ええ? 別にそんなん気にしてへんよ」
「……」
本当は貫太にも分かっていた。 はるかはこんな事で幻滅するような人間ではないし、 今の言葉も本心なのだ。
だが、 はるかに頼ってもらえるような男になると決めた手前、 むしろ彼女にこういう事を言わせてしまった事に余計に敗北感を感じた。
やがて二人は観覧車を降りた。
はるかが、
「最後にジュースでも飲もっか」
と言って、 カバンの中の財布に手を伸ばした。
貫太は、 「おう……」と複雑な気持ちで頷くと、 ポケットの財布を取り出して金を出そうとした。
だが、 しばらくするとはるかが引きつった声で、
「ちょっと……財布無いで!?」
と言った。
「マジか……? ちゃんとあちこち探したんか?」
「カバンも服のポケットも探したって! きっと、 歩いてるうちにどっかで落としてもうたんや……」
「……」
「どうしよう……」と青ざめた顔で言うはるかを横目に見ながら、 貫太は自分の財布の中の金を見た。
ジュースやアイスクリームを買う程度の金を除くと、 財布には一人が何とか電車で帰れるぐらいの金しか残っていない(高校生は金が無いのである)。
貫太は、 その金をはるかに手渡した。
「もし財布が見つからへんかったら、 これ持ってお前だけでも先帰れ」
「でも……」
「お前は明日部活の朝練とかあるやろ。 俺は何もやってへんわけやし、 ここはお前が帰るんが筋やろ」
「……」
しばらく考えた後で、
「……分かった。 これは受け取っとくね。 ……やっぱ、 貫太君は最高に格好ええよ」
と、 微笑みながらはるかは言った。
「おう……?」
と貫太は戸惑った。
今のは別に、 ジェットコースターでの事を挽回しようとも、 はるかに頼りにされるようにと強く意識していたわけでもなく、 困るはるかを見ていて思わず行動しただけだ。
とは言え、 はるかに面と向かって「格好いい」と言われるとやはり顔が赤くなってしまう。
それを誤魔化すように貫太は、
「まあ、 もしかしたら見つかるかもしれへんし閉まるまで探してみんぞ」
と言った。
それを聞いたはるかも、 さっきの混乱を忘れたかのように「うんっ」と言う。
そのはるかの嬉しそうな表情を見るだけで、今日の失態も、 これから帰れなくなるかもしれないという不安もどうでも良くなるような気分になる。
敵わへんよなあ、 こいつには……と、 貫太は思った。
(つづく)
・この絶叫マシーン対策には科学的な根拠はないので、もし試すなら自己責任でお願いします…




