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#61 都会の学校に通わなかった僕の話

今回の中心人物→旋一、謙司


 ハロウィンも終わり、 少しずつ寒さを感じる事も増えてきた11月始め。

 電車が蓬ヶ丘駅のホームにすべり込み、 学校帰りの旋一と謙司が降り立った。


「何か、 俺がバイト無くて謙司も塾が無い日って久しぶりちゃう?」


 ポケットに手を突っ込みながら旋一が言った。


「……そうやな」


 と言いつつ、 謙司はホーム上で遠くに広がる山々を見渡した。

 すでに、 山は少しずつ紅く色づき始めている。

 もっとも、 見渡すまでもなく、 この街で山の見えない所はそう無いのだが。


 やがて二人が駅前のロータリーへと向かっていると、 けたたましいスクーターの音が飛び込んできた。


「何や何や?」


 自分たちの方に向かってくるスクーターを見て旋一が言った。

 スクーターが止まり、 運転していた男がヘルメットを取った。


「久しぶり。 旋ちゃんと……虎井君やんな?」

「鴨ちゃん!?」「鴨下(かもした)君!?」


 ヘルメットの中から現れた顔を見て、 旋一と謙司が同時に叫んだ。


「原チャリとか乗って、 どうしたん?」


 と、 旋一がスクーターを舐めるように見ながら言った。


「この前16歳になったから、 免許取ってん」

「そう言う事や無くってー、 何で一人でこんなトコ走ってたん?」

「それは……退屈やったからな」


 旋一の問いに、 鴨下は返した。


 彼――鴨下貴司(かもしたたかし)は、 小学校6年の時の旋一と謙司のクラスメイトである。

  あまり成績も良くなく、 周囲と馴染めずに一人でいる事が多かったが、 ある日旋一が遊びに誘ってから、 ちょくちょく旋一や謙司たちと一緒に遊んでいたのだった。

 中学に入ってからも時折遊んでいたが、 彼は旋一たちと違って蓬ケ丘市内の高校に入り、 以降旋一たちとは時々メールでやり取りする程度になっていたのだった。


「で、 退屈ってどういう事なん?」


 三人で駅近くの公園に行くと、 旋一が言った。


「中学の頃の友達はみんな大京(むこう)の高校に行ってもうたからな。 なかなか遊ぶ時間も合わんで皆と遊べへん。 この間までやってたバイトもクビになってもうたし……」

「そうやったんか……」


「鴨ちゃんも大京(あっち)の高校に行けば良かったのに……」と言おうとして、 旋一は何かを察したように口を閉じた。


「……俺の学力やったら、 入れるんはこの高校くらいやったからな」


 鴨下は旋一の言う事を見透かしたかのように言った。

 謙司は、 彼の通っている高校があまり偏差値が高くない事で知られている事を思い出した。


「中学の頃は、 二人で俺の学校(トコ)に入ろうとか言ってたけど何やかやで旋一は凄いと思うわ。 頑張って勉強して大京(むこう)の高校に入ってもうたんやからな」


 エヘヘと照れたような笑みを浮かべる旋一に向かって謙司が、


「調子に乗んなや。 俺にだいぶ勉強見てもうたクセに」


 とチョップを見舞った。

 そんな謙司を見て、


「何か、 虎井君おもろくなったなあ」


 と鴨下が言った。

「そうかな……」と言いつつも、 謙司は桜野(この)高校に入って旋一たちと関わる中で、 知らず知らずのうちに何かが変わってきたんかもな……と思った。


 そうしていると、 三人の中を冷たい風が吹き抜けて行った。


「寒なってきたな、 (ぬく)い飲みモン()うてくるわ」


 と、 旋一は自販機の方へと向かった。

 しかし旋一はしばらく自販機の前で立っていたかと思うと、


「スマン、 温いのなかったわ」


 と冷たいコーヒーを三つ買って戻ってきた。


「まだ自販機には温いの無いやろ」


 と、 旋一に金を渡しつつ鴨下は言った。


「でも、 大京(あっち)の自販機やったら温いの売ってんぞ」


 と旋一は言った。


「ああ……」


 と、 鴨下は何かを思ったように空を見上げた。 そして、


蓬ヶ丘(ここ)には何も無いと思ってたけど、 やっぱコーヒーもそうなんやな」


 と呟いて、 冷たいコーヒーを口に入れた。


「旋ちゃんも虎井君も羨ましいな。 向こうの学校やったら、 可愛い娘がいっぱいいて毎日のように合コンとかあって女の子とクラブで踊ったりするんやろ?」

『いや、 それはない』


 と旋一と謙司は同時に否定した。


「その……鴨下君は大京まで遊びに行ったりはせえへんの?」


 と謙司は聞いた。


「遊びに行く言うても定期は無いから金も掛かるし……それに、 ただ遊びに行くんとあっちの学校に通ってるんとはやっぱ違うよ」

「……」

「俺の学力やと大学に行くんもムリやし、 高校を卒業したらどっかこの辺りの会社に入って、 一生蓬ヶ丘(ここ)で過ごすんやろな」


 と、 鴨下は軽く笑いながら言った。

 無言のまま鴨下の話を聞いている旋一を見て謙司は思った。

 ――理由は違うけど、 高校を卒業したらいずれこの町で働くことになるんはこいつも一緒や。 きっと、 何か思う所があるんやろう。


「そんなら、久しぶりに会えて楽しかったわ。 子供の頃仲間に入れてくれた時も思ったけど……大袈裟やけど、 旋ちゃんって俺にとってヒーローみたいや」


 と言って、 鴨下はスクーターに跨がった。

 ヒーロー……なんて言ったら気恥ずかしくなってしまうけど、 彼も俺と同じように独りぼっちやった所を旋一(あいつ)に助けられたんやな。

 そう思うと、 謙司の中で学力も住む環境も全く違う鴨下に対する親近感が湧いてきた。


 どこか寂しげに去っていく鴨下を見て、 旋一は「……よし」と言った。

 ――きっと、 こいつの事やからまたあの時彼に……そして、 俺にしたのと同じような事を考えてるんやろうな。

 そう思っていると、 謙司の中にひとつの感情が浮かび上がってきた。


「なんかマジな顔して、 何考えてんの?」


 そんな謙司の顔を見て、 旋一が言った。


「……たぶん、 お前と同じ事や」


 そう言って、 謙司は鞄を手に取った。


 *

 *

 *


 数日後。 鴨下はまたいつものように学校を出た。

 高校にはあまり話の合う友達もおらず、 放課後一緒にカラオケやボウリングに行く相手もいない。

 飲食店やゲームセンターに行こうにも蓬ヶ丘には大した店は無いし、 だいいち金もかかる。

 かといって、 図書館に行くような柄でもない。


 仕方なく、 今日は家に帰ってゲームでもするか…と思っていると、 前方に妙なマスクを着けた二つの人影が現れた。


「え……誰?」


 と言う鴨下に向かって、 二人組の中のヒーロー風のマスクを付けた男が、


「俺はマスクト・パピー。 そして……デスタイガー将軍」


 と言った。


「というか……旋ちゃんと、 虎井君やんな?」

「ちゃうねん、 俺はマスクト・パピーや」

「お……俺は、 デスタイガー将軍……だ」


 二人組の、 悪役風の黒いマスクを着けた男も続けた。

 呆気に取られる鴨下を前にヒーローマスクの少年は、


「さあ、 とりあえず河原まで行こか」


 と言った。

 三人で歩いて河原に着くと鴨下は、


「で、 こんな所に来て何すんの?」


 とヒーローマスクに言った。


「そら、 河原でする事言うたら……水切りとか?」


 そんな事をすんのにわざわざマスク着けて来んでも、 と鴨下は思ったが、


「そんじゃ、 始めんぞ」


 と、 ヒーローマスクは川に石を投げ始めた。

 それを見て、 鴨下もつられるように投げ始める。

 様子を見ていた黒マスクも、 仕方ないから付き合ってやるかとばかりに石を投げ始めた。


 そして、 三人で水切りをする事数十分。

 次第に場は加熱して行き、 さすがに疲れてきた鴨下は地面に手を付いて座った。


「あー、 何やかんや言って楽しくなってきたな」


 と言う鴨下にヒーローマスクは、


「懐かしいな鴨ちゃん。 昔こうして時々ここで遊んだやんな」


 と言った。


「……何で謎のマスクマンがそんな事知ってんの?」

「いや……えーと、 バレたらしゃあないな」


 と、 旋一はマスクを取った。


(とっくにバレとったけど……)と思いつつも

、 「やっぱ旋ちゃんやったんか」と鴨下は話を合わせた。


「俺もマスクを取ってええんやな」


 と、 ようやく解放されたとでも言いたげな口調で言って、 謙司もマスクを取った。


「それにしても……」


 と、 鴨下は川を見て「こんなに思い切り遊んだんは久しぶりな気がするわ。 結局3回しか出来ひんかったけど…」と言った。


「俺はそれより1回多かったしー。 マスクが無かったらもっと出来たかもしれへん。 でも……」


 と、 旋一は謙司の方を見て言った。


「何でこいつが一番出来んねん。 真面目クンのくせに運動は出来るからな、 こいつは」

「真面目と運動は別に反比例せんやろ……」


 と謙司は言ったが旋一は無視して、


「なあ鴨ちゃん。 確かに蓬ヶ丘(ここ)にはなんもないかも知れへんけど、 こうやって俺らがいる。 その気になればまた今日みたいに遊べるし、 退屈やとか思ったらまた連絡してくれたらええから」


 と言った。


「旋ちゃん……」


 謙司も、


「そうや。 ……それに、 大学には入れんかったとしても別の街に就職する事も出来る。 あまり、 一生蓬ヶ丘(ここ)から出られへんって決めつけへん方がええと思う。 ……まあ、俺自身にも言い聞かせてる事やけどな……」


 と言った。


「虎井君……。 ……何か、 二人ともヒーローみたいやな」


 と、 鴨下は少し照れくさそうに小声で言った。


「ヒーローって言うか、 謙司(デスタイガー将軍)は名前からして悪モンやろ」


 と旋一が言うと謙司は、


「お前が名前考えたんやろ……。 もう、 そんなに人を悪者にしたいんやったら、 悪者らしくしたろか」


 と旋一の服を掴みながら言った。


「分かったから止めて、 ギブギブギブ」


 と言う旋一を見て、 鴨下はすこし柔らかな笑みを浮かべた。

 それを見て、 旋一と謙司も満ち足りたような笑みを浮かべたのだった。

(つづく)



 〈おまけ〉

 旋一の家でマスクを見付けた時の様子を、 脚本形式でお届け。


 旋一、 物置の中からマスクを二つ取り出す。


 旋一「昔夜店で手に入れたやつやけど、 これ二人で着けていくぞ」

 謙司「いくらヒーローって言われたからって、 誰もそこまで求めてへんと思うぞ……て言うか、 よくそんなん取ってたなお前」

 旋一「こうやってテンションを上げて行くんが大事やねん」


 旋一、 ヒーロー風のマスクを手に取って悪役風の方を謙司に渡す。


 旋一「じゃあ、 俺これ被るしお前はこれな」

 謙司「……何もためらいなく自分が格好ええ方着けんの?」

 旋一「ちゃうねん。 謙司(おまえ)のは、一見ダークに見えるけどクールで人気が出るキャラやねん」

 謙司「……(何で細かく設定まで考えてるのかは分からへんが、 旋一も一応こっちを気遣ってるんか)」

 旋一「そんなら、 俺はマスクト・パピーな」

 謙司「お前のネーミングセンスには期待してへんし、 そもそも何で名前まで考える必要があるか分からんけど俺の方の名前も一応聞いとこか」

 旋一「お前は…デスタイガー将軍で」

 謙司「……やっぱ、 どう考えても悪役やろその名前」

(完)






田舎なので偏差値が低いと言いたいわけではなく、田舎にたまたま偏差値の低い高校があるという話なので…

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