#60 ハロウィンの冒険②
今回の中心人物→真
ワゴン車が大京港へ着くと、 真たちコンテスト出場者と鷺沼は指定された更衣室へと進んで行った。
更衣室へ着くと、 真は抵抗する間も無く鷺沼に衣装を着せられていく。
そして数分後。
そこには、 セミロングヘアのウィッグに黒い尖った帽子、 ゴシック調のドレスと言う、 紛うことなきウィッチの衣装に身を包んだ真がいた。
旋一や貫太はおろか、 他の更衣室の利用者までも、 「何で男がこんな姿に?」という疑問も忘れて目を奪われている。
「うん。 とっても似合ってんで、 鹿野君」
と鷺沼が言った。
「あ、 あざーっす……」
返事をしながら、 真は考えた。
旋一のエロ本に釣られたのは自分だとは言え、 何でこんな所でこんな格好をしているのだろう。
だが、 勝負事に熱くなりやすい真の心には、 どうせやるなら他のグループには負けたくないという思いも生まれ始めていた。
そう。 もう、 どんな格好だろうがここまで来たのならやるしか無いじゃないか。
こうなったら、 腹を括ってステージに上がろう。
そう思いながら、 真は旋一、 貫太と共に出場者の待機場所へと向かって行った。
待機場所は一般の観客のいる場所とは柵で仕切られていた。
周囲を見渡すと、 他にもモンスターや漫画キャラなどのコスプレをした集団がいた。
さすがにコンテストに出場するだけあって、 皆気合の入った姿だった。
(これが、 俺らと争う連中……。 でも、 優勝すんのは俺らや)
そう考えて、 真は心を奮い立たせて行った。
もちろん、 そう考えて恥ずかしさを誤魔化そうという思いもあったのであるが。
そうしていると、 柵の外から見覚えのあるような女子の姿が飛び込んできた。
(ん? あれって、 確か……貫太の彼女?)
真はその少女の姿に目をやりながら考えた。
(何でこの子がここにいるんや……? ああ、 貫太の事を見にきたんか)
はるかはキョロキョロと目を動かしていたが、 やがて貫太たちの姿を見付けたらしく、 顔をこちらに向けた。
だが、 真の姿を見た次の瞬間、 はるかは引きつったような表情になり、 貫太の顔を睨みつけて振り返った。
「おい、 待っ……」
貫太が何かを言おうとしたが、 はるかは小走りに人混みの中に消えて行った。
――何で、 貫太と俺が並んでるのを見て莵道さんは帰って行ったんや?
脳裏に恐ろしい想像が浮かんだが、 真は慌てて頭を振って振り払った。
そうしていると、 今度は何やらけたたましい声が聞こえてきて、 真は振り向いた。
(あ……コイツは確か、 前夜の学校で貫太に突っかかってきてた奴。 確か、 猿武やっけ?)
「馬路貫太ー! 居らへんのか! 勝負や!」
などと叫びながら、 猿武は会場内をウロウロしている。
「貫太、 コイツと勝負する約束とかしてたん?」
と真は小声で話しかけたが、 貫太は首を横に振った。
(……暇なんか? 野球強豪校って……)
と真が思っていると猿武は、
「何か、 こっちに馬路の気配を感じんな……」
とこちらに近づいてきた。
(その勘を野球で活かせや……。 どうやって活かすんか知らんけど)
と思ったその時、 猿武は貫太の方に向けていた目を真の方に向けた。
(???)
真が困惑していると、 猿武は少し顔を赤くして、 真から顔を背けた。
それは、 真にも覚えのある仕草で――要するに、 恋に落ちたリアクションだった。
(……コイツ、 まさか俺の事ホンマに女やと思ってんのか!??)
真がパニックになっていると、 猿武は柵に手を掛けて、
「好きや……」
と叫ぼうとした……
が、 そこで背後から二人の警備員の手が伸びてきた。
「一般人の方は、 柵の中は立ち入り禁止です」と言いながら、 警備員たちは猿武の腕を掴んだ。
「うおー離せー!」等とわめきながら、 猿武は警備員に連れて行かれて行った。
(アイツは、 誰かに連れ出されるしか帰る方法を知らんのか……)
と思いながら、 真は胸をなで下ろした。
頼む、 もう知り合いは来んといてくれ……
と思いながら、 真は目を観客席の方に向けた。
が、 その真の顔は凍りついた。
そこに居たのは彼にとって最も身近な人物のひとりで――なおかつこの状況で一番会いたくない者の姿だったのだ。
(?????先輩、 何でこんなトコに……?)
前方を見ると、 確かにこずえらしき人物が遠い人混みの中を歩いていた。
人違いであってくれと淡い期待を抱きながらもう一度見てみたが、 やはり人違いでは無いようだった。
コスプレした姿を見られるのが何となく恥ずかしくて、 こずえには今日のイベントに参加する事を伝えていなかった。
それだけに、 真は凄まじく混乱した。
しかも、 そのコスプレをした今はこんな姿なのだ。
幸い、 こずえはまだこちらのコスプレ集団には興味を示していないようだった。
真は祈るような気持ちで、
(とにかく、 先輩にこんなトコ見られたら終わりや。 何とかバレんといてくれ……)
と懇願した。
だがその時、 無情にも「次の方舞台に上がって下さーい」と言う司会の声が響いた。
真たちコスプレ組は揃って舞台へと上がった。
旋一たちが司会に何か聞かれていたが、 とにかく(先輩に見つからんといてくれ……)と思っている真の耳には入らない。
やがて、 真に司会のマイクが向けられてきた。
「いやー、 似合ってますねー」
内心、 (似合っててほしいわけあるかい……)と思った真だったが、 口に出すわけにもいかず小声で、
「ありがとうございます……」
と答えた。
「それでは、 お名前お願いしまーす」
(名前!? マズい、 マズいぞ、 「しかの」なんて名前そう無いし、 ここで名乗ったらバレてまう……)
と必死に考えを巡らせた末、
「山田、 まさしです」
と答えた。
(もし後で、 名簿と違うとか突っ込まれたら何とかして誤魔化そう……)
その後も、 司会は真に様々な質問をし、 その度に真は何とか正体がバレなさそうな答えをひねり出していった。
そして、
「では最後に、 山田さんに何か自己アピールをしてもらいましょう」
と、 司会は言った。
自己アピール……? こんな姿で、 先輩も見てるかもしれへんのに何したらええねんと真は戸惑った。
すると後ろから旋一が小声で、 「三万円のためやぞ」とせっついてきた。
彼は、 こずえがここに来ていると言う事を知らないのである。
(もうどうにでもなってまえ……)
と思いながら、 真が即興で魔法少女のごときポーズを取ると、 客席から大歓声が沸き起こった。
……
…………
………………
二日後。 部活を終えた真は、 こずえと待ち合わせていた喫茶店へと向かっていた。
結局、 観客には受けたものの、 真たちは優勝する事が出来なかった。
あんな事をする羽目になったとは言え、 こうなるとやはり優勝したかったかも……などと思いつつ、 真は店のドアを開けた。
「遅いなあ、 鹿野君」
先にテーブルに付いていたこずえが言った。
「あ、 ゴメンナサイこずえさん」
付き合い始めたのだから、 「先輩」は何か変やしと、 真はそう呼び始めていたのだった。
しばらく二人は受験や部活についての話をしていたが、 やがてこずえは、
「そう言えば、 私この前受験勉強の息抜きに大京港のハロウィンイベントに行ってきたんやけど」
と切り出してきた。
その話が出ることも想定していた真だったが、 やはりドキリとする。
(大丈夫……大丈夫や……先輩にはバレてへん……)
と思いながら真は、
「へえ、 どんな感じやったんスか?」
と返した。
「うん、 めっちゃ楽しかったで」
そう言った後ではるかは、
「……あんななら、 連れてってくれたら良かったわ」
と小声で続けた。
(え……『連れてってくれたら』って言う事は、 もしかしてあれが俺やってバレて……?)
真の心臓が、 激しく高鳴ってくる。
「その……もしかして、 あのステージも見たはったんスか……?」
「……まあな」
真は愕然としつつ、
「すんません、 何か、 恥ずかしいトコ見せてもうて……」
と言った。
「別にそんな恥ずかしがる事?」
と、 こずえは何事も無かったかのように言った。
呆気に取られたようになる真に向かってこずえは、
「さっ、 リードしてくれんと。 男の子やろ」
と微笑みながら言った。
「……」
自分の恥ずかしい姿を見ても動じずに、 最後は尻を叩く。
その姿は、 どんなカッコしようが鹿野君は鹿野君やろ……と言っているように真には思えた。
それからさらに二日後。 真が帰り道に貫太と歩いていると貫太が、
「この前のハロウィンの時な。 はるかが、 俺が別の彼女と一緒にいるんと勘違いして、 誤解を解くんがメッチャ大変やったわ」
と言った。
それを聞いた真は、 思わず飲んでいたジュースを吹き出しかけた。
(やっぱ、 莵道さんは俺が女やと思ってたんか……)
そう思っていると、 「馬路貫太ー!」という聞き覚えのある声が聞こえてきて貫太が振り向いた。
「何や猿武、 また懲りずに俺と勝負しに来たんか?」
「うっさい! 俺は男ばっかの学校で部活に明け暮れとんのに、 お前だけあんな可愛い彼女とイチャイチャイチャイチャすんなや! 今日と言う今日はもう許さへん」
その言葉を聞いて、 真はジュースを盛大に噴き出した。
「悪いけど、 お前その女とはもう会えへんと思うぞ……」
と貫太は言ったが、 猿武は「問答無用じゃー!」と食って掛かっていった。
(その『彼女』、 今も貫太の隣にいるといえばいるんやけどな……)と、 二人を見ながら真は思った……
(つづく)
「前夜の学校で」→25話「夜の学校の冒険」




