088 意見交換会
表彰が終わって、職員との意見交換会の時間となった。
会議室をそのまま会場として、人数は先ほどの半分程度。といっても、四十人くらいはいる。
「感動しました」
そう言って、次々と頭を下げてくる職員の人々。
そこまで大層な演説をしたつもりはないのだが、ここで働く彼女たちにとって、苦労した部分を男性に理解してもらえたことが嬉しいのだと思うことにする。
「ここは半公半民の運営だと伺いましたが、不便な点はないですか?」
東京都と中央府からそれぞれ補助金が出ていると聞いた。
「そうですね。施設の増設や改修ができないところでしょうか。不便に思うところがあっても、許可がない限り、何もできないのです」
壊れたところを修繕するのはよいが、使いにくい部分を改修したりはできないらしい。
「使いやすくするためにも、許可がいるんですか?」
「この施設は、広義ではレンタルに相当しますので」
「へえ……?」
レンタル?
聞いたところ、建物自体は東京都が建てていた。地権は、もちろん東京都だ。
運営を民間に任せるにあたり、入札を行ったらしい。
ここの会社は、入札で競り勝ったことで、ここの運営権を勝ち取ったのだが、施設そのものの権利は持っていないので、増設や改修ができないのだとか。
「なるほど、建物の権利を……そういうことなんですね」
完全民間に任せると「利益がでないから辞めます」とか「倒産しました」なんてことになったら、目も当てられない。
それと自社の土地や建物の場合、売ることができてしまう。
やる気のない、もしくは悪いことを考えている企業に建物や経営権を売ってしまったらどうなるのか。
次の日から、特区の住人が困ってしまう。
そのため、大本のところは東京都が握っていて、下手なことはさせないようにしているようだ。
うまくやっているなと思う。
「他にはですね……そうだ、みなさんの話を聞いてみたいと思います。最近の興味とか、目標など教えてもらえますか?」
集まった四十名ほどの職員たちは、互いに顔を見合わせる。
「それでは、目標ということでしたら」
手を挙げたのは、四十代くらいの女性。役員の一人だろう。
ここには若い職員もいるが、遠慮して手を挙げなかった。
「どんな目標ですか?」
「わたしの目標は、子供が将来、特区に住むか、特区で働けるようにすることです。いまは中学生ですが、親の目からみても、とてもがんばっています。できれば特区で関われる何らかの職に就けるよう、いまのうち、わたしもがんばらなければと思っています」
自信に満ち溢れた言葉だ。
自分のことより、子供のこと。これは意外と他の家庭にもあてはまる。
最初の頃、自分ができなかった夢を子どもに叶えてもらいたいのだと思っていたが、最近は少し違うのではと思うようになった。
男性が極端に少ない社会であるため、自身の子は唯一の血縁。
祖先から脈々と受け継がれてきたこの血を後世に伝える存在として、もとの世界以上に大切にしているのだと思う。
その上で、男性と婚姻を結ぶという幸せを最上位においた場合、男性と関わる仕事をするとか、男性と同じ職場で働くなどが、幸せの上位に来る。
幸せになってもらいたいと思う親は、自ずと同じ発想に至るのだと思う。
もちろん、幸せなんて人それぞれだが、この世界では男性とどれだけ多く、深く関われるかが、ひとつの指標になっている。
「それはいい考えですね。こうして中央府から表彰される企業に勤めていることが、必ずお子さんのプラスとなるでしょう」
俺がそう告げると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「私はお金をためて、はやく子供がほしいです」
若い人の意見を聞いたら、そんな答えが返ってきた。
ここでもやはり子供のことだが、彼女の考えは少し違う。
「ここは特区と近いですから、出会いもあると思うんです」
「出会いですか?」
「子供を連れて特区の公園で遊ばせるのが、若いお母さんたちの、ひとつのステータスになっているんです。それができるって、本当にレアなケースだと思うんです。そこで特区に住む家族の方と、知り合いになれたらって思っています」
手続きこそ必要なものの、特区に入ることはもちろん可能。
子供をどこで遊ばせようと、本人の自由だ。
彼女は特区に住む家族――おそらく母子と友達になりたいと願っているらしい。
そこからさらに出会いの輪を広げていくのかもしれないし、純粋に子供の交友関係を広げていきたいだけかもしれない。
どちらにしろ、俺にはなかった発想だ。
本当に、いろんな人と話すことで、思ってもみなかった意見が聞けて楽しい。
やはり奉活は、俺の視野を広げてくれる。
これでお金までもらえるのだから、どんどん続けていきたいと思う。
なぜ、一般の男性は奉活を避けるのか、俺には理解できない。
意見交換会は順調に進んだ。さすがにゴミ問題に関する専門的な話は理解できないので、ここに集まった人たちも、うまくその辺の話題は避けてくれた。
ちょっと気になったのは、最近、ゴミの量が増えたということだろうか。
ここは契約した企業系ゴミの収集を請け負っているので、企業系ゴミが増えたことになる。
でもなぜなのだろうか。
「おそらく特区の外からやってくる人が増えたのだと思います」
理由を尋ねたら、そんな返答があった。
特区に住んでいる人の数が変わらないのだから、おそらくそうなのだろう。
それだけ特区が魅力的であり、中央府が想定した人数以上が集まってしまっているのかもしれない。
最後は全員と握手して別れた。みんなよろこんで握手してくれた。
中には、普段ゴミを触っているのでと遠慮した人もいたが、手袋越しでゴミを触っているだけだし、俺はちっとも気にしないと言ったら、目の前で泣かれてしまった。
単に俺が握手したいだけなのだけれど。
とにもかくにも、有意義な奉活だった。
「次が、本日最後の奉活場所になります」
「『リョウズ物流倉庫』ですよね」
「はい。場所は特区と外を分けるフェンスのすぐとなりになります」
「へえ……もしかしてあれがそうですか?」
巨大な倉庫が見えてきた。特区のフェンスは二重になっていて、かなり目立つ。
だが、今回ばかりはフェンスよりもその巨大倉庫の方に目がいった。
「あの倉庫が、特区外から中に物資を運ぶ場所です。あの倉庫ができてから、一度も倉庫内の明かりが消えたことがないと言われています」
「二十四時間営業……か」
つまりあそこには、日夜俺たちの生活を支えてくれる人たちが働いている。
車は巨大な倉庫へ、徐々に近づいていった。




