089 倉庫見学
本日最後の奉活場所『リョウズ物流倉庫』。
到着すると、多くの従業員が出迎えてくれた。
三件とも出迎えがあったが、これが通常なのだろうか。
「宗谷様、ようこそおいでくださいました」
「はじめまして、宗谷武人です。今日はよろしくお願いします」
出迎えてくれた人は、スーツをピシっと着こなした女性。二十代後半くらいだろうか。
「聡美様にはいつもお世話になっております」
「母さんを知っているんですね」
「物流の効率化のために何度も足を運んでいただいております。まずは、こちらへ」
向かった先は、小さな事務所。
倉庫の大きさに比べたら、かなり小さい。
そこの応接室へ通された。
代わる代わる自己紹介を受けたが、正直、覚えきれない。
母はここに何か問題があるようなことを言っていたが、自己紹介を受けただけでは分からない。
「まずは当社の見学を予定しておりますが、問題ありませんでしょうか」
「ええ、楽しみにしていました。よろしくお願いします」
「それでは参りましょう」
応接室の外には、役員らしき人たちが整列して待っていた。
彼女らと一緒に、倉庫まで歩く。
大名行列みたいになったが、まあそれはいい。
「外から見て分かっていましたが、なんていうか、とても広いですね」
「巨大な倉庫ですが、中は三つに分かれています。順を追ってご説明しましょう」
倉庫の中は、巨大なパーティションのようなもので仕切られていた。
「ここは第一倉庫と呼んでいる場所です。特区に運び込まれる荷物がここに集められます。日本中から荷物が届きますので、常時トラックが出入りしてうるさいと思いますが、ご了承ください」
トラックから荷物を下ろす人や、キャリーで運ぶ人などが忙しく働いている。
「あっちにあるのは、なんですか?」
山のような荷物が積まれている。
「あれは特区から出た荷物です。配送のトラックがまだ来ていませんので、積んだままにしてあります」
「なるほど……それにしても多いですね」
入ってくる荷物も多いが、出ていく荷物も多い。
「それは……おそらく、特区ゆえのことかと思います」
「特区ゆえ……ああ、特区の名前で売ると、よく売れるんでしたね」
特区の外に住んでいる遠野さんが、手作りアクセサリを特区の店に卸していた。
自分で売るより、特区にある店の名で売った方が、よく売れるのだと言っていた。
「ご存知でしたか。特区の……とくに東京特区のネームバリューを使って商売する方は多いです。個人、団体、企業と、多くの人が東京特区の名を使います。そのため、特区には多くの物資が集まり、そして出ていくことになります」
「一度、東京特区を経由しただけで売れる商品とかありそうですね」
「私にはなんとも……」
発送元が特区の住所なら、喜んで買う人がいるのだろう。
もとの世界の話だが、昔、魚沼産のお米をありがたがる人があまりに多く、魚沼産と書いた米袋が高値で取り引きされているとニュースで見たことがある。
ほかにも世界的に有名なダージリン紅茶だが、本来の出荷量の数十倍がその名前で売られているとか。
東京特区というブランドは、この世界ではそれと同じくらい有用なのだろう。
倉庫に積み上がる荷物を見れば、人気のほどがよく分かる。
「ここはどうしても騒音と埃が舞ってしまいます。奥に参りましょう」
たしかに金属が擦れ合う音や、タイヤが床を転がる音がひっきりなしに届いてくる。
車のドアを開けしめする音、カートが出すエンジン音、人々が無言で働くからこそ、それらの音が際立って聞こえた。
俺は彼女たちの邪魔にならないよう、その場をあとにした。
「ここは第二倉庫と呼ばれる場所です。ここでは、荷物の仕分けとラベル付けが行われています」
第一倉庫から運び込まれた荷物は、ここで人の手によって仕分けされていた。
「仕分けは分かるんですけど、ラベル付けというのはなんですか?」
「集積ポイントへ荷物を正確に送るためのタグになります」
「ああ、あれですか」
家の近くにもあるアレだ。
地下の流通網を使って、店で買った物は家の近くまで自動で配達される。
荷物を取りにいくときは、そこへ行ってスマートフォンをかざすと、目的のものがせり上がってくる仕組みだ。
これも昔、似たようなのをニュースで見たことがある。
そのときは荷物ではなく、位牌と骨壷だったが。たしか、自動搬送式のお墓と説明していた。
考え方としては同じだろう。一時的に地下へ荷物をためておいて、取りに来た人のもとへ確実に届ける。
そしてそのプログラムを組んでいるのが母だったりする。
荷物はいつまでもおいておけるわけではなく、規定日数を超えてしまうと、追加の保管料金が取られる。
結構割高だし、未払いが発生すると特区居住のルールを違反していることになるので、引き取りの期日をオーバーする人は滅多にいないと母が言っていた。
「あの扉の向こうはどうなっているんですか?」
ここは巨大な倉庫。パーティションも巨大だ。
だがその一角だけは違った。
倉庫の中に倉庫が入ったような造りになっている。
「あそこは、冷蔵と冷凍の荷物を扱う場所になります。地下の流通網を使えませんので、ここからは別のルートを通ることになります」
「冷蔵、冷凍商品ですか。そういう理由なら、仕方ないですね」
特区で暮らしていると、配送のトラックなどはほとんど見ない。
だが、例外もある。
いま言ったように冷凍食品などを運ぶ車や、地下のベルトコンベアを通せないような巨大なものは、通常のトラックを使うのだ。外を歩いていても滅多に見かけないが。
仕分けとタグ付けをしている人たちの手付きは、まるで職人のようだ。
次から次へと荷物を処理している。
「すごい手並みですね」
「特区では自動化が進んでいると思いますが、それを最大限に活用するため、日々我々は頑張っているのです」
荷物は材質や形状が様々。
ダンボールもあれば、紙袋だってある。
四角いの、丸いの……これらを機械でラベル貼りできるとは思えない。
どうしても人の手が必要なのだろう。
「この先が第三倉庫と呼ばれる場所になります。地下の流通網へ荷物を載せるところと思って構いません。それでは行きましょう」
どうやらこの先が倉庫の最終らしかった。
もう少し奉活が続きます。
この辺の流通関連のお話は、物語初頭からずっと出てきていますが、プロット段階でだいたい作ってありました。
いかに少ない人数で特区の生活を下支えしていけばいいのかを考えているうちに自然とそこにいきつき、その流れで主人公の母親の仕事が決まった感じです。
それでは引き続き、よろしくお願いします!




