↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
89/422

082 騎馬戦(1)

「い、いまの放送は……」

 朝礼台にすがりつくようにして、教師のひとりが俺に問いかけてくる。


「校長室で時間を潰していたら、俺は今日、何のためにここに来たのか分からなくなりますから、彼女たちをここへ呼びました」

「いや……だって」


 教師は絶句している。校長は息切れして、さっきから荒い息を吐いている。

 校舎をぐるっと回ってきたのが辛かったのだろう。そんなに急がなくてよかったのに。


 そもそも生徒を校庭に出して、校長室で静かに先生たちと会話?

 そんなの誰得だ。コレジャナイ感が半端ない。


 俺は女子高生たちにキャーキャー言われるためにここへ来たのだ。

 何が悲しくて、中年女性の相手をしなくてはならない。


 ――ドドドドドドッ!


 女子高生、つまりJKたちが走ってきた。

「男だっー!」とか「本モノだ!」などと叫んでいる。


「こっ、こらっ! こっちに来るんじゃない」

 別の教師が注意するが、それで止まるような殊勝なJKはいないようだ。


 われ先にと朝礼台に取り付いた。

「うわっ!」


 反対に教師は彼女たちの外へと押し出されてしまった。

「おおっ、元気いいなぁ」


 朝礼台の周囲には、JKJKJKJKJK……。

 ここであの有名なセリフを吐いてみたい。ゴミのようだと。


「こらーっ、どきなさい!」

 教師たちが集団の外から怒鳴っているが、キャーキャー騒ぐ彼女たちには聞こえていない。


 そう、俺はこれを待っていたのだ。

 まるでロックスターか、アイドルのように騒がれるこの様を!


「このままダイブしたいな」


 そこまでやると、奉活局の二人が警棒を振り回して介入してくるだろう。

 いまでも腰に手をかけているくらいだから。


 彼女たちは興奮のるつぼだが、最後の砦……男性に触れないことだけは守っているようだ。

 それはもはや、魂に刷り込まれてた人間の本能なのかもしれない。


 個人的にはJKにもみくちゃにされたいし、あちこち触られたり、触り返したりしたいのだが、そうすると本当に逮捕者が出る。


 その子の未来は悲惨なものになるだろうから、こちらから誘導するわけにもいかない。

 残念だが、互いに我慢するしかない。残念だが。


「みんなぁ、はじめましてぇ!」


 俺が挨拶すると、あれだけうるさかった彼女たちが静かになった。

 一言も聞き逃さない、見逃してなるものかと、俺の一挙一動に注目が集まる。


「今日、この学校へ奉活しにきた宗谷武人と言います。みんな、よろしくね!」

 一拍おいてから、どぉおおおおおおおっという、地響きにも似た歓声が沸き上がった。


「本当だったんだ!」という声が多いから、どこかで情報が漏れたのかもしれない。


「さっき、この学校に着いたばかりです。みんなはこのあと、校庭で騎馬戦をすることになっていたみたいです。ここにその準備がしてあるでしょ。校庭の白線と、あそこにある箱。使い方は分かるよね?」


 白線の後ろにダンボールが等間隔に置かれている。

 朝礼台の上にはマイクだ。これで彼女たちも察することができたようだ。


「ちなみに、みなさんが騎馬戦をやっている間、俺は校長室で先生たちと談話をすることになっていました」


「ええっー!?」という驚きの声が聞こえる。

 後ろから「違うんだ!」とか叫んでいるのは、校長先生だろうか。


「でも、それじゃ楽しくないでしょ? だから俺は校庭(こっち)へ来ちゃいました。だって、みんなの騎馬戦を見たいんだもの!」


「ぐおおおおお!」という戦意高揚の雄叫び。

「みんな、俺に騎馬戦を見せてくれるかな?」


「「「見せるーっ!」」」

「よーし、じゃあ、いつもやっているみたいに、俺にその勇姿を見せてくれ!」


 なし崩し的にだが、このまま騎馬戦を始めてしまおう。

 説得されて校長室へ連行されるのは、勘弁願いたいのだ。


 そこからは早かった。

 生徒会役員がやってきて、学年ごとのクラス対抗戦を提案し、1年生から順に騎馬戦を見せてくれることになった。


 ルールは、「将」のはちまきをすべて奪った側の勝ち。この「将」というのはクラスに二騎しか存在しない。

「将」以外の騎馬は、はちまきなし。崩れたらそこで終了という、結構ガチな対戦。


 各学年四クラスなので、奇数クラスと偶数クラスに分かれて偶奇(ぐうき)戦を行い、勝った二クラスで決勝戦を行う方式らしい。


「まずは一年生だね。優勝したクラスには、俺からプレゼントがあるから、頑張ってね!」

 そう言っただけで、ギャアアアアアアアと悲鳴が轟いた。


 奉活局の二人は頭を抱えている。いろいろ想定外なのだろう。

 だが、許して欲しい。


 事前に聞いた話によると、奉活は男性の希望に添って行うとあった。

 奉活局の人は、奉活の中身について、あれこれ指示できないようになっているらしい。


 生徒会のメンバーが朝礼台の周囲を固めている。

 これはまあ、仕方ない。人のバリケートはもう慣れた。


 すでに騎馬がつくられ、あとは開始の合図を待つばかり。

 当然、合図は俺が行う。


「よぉーし、一年の偶奇戦をこれからはじめるぞ、準備はいいな。……それでは、戦闘開始!」


 各陣営の四将は動かない。代わりに他の騎馬が、奇声をあげて駆け出した。

 戦場のあちこちで騎馬と騎馬がぶつかる。


 これは、はちまきを奪ったら勝ちなどというやさしい戦いではない。

 騎馬を崩壊させるまで、敵は生きているのだ。


 騎馬同士がガツンガツンとぶつかり、まるでフットボールの試合を見ているようだ。


 2、4組の騎馬が中央突破をはかった。しばらく混戦したものの、中央突破は成功。

 1、3組の騎馬は分断されたが、代わりに2、4組の「将」へと多くの騎馬が突進する。


 中央突破に成功した以上、そこから戻ることは難しい。

 2、4組は、このまま敵の将を落とすしか、生き残る道はない。


「本物の合戦を見ているようだ……」


 生きるか死ぬか……といえば大げさに聞こえるが、彼女たちはそれくらい真剣だ。

 力及ばず落馬した者は、大地を拳で何度も叩いている。


 これはもう、女の意地と意地のぶつかり合い……なのだが、俺は最大の失敗を犯してしまった。


(――セーラー服でやるものじゃないな)


 実は、騎馬を組んだときに分かっていたのだが、雰囲気的にもう、止められなかった。


 合戦が始まると、彼女たちのスカートがあっちでひらり、こっちでひらりするという、なんとも「ありがたや」な展開になってしまった。


 この場にいる男性は俺ひとりだから、俺だけ目を逸らせばいいのだが、俺はこの合戦を見届ける義務がある。

 すべてを目に焼き付ける義務があるのだ。義務だからしょうがない。全米がしょうがないと言っている。


「あっ、黒。こっちはレースか」

 なんのことか言うまい。


 あと、たまに見える肌色はなに?

 スカートがペロリとめくれて、どうみても「履いてない」のがチラホラ見受けられる。


 そういう健康法だろうか。

 そんな子に限って上をやっているし、盛大に落ちたりする。


 何かが多いのだ。思わず、レトルトカレーのCMを思い出してしまった。

 そんなことを考えている間に、1、3組の将が全騎落とされ、2、4組の勝利が決まった。


 勝利の雄叫びと、敗者のうめき声が校庭にこだました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まじで最高!めちゃくちゃ笑いました笑笑 今までの話も面白くてほんとに楽しいです!
[良い点] 一年の騎馬戦、めっちゃ面白かった! この世界での普通の高校生らしい、ぶっ飛び方というか 突っ走りっぷりというか、勢いが見れてよかったです。 本当なら学校側は、校長室で穏やかに話をしてい…
[良い点] (――セーラー服でやるものじゃないな) [気になる点] 奉活は男性の希望に添って行うとあった。 [一言] 当然の帰結ってやつですね。 地味に、穿いてない方が印象に残らないような気も。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。