↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
76/422

069 誕生日(1)

 今日は休日。そして俺の誕生日だ。

 となれば、やることは一つ。


 中学の班員と、二回目のデートなのだ。

「――いってきます」


 もとの世界では、女の子とデートなど考えられなかった。

 二回目とはいえ、ドキドキワクワクしすぎて、昨晩はよく眠れなかったほどだ。


 最寄りの駅までゆっくりと歩く。

 目的地は、南地区にある舞踊会館。バスだと乗り継ぎが面倒なので、電車で向かうことになった。


 裕子は先に会場入りしているので、真琴とリエの二人と駅前で待ち合わせしている。

「誕生日が休日に当たるのは運がいいな」


 一年生の間で俺のことが有名になりつつあるらしいので、こういうイベントは仲の良い人たちだけでひっそりと行いたい。


 高校の班員には悪いが、彼女たちとは今後の一年間を通して、少しずつ親しくなっていければと思っている。


 駅までの道すがら、俺はつい最近終了した班外交流を振り返った。


 彼女らと交流して思った。やはり、「女性」と一括(ひとくく)りにすべきではないのだ。

 みな個性があり、バックグラウンドを持ち、この世界を懸命に生きている。


 彼女たちと同じクラスになれたのは偶然。

 だからこそ、この縁を大切にしていきたいと思っている。


「ただなあ……」


 一人だけ分からないのがいた。

 (しの)志穂(しほ)さんだ。


 彼女は、「どうしても外せない用事があるの」と班外交流を欠席した。


 同じ班員は「もったいない」と、とても残念がっていたが、後日俺がフォローしに話しかけると「(ほどこ)しは要りませんことよ」となぜか上から目線だった。


 彼女によると、班外交流は「俺が下々(しもじも)へ施し」をしたことになるらしく、自分は彼女たちとは違うのだと主張していた。


 篠さんの班員は特区内生ばかりだし、篠さんと同じ立場だと思うのだが、なぜ彼女だけが違うのだろうか。


 そんなことを考えていると、駅についた。

 もちろん真琴とリエはすでに到着している。


 二人のことだ、三十分前には来て、待っていたのではなかろうか。


「おはよう」

「おはよう、武人(たけと)くん。そして誕生日おめでとう」


「ありがとう、真琴。今日はずいぶんと可愛らしい格好だね」

 歯の浮くようなセリフだが、最近は普通に言えるようになってきた。


「ありがとう。これ……はじめて袖を通したのだけど、少し派手じゃないかしら」

 薄手のブラウスに春らしい淡い色のカーディガン。首にショールをまいている。


「全然派手じゃないよ。それにとてもよく似合っている」

「もう……でも、ありがとう」


 真琴は後ろを向いてしまった。

 耳が真っ赤になっているので、しばらくはそのままだろう。


「おはよう、リエ。GWぶりだね」

「うえっ。お、おはよう、武人くん……げ、元気だったかな」


「一緒にBBQしてから、まだそんなに経ってないじゃないか。もちろん元気だよ」

「そ、そうだよね、ハハハ」


 実は出かける際、母から先日の顛末を聞いた。情報源はおそらく「ママ会」。

 俺が感極まってリエを抱きしめたことが二人に広まり、ちょっとした騒動に発展したらしい。


「もしかすると引きずっているかもしれないから、早めに話題にして、わだかまりを取っちゃいなさい」と言われた。

 なるほど、さすが年の功と思った。


「リエも今日はおとなしい格好だね。いつものスポーティなのもいいけど、こっちも清楚な装いで、よく似合っているよ」


「ありがとう。この前お母さんに連れられて、めったに行かない店で選んでもらったんだ」


 リエは珍しくスカートだった。

 膝下まであるロングのスカートは、活発なリエを清楚な感じに仕上げてくれている。


「二人と出かけられて幸せだよ。……じゃ、行こうか。裕子も向こうで待っているんだろ?」

「ええ、休憩所があるから、発表前に一回、落ち合おうってことになっているの」


 今日は俺の誕生日デートだが、裕子が習っている日本舞踊の発表会でもある。


 先日、舞踊の大会があり、その優秀者として裕子は表彰された。

 そして本日、多くの人の前で踊りを披露することになっているようだ。


 こういうところは、なんでもソツなくこなす裕子らしいと思う。


 電車に揺られること二十分。目的の駅に到着、そこから舞踊会館まで歩いた。

 到着直前に真琴が裕子に連絡を入れた。


「先に休憩室に行っててって」

「そうか」


 休憩室は、自販機が並んだシンプルな場所だった。

 椅子に腰掛けて待っていると、髪をハーフアップにし、ぼかし(べに)まで終わった裕子がやってきた。


「おはよう裕子。準備の途中みたいだけど、大丈夫?」

「おはよう、武人くん。そしてお誕生日おめでとうございます。時間はまだまだあるから大丈夫よ」


 日舞の作法だろうか。裕子はゆっくりとした動作で、優雅に礼をした。

 着替えは化粧を終えてかららしく、服はいつものままだった。


「準備には時間がかかるのか?」

「まあ、ぼちぼちね」


「発表は何時から?」

「私は三番目だから、十一時過ぎくらいかしら。午前中は四人踊ってお昼休憩、そのあと午後の部がはじまる感じね」


「そうか、大変そうだな」

 時計を見た。いまは九時半を回ったところだ。


 おそらく出番が終わった人から次々と場所をあけて、今日は多くの人が同じ場所を使うのだろう。

「私は、午後にはここを出られるから、それほどでもないけど……」


 裕子は休憩所の入り口に目をやった。だれかが入ってきたようだ。 

 つられて俺も目をやる。


「えっ!?」

 思わず声が出た。


 というのも、やってきた人物は、つい最近会ったばかりで……。

「むっ? (ひな)にはまれなその顔立ち……そなたはいつぞやの」


 その言い方、間違いない。

 スニーカーを買いにいった先で出くわした女性だ。


 しかもどうやら俺のことを覚えているらしい。

「えっ、知り合い?」


 裕子の眉根が寄る。非常に不審な者を見る目だ。


「ああ。ちょっと、しりあ……」

 そこまで言って思い出した。たしか祖母は、彼女のことを華族だと言っていた。


 そう、彼女はあの「やっかい」な華族様なのだ。

「ちょっと、知り合いじゃないかな」


 俺に華族の知り合いはいない。よって、彼女は知り合いではない。

 うん、完璧な理論武装だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。