069 誕生日(1)
今日は休日。そして俺の誕生日だ。
となれば、やることは一つ。
中学の班員と、二回目のデートなのだ。
「――いってきます」
もとの世界では、女の子とデートなど考えられなかった。
二回目とはいえ、ドキドキワクワクしすぎて、昨晩はよく眠れなかったほどだ。
最寄りの駅までゆっくりと歩く。
目的地は、南地区にある舞踊会館。バスだと乗り継ぎが面倒なので、電車で向かうことになった。
裕子は先に会場入りしているので、真琴とリエの二人と駅前で待ち合わせしている。
「誕生日が休日に当たるのは運がいいな」
一年生の間で俺のことが有名になりつつあるらしいので、こういうイベントは仲の良い人たちだけでひっそりと行いたい。
高校の班員には悪いが、彼女たちとは今後の一年間を通して、少しずつ親しくなっていければと思っている。
駅までの道すがら、俺はつい最近終了した班外交流を振り返った。
彼女らと交流して思った。やはり、「女性」と一括りにすべきではないのだ。
みな個性があり、バックグラウンドを持ち、この世界を懸命に生きている。
彼女たちと同じクラスになれたのは偶然。
だからこそ、この縁を大切にしていきたいと思っている。
「ただなあ……」
一人だけ分からないのがいた。
篠志穂さんだ。
彼女は、「どうしても外せない用事があるの」と班外交流を欠席した。
同じ班員は「もったいない」と、とても残念がっていたが、後日俺がフォローしに話しかけると「施しは要りませんことよ」となぜか上から目線だった。
彼女によると、班外交流は「俺が下々へ施し」をしたことになるらしく、自分は彼女たちとは違うのだと主張していた。
篠さんの班員は特区内生ばかりだし、篠さんと同じ立場だと思うのだが、なぜ彼女だけが違うのだろうか。
そんなことを考えていると、駅についた。
もちろん真琴とリエはすでに到着している。
二人のことだ、三十分前には来て、待っていたのではなかろうか。
「おはよう」
「おはよう、武人くん。そして誕生日おめでとう」
「ありがとう、真琴。今日はずいぶんと可愛らしい格好だね」
歯の浮くようなセリフだが、最近は普通に言えるようになってきた。
「ありがとう。これ……はじめて袖を通したのだけど、少し派手じゃないかしら」
薄手のブラウスに春らしい淡い色のカーディガン。首にショールをまいている。
「全然派手じゃないよ。それにとてもよく似合っている」
「もう……でも、ありがとう」
真琴は後ろを向いてしまった。
耳が真っ赤になっているので、しばらくはそのままだろう。
「おはよう、リエ。GWぶりだね」
「うえっ。お、おはよう、武人くん……げ、元気だったかな」
「一緒にBBQしてから、まだそんなに経ってないじゃないか。もちろん元気だよ」
「そ、そうだよね、ハハハ」
実は出かける際、母から先日の顛末を聞いた。情報源はおそらく「ママ会」。
俺が感極まってリエを抱きしめたことが二人に広まり、ちょっとした騒動に発展したらしい。
「もしかすると引きずっているかもしれないから、早めに話題にして、わだかまりを取っちゃいなさい」と言われた。
なるほど、さすが年の功と思った。
「リエも今日はおとなしい格好だね。いつものスポーティなのもいいけど、こっちも清楚な装いで、よく似合っているよ」
「ありがとう。この前お母さんに連れられて、めったに行かない店で選んでもらったんだ」
リエは珍しくスカートだった。
膝下まであるロングのスカートは、活発なリエを清楚な感じに仕上げてくれている。
「二人と出かけられて幸せだよ。……じゃ、行こうか。裕子も向こうで待っているんだろ?」
「ええ、休憩所があるから、発表前に一回、落ち合おうってことになっているの」
今日は俺の誕生日デートだが、裕子が習っている日本舞踊の発表会でもある。
先日、舞踊の大会があり、その優秀者として裕子は表彰された。
そして本日、多くの人の前で踊りを披露することになっているようだ。
こういうところは、なんでもソツなくこなす裕子らしいと思う。
電車に揺られること二十分。目的の駅に到着、そこから舞踊会館まで歩いた。
到着直前に真琴が裕子に連絡を入れた。
「先に休憩室に行っててって」
「そうか」
休憩室は、自販機が並んだシンプルな場所だった。
椅子に腰掛けて待っていると、髪をハーフアップにし、ぼかし紅まで終わった裕子がやってきた。
「おはよう裕子。準備の途中みたいだけど、大丈夫?」
「おはよう、武人くん。そしてお誕生日おめでとうございます。時間はまだまだあるから大丈夫よ」
日舞の作法だろうか。裕子はゆっくりとした動作で、優雅に礼をした。
着替えは化粧を終えてかららしく、服はいつものままだった。
「準備には時間がかかるのか?」
「まあ、ぼちぼちね」
「発表は何時から?」
「私は三番目だから、十一時過ぎくらいかしら。午前中は四人踊ってお昼休憩、そのあと午後の部がはじまる感じね」
「そうか、大変そうだな」
時計を見た。いまは九時半を回ったところだ。
おそらく出番が終わった人から次々と場所をあけて、今日は多くの人が同じ場所を使うのだろう。
「私は、午後にはここを出られるから、それほどでもないけど……」
裕子は休憩所の入り口に目をやった。だれかが入ってきたようだ。
つられて俺も目をやる。
「えっ!?」
思わず声が出た。
というのも、やってきた人物は、つい最近会ったばかりで……。
「むっ? 鄙にはまれなその顔立ち……そなたはいつぞやの」
その言い方、間違いない。
スニーカーを買いにいった先で出くわした女性だ。
しかもどうやら俺のことを覚えているらしい。
「えっ、知り合い?」
裕子の眉根が寄る。非常に不審な者を見る目だ。
「ああ。ちょっと、しりあ……」
そこまで言って思い出した。たしか祖母は、彼女のことを華族だと言っていた。
そう、彼女はあの「やっかい」な華族様なのだ。
「ちょっと、知り合いじゃないかな」
俺に華族の知り合いはいない。よって、彼女は知り合いではない。
うん、完璧な理論武装だ。




