64.5 三人だけの約束(※江藤 リエ)
武人が姉に奉活先を相談していた頃。
真琴、裕子、リエの三人は、カイトメッセンジャーの部屋で、いままさに魔女裁判……も、もとい、宗教裁判……ではなく、軍法会議……らしきものを始めようとしていた。
マコ「……まさかとは思ったけど、本当だったのね」
ユウ「私は驚きすぎて、何度もタイプミスしているわ」
リエ「あ、あのね……あれは不可抗力というか、何というか……」
リエは必死に弁解をはじめるが、相手に届いているとは到底思えなかった。
マコは真琴、ユウは裕子、リエはそのままリエのハンドルネームである。
ことのおこりはこうだ。
リエが部活を終えて家に帰る途中、たまたま武人の母親に声をかけられた。
中学時代、三人で何度か、武人の家の周辺を歩いたことがある。
もしものとき、家の場所くらい分かっておいた方がいいからだ。
もっと踏み込めば、もしものとき、家族の顔くらい知っておいた方がいい場合もある。
そういうわけで三人は、もしものときのため、武人の母と姉の顔をしっかり記憶していた。
そう、これはすべて、もしものときのためである。
もしものときのためなのだから、仕方がない。
リエはだれから声をかけられたがすぐに分かったし、「ちょうどいいわ。おうちにこない?」と誘われたとき、脳内会議をすることなく「はい」と答えてしまった。
あとで冷静になって考えれば、それはとても勇気のいることであり、数日にわたって心の準備が必要なことであったのだが。
そしてもちろん、お呼ばれしたことは家族に話した。
母は大いに喜び、「お礼を言わなくっちゃね。でも……そうよ。ちょうどよいわ」などと意味深なことを呟いていたのが少し引っかかったが、それで話は終わりだと思っていた。
だが、GWに入って「出かけるわよ」と言われ、ノコノコついていった先がまさか、武人の家だとは思わなかった。
そこでいろいろあったのだが、リエとしてはかなりよい結果を残せたのではないかと思っていた。
だが、リエは忘れていた。考えないようにしていたと言っていい。
武人の母が言っていた『ママ会』なるものの恐ろしさを。
マコ「裕子の言いたいことも分かるわ。私もママから聞いて声が出なかったもの」
そう、これらの情報はママ会を通して、真琴と裕子の母親に伝わり、その後、二人の知るところとなったのである。
考えてみれば当然だったとリエは思う。
ユウ「それをリエが隠していたのもね」
リエ「隠しているつもりはなかったの。でもいろいろありすぎて忘れていたというか……」
ここまでリエが慌てるにはワケがある。
フリーハグ券を受け取ったあと、三人で約束したのだ。
――武人に関することで、お互い秘密はナシにしよう
そう誓い合った。
つまりリエは、誓いを破ったことになる。
厳密には、GWが終わってから学校で話すつもりであったし、別段日を跨がずすぐに話さなければいけないと決めたわけではない。
つまり、話すつもりであったが、それよりも早く真琴と裕子が知っただけなのだ。
マコ「でも約束は約束よね。裏切り者には制裁が必要だと私は思うの」
真琴が恐ろしいことを言いだした。
ユウ「真琴、落ち着きなさいな」
リエ「……裕子」
ユウ「マチ針は喉に引っかかるから、用意しちゃ駄目よ」
リエ「裕子!?」
マコ「こんなときでも裕子は冷静ね。たしかに家中の針を集めたら、半分以上はマチ針になるところだったわ」
空恐ろしい会話が聞こえて……いや、チャット欄に流れてきた。
ユウ「まあ、約束したんだものね」
リエ「ちょっ、裕子、本当に秘密にするつもりじゃなかったんだってば。GWが終われば、すぐに話すつもりだったんだって」
マコ「分かっているわ」
リエ「……裕子」
ユウ「私と真琴で500本ずつ用意するから、リエの手は煩わせないから」
リエ「裕子!?」
スマートフォンを握るリエの手が汗で滑る。
そんなとき、スマートフォンが震えた。新しいメッセージが届いたのだ。
マコ「ん?」
ユウ「だれかな」
真琴と裕子も同時に着信したらしい。ということは、相手は限られる。
画面を切り替えると、そこには『武人くん』と表示されていた。
だいたいいつも三人でのチャットは、こんな風に進行しています。
半分ネタ、半分本気といったところでしょうか。仲が良いのはなにより?




