060 庭でBBQ
翌日、世の中はGWまっただ中。
テレビでは朝から、人で賑わう観光地を映し出していた。
各地にある特区も例外ではなく、多くの人で賑わっているという。
今日、わが家は庭でBBQだ。
美奈代さんもようやく仕事が休めるようで、祖母と二家族全員が揃ったことになる。
「さあ、準備を始めましょう!」
母の一声でみなが動き出す……わけではなく、姉が屍になっている。
早朝、姉は祖母にたたき起こされて、俺のトレーニングに付き合わされて、まだ復活を果たしていない。
十キロメートルのランニングのあと、柔軟体操と百メートルダッシュを十本したのだが、姉はランニングを終えることなく轟沈していた。
おニューのウェアだからだろうか。
入部したばかりの新入生を彷彿とさせる。
「母さん、俺は何をすればいい?」
母から借りたエプロンは装着済みだ。
「タケちゃんには、火おこしをしてもらおうかな」
「まかせて」
「お兄さん、がんばってください」
「がんばってください」
萌ちゃんと咲ちゃんが近くで応援してくれている。
「大丈夫だよ。すぐに火がつくからね」
今朝のトレーニングのあと、乾燥した小枝を集めておいたのだ。
新聞紙に火をつけ、小枝、着火剤へと火を大きくする。
着火剤全体に火がまわったところで炭を投入し、あとはゆっくり風を送ってやるだけだ。
はじめてから三十分ほどで、炭に火が付いた。
なかなかのペースではなかろうか。
「へえ、うまいもんだね」
「見よう見まねかな」
祖母が覗き込んでくる。
「こりゃ、教えることがなくなっちまったねえ」
どうやら俺が困っていたら、手を貸してくれるつもりだったらしい。だったら、少しもったいないことをした。
「準備はできたよ、母さん」
「そう? じゃあ、網を敷こうかしら」
台所では美奈代さんが野菜を切っているので、そのうち出てくるだろう。
炭は赤々と燃え、輻射熱で顔がほてってくる。
BBQではビールで乾杯するのが普通だが、わが家は飲める人がいないので、いつもアルコールなしだ。
「美奈代が来たら、ジュースで乾杯しましょう」
ジュースと聞いて、行儀良く並んでいる萌ちゃんと咲ちゃんの顔がほころんだ。
ちょうどそのとき、美奈代さんが、大皿を抱えてやってきた。
「はい、お野菜できたわよ。お肉は三十分前に冷蔵庫から出しておいたけど、まだ冷たいままかな」
「少しくらい大丈夫よ。それじゃ、乾杯の準備……あら、飲み物はまだ出てないわね」
「そうだね。俺が冷蔵庫から出してくるよ」
ジュースを取りに、家に入ろうとすると……。
――ぴんぽーん
呼び鈴がなった。
「あら……だれかしら?」
母が確認しに庭から玄関へ行く。俺もついでなので、ついていった。
するとすぐに「あらあらあら」と陽気な母の声が聞こえてきた。
「母さん、お客様……あっ」
母と談笑しているのは、 春らしい淡い色のカーディガンをはおった三十代後半くらいの女性。
その後ろで、ボーゼンと立っているのは、俺がよく見知った人物。
「リエ、どうして?」
リエは、口を三角形にしたまま「どうしたらいいの?」という表情をこちらに向けていた。どゆこと?
「江藤さんよ。この前のお礼を持ってきてくれたんですって」
「この前の……ああ、夕食の?」
母が帰宅途中のリエを見つけて、家へ引っ張ってきたときのあれだ。
なるほど、目の前の女性はリエ母で、手に持っているのは手土産だろう。
「武人くんね。いつもうちのリエがお世話になっております」
「いえ、こちらこそ、いろいろご迷惑かけてすみません」
リエたちにおんぶにだっこ状態で、中学を卒業している。
少なくとも、俺が世話したことは皆無だろう。
「立ち話もなんだから、あがってって」
「いいのよ。これを届けにきただけだし」
母とリエ母は仲が良さそうだ。
「そうだっ。いまちょうど、BBQをはじめたところなのよ!」
このあとちょっとした押し問答があり、リエとリエ母は、わが家の客となった。
庭に引っ張ってきたともいう。
「……急にごめん。お母さん、何も言わないで出たから」
「あー……ウチもよくあるよ、それ」
おそらく「ちょっと出かけるから支度しなさい」あたりで、行き先も告げずにここまで来たのだろう。
家の前で「まさか」と思っているうちにチャイムを鳴らしたんだと思う。
「でも、家族で楽しんでいたんでしょ?」
「大勢の方がもっと楽しめるしね」
急なことで驚いたけど、こういうのもいいと思う。
「さあ、お客様も増えたことだし、どんどんいきましょう!」
なぜか母のテンションがあがった。
BBQがはじまった。
俺が肉と野菜を焼き、萌ちゃんと咲ちゃんのお皿に取り分けてあげる。
それをするだけで、二人は喜ぶのだから、やらない手はない。
「武人くんって、甲斐甲斐しいんだね」
「いとこたちは、可愛いからね」
いとこは可愛い。可愛いは正義だ。異論は認めない。
「なんか、意外な一面をみた感じ。男の人ってもう少し、家でも中心にいたがらないって聞いたから」
先ほど俺が、姉と仲良く話していたのも、リエはじっと見つめていたが、そんなことを考えていたようだ。
「目立たないようにってこと?」
「そうなの……かな? 家族団らんでも少し離れたところにいたりするみたい」
「あー……自分のことだけにしか、興味がない感じか」
「そうなんだと思う。武人くんは、自然と家族の中心にいるから、少しうらやましいな」
それは、誰がうらやましいのか。俺か、それとも萌ちゃんたちだろうか。
「でもほら、楽しい方がいいじゃん」
姉が嫌いなにんじんをトングで取って、皿に放り込んでおく。
一瞬だけ、ぎょっとした表情を浮かべた姉だが、俺とリエ、そして祖母の顔を見て、とほほと自分の席に戻っていった。
姉よ、好き嫌いは克服しよう。
リエとリエ母が庭にやってきたとき、俺は二人のことをみんなに紹介した。
反応は上々。少なくとも、中学でしっかりやれていたことが分かって、祖母は満足顔。
姉は、「あの子がこんなに立派になって」みたいなことを呟いていた。
すぐ祖母に「アンタももう少し、シャンとしな」と小突かれていた。
「よしリエ、もっと食え。どんどん食え」
焼けたそばから、肉をリエの皿に放り込んでいく。
「ちょっ、そんなに沢山……食べきれないよ」
「肉も野菜もまだまだあるからな。遠慮しないでどんどん行け」
「えーっ、ちょっ、多いって!」
ふたりでぎゃーぎゃーやっていると、母とリエ母が俺たちを微笑ましそうに眺めていた。
「そういえば、リエ。武人くんに言うことがあったんじゃないの?」
「…………えっ!?」
瞬間、リエは固まった。
リエ母は、氷魔法使いかな?




