040 『俺』の決意
彼女たちとのデートを終えて、家に帰ってきた。
とても楽しい一日だったと思う。
「タケくん、おかえり」
「ただいま、姉さん。これ、お土産」
「ありがとう。これ、もしかして……GOLUVAのチョコ?」
紙袋を見ただけで、中身が分かったようだ。
「うん。中央駅に店を見つけたんで買ってきたんだ。受験勉強には糖分が必要だと思ってね」
今日、高校の班員と出かけることは告げてある。中央駅に行ったことも把握しているだろう。
姉は、紙袋を握りしめてプルプルと震えている。
トイレかな?
「ありがとう! 大切に飾っておくね」
「食べてよ!」
冗談だと思うが、マジに飾られたら、本気で引く自信がある。
紙袋を前にして三拍しているけど、本当に飾らないよな?
「それでタケくん、中央駅はどうだったの? 怖くなかった?」
宇宙要塞が出てくるアニメのことを考えていたら、そんなことを言われた。
春休み頃の俺だったら、怖くて中央駅に行くなんて、考えもしなかっただろう。
姉が心配するのも分かる。
「そうだね。思ったより、女性が多かったかな。というか……あれ? 男性の姿を見なかったような」
それほど歩いたわけではないが、男性はいただろうか。
いくら男性の数が少ないとはいえ、家の近所ではたまに見かけるのに、中央駅では皆無だった。
思い返してみればおかしい。
「うーん、休みの日でしょ。用事があっても、だれかに頼めばいいわけだし、わざわざあそこに行くことはないんじゃないかしら」
「なるほど……でも、それだと普通の男性って、休みの日は何をしているんだろう?」
俺の言葉が不思議だったのか、姉はきょとんとした。
「学生は勉強でしょ? タケくんもそうだったじゃない」
「まあ、そうだけど」
俺の記憶だと、休みの日は家で本を読むか、勉強をしていることが多かった。
驚く事なかれ、男性は娯楽を楽しむという気持ちが薄いのだ。
ストイックというより、世に溢れる女性向けの諸々が多すぎて、興味がないのだと思う。
女性向けの町に、女性向けのテレビ、雑誌、マンガ……経済を回しているのは女性だ。
必然、女性をターゲットにした商品ばかりが目に入る。
それを楽しめる男性ならばいいだろうが……と、そこまで考えて思い出したことがある。
中学に上がったばかりのとき、柔道のやりすぎで肩に炎症をおこしたのだ。
最初肉離れかと思って放っておいたら、痛みが激しくなったので、近所の整形外科に通った。
美容整形に来る女性向けだと思うが、待合室には、女性向けの雑誌ばかり置いてあった。
手に取ってペラペラとめくってみたが、まったく面白くない。
こんなのを読む人がいるのだろうかと、本気で不思議に思ってしまった。
何ページにわたって、流行のネイルや最新のコーデが特集されていたので、その雑誌は二度と手を出さなかった。
そういえば、こういうこともあった。
銀行に行ったとき、何気なくラックにあった資産運用の冊子を手に取ったが、意味がまったく分からなかった。
人は興味ないことに対して、まったく頭が働かない。
それと同じだろう。男性は、女性向けのテレビや雑誌をわざわざ見たいとは思わない。
外に出ても同じだ。目に入るのは女性向けのものばかり。
結局、家で好きな本を読むか、勉強くらいしかすることがなかったのだ。
そして世の男性は、こんな環境でも文句ひとつ言わない。
「そう考えると、みんな真面目だよね」
マイノリティゆえの窮屈さを感じているだろうに、だれも声をあげていない。
「男の人はみんな、将来のことを考えているからでしょ」
「将来か……一般的な男性の将来って、何だろう?」
将来、何になりたいかというのは、世相を反映していると言われている。
もとの世界で、「末は博士か大臣か」という言葉を聞いたことがある。
いまならば、スポーツ選手や芸能人、動画実況者などだろうか。
医者や弁護士など、堅実な職業もあがると思うが、人は夢を持って努力するものだ。
「男性の将来の夢? たしか、毎年公務員がトップね。他だと、医師や研究者、弁護士なんかが続くかな」
「公務員がトップなのか」
堅実すぎるなと思っていたら、姉が説明してくれた。
公務員というのは、かなり広義な意味で使われているらしく、役所の職員以外にも、教師や警察官も含まれるらしい。それらを総合すると、ダントツで一位になるそうな。
なるほどと思う。
学校の先生になる男性は多い。医者もそうだ。
身近だったこともあるだろうが、現場で求められているからというのも大きいだろう。
公務員は安定しているという以上に、民間に就職したくないという意識が働くからかもしれない。
もとの世界で、途上国の子供たちの将来の夢は、医者や教師が圧倒的に多いらしい。
圧倒的に求められているからだろう。
おそらく、ゲームクリエイターやお菓子屋さんになりたいと言う途上国の子供たちはほとんどいないのではなかろうか。
そういうのは、衣食住が完備されていて、インフラが整っている国だからこそ、出てくるものかもしれない。
では、この世界の男性はどうだろうか。
自由に外出していいとはいえ、中央駅のような繁華街に行く人はいない。
身の回りにある娯楽も、女性向けのものが多い。
採算度外視で男性向けの商品も提供してくれる会社はあるだろうが、選択肢は限りなく少ない。
自由とは言え、本質的な意味で自由ではないのだろう。
そんな状況だから、男性は『夢』が持てないのかもしれない。
今さらだが、もとの世界ではごく当たり前のことが、この世界では違うことに気づかされる。
「なんか、男も大変だね」
「そうね。圧倒的に数が少ないのは、ものすごいハンデだと思うわ」
姉もそれは分かっているようだ。
部屋に戻り、裕子にお礼のメールを送る。
返信はすぐにきた。やはり、あれからずっと気になっていたようだ。
隠してもしょうがないので、高校の班員と交流するため、中央駅に行ったことを告げた。
そこで党人会の女性たちに絡まれた話をすると、しばらくして「こっちでも調べてみる」と返信があった。
それと、あまり危険なことをしないようにと、しっかり釘を刺された。
菊家さんを庇うため、党人会の女性たちとの間に入ったのは後悔していない。
衆人環視の中だったからよかったが、これからは気をつけることにしよう。
しかし、結局、男性も女性も何気に我慢を強いられている気がする。
社会をうまく回すためには、仕方ないのかもしれない。
男女がその感情のおもむくまま行動したら、大変なことになるだろうから、それはいい。
だが、すべてこのままでいいとは、俺は思わない。
少なくとも俺の周囲にいる女性たちは幸せにしたいし、淳を含めて、男性たちが生きにくいこの環境も変えていきたい。
「男性が安心して特区外に出かけられるように……さすがに、まだ先の話だな。最初は自由に公園や店に行けるくらい自由になれればいいな」
女性の意識が変われば、男性の意識も変わる。逆もまたしかりだ。
まだ15歳の俺が何か言ったところで社会がすぐに変わることはないだろうけど、人生は長いんだ。
徐々に変えていけばいい。
すぐにできることをしよう。俺にできることをしよう。
仲間を集めて、信頼を得て、みんなで変えていこう。
目標は決まった。だったら、俺がはじめにすることといったら……。
「――よし、モテるぞ!」
結局、それかい!




