393 新学期はじまる
今日から新学期だ。
ダチと遊ぶのも楽しいが、俺はやはり女の子に囲まれたい。というわけで……。
「おはよう、みんな!」
「「「おはようございます!!」」」
教室に入ると、クラスのみんなが笑顔で挨拶を返してくれた。
やはり女の子が、近くにいるのはいい。
「香流、一昨日ぶり! 元気してたか?」
「おはよう、宗谷くん。今日も元気だね」
「学校がはじまったから、元気いっぱいだぜ。……しかし夏休みって、なんであんな退屈なんだろうな」
最後は、やることがなさすぎて身体を鍛えてばかりだった。
橋上さんや裕子たちは、イベントの後処理があって忙しい。
誘ったら、絶対無理してついてくるので、それは止めておいた。
テレビはあちこちのチャンネルで、俺の顔が映っていた。
許可した映像を繰り返し流しているので、同じシーンばかりだ。
すぐに飽きたし、わざわざテレビで自分の顔を見る必要はない。
というわけで、夏休みの最後の方は、かなり時間を持て余してしまった。
香流とダベっていると、担任の一瀬先生がやってきた。
「あっ、先生。おはようございます」
「おはようございます。宗谷くんは……元気そうですね」
「もちろんですよ。早く学校がはじまらないか、指折り数えて待ってました」
俺の元気な答えに、一瀬先生は引きつった笑顔を浮かべていた。
目の周りにクマができている。寝不足か、それとも体調が悪いのか。
「宗谷くん。放課後、少しお話ししたいので、職員室に来てもらえますか?」
「放課後ですね、分かりました。忘れずに行きます!」
担任は、俺に何か話があるようだ。
そういえば、長期の休み明けによく担任に呼ばれている気がする。
「……そ、それでは、これからビデオ集会がはじまります。先生は職員室に戻っているので、みなさん静かに聞いていてくださいね」
担任はテレビのスイッチを入れると、すぐに職員室に戻ってしまった。
「先生、なんか体調が悪そうだな」
隣の香流に囁くと、香流も「そうだね。心労かな?」と心配していた。
「なんか教師って、大変だよな……おっ、はじまるみたいだ」
教室のスピーカーから音楽が流れだした。
今日はこのビデオ集会が終わったら解散だ。
しかし担任が、妙に疲れた顔をしていたのが気になる。何か心配事でもあるのだろうか。
『……みなさんはきっと長い夏休みの間、充実した毎日を過ごされたことだと思います。二学期もよいスタートをきるためには……』
そんなことを考えていたら、いつの間にか校長先生の話がはじまっていた。
「失礼しま~す、宗谷武人です……あっ、一瀬先生。来ましたよ。また相談室ですか?」
「ええ……そうです。いま鍵を貰ってきますね。先に部屋の前で待っていてください」
「了解です」
相談室前の廊下で待っていると、すぐに担任がやってきて扉の鍵を開けた。
「先生、疲れてます?」
「そうですね……それなりに忙しい日々でした」
「今日から新学期なんですから、無理しない方がいいですよ。それで今日は何の話なんです?」
いつも通り、担任と向かい合って座った。
「あのですね、夏休み中……複数の生徒から、それぞれのクラスの担任に相談がありました」
「はい? えっと、生徒がクラスの担任に相談した……んですか?」
一瀬先生は重々しく頷いたが、それが俺と何の関係があるのだろう。
「ほとんどの相談が『困っているので、どうしたらいいか』というものでした」
「はい……それが俺とどんな関係が?」
「もう少し詳しく言いますね。宗谷くんに渡してくれ、取り次いでくれと言われて、困っているようなのです」
「俺に取り次ぐとか……なんか今さらですよね?」
俺がテレビで有名になったから近づきたいのだろうけど、それこそ今さらだ。
「おそらく、選挙が近いからでしょう。なりふり構っていられない大人の人たちがいて、生徒のところに話がいったようです。ここ数日は、相談を受けた教師が対応に追われていました。もちろん、私もですけど」
担任が疲れた顔をしている理由は分かった。
「選挙がらみって……もう少し、相談の内容を具体的に教えてもらえますか?」
「はい。来月、国政選挙が行われますよね」
「総選挙でしたっけ」
「そうです。下馬評では与党が有利となっています。野党第一党が失脚したことが響いているのでしょう」
与党が単独過半数を獲る勢いで、それを阻止したい野党は、表面上は一致団結しているらしい。
与党は、これまで阻まれてきた政策が一気に進むチャンスだと張り切っているらしい。
一方の野党はあとがない。まさに背水の陣で、これまた気合いが入りまくっているとか。
そしてこの選挙、世間の注目度は高く、浮動票がどう流れるか分からず、専門家の間でも意見が分かれているらしい。
これに頭を悩ませたのが、それぞれの選挙参謀。
自陣営が勝利するには、より自然な形で俺を味方につけるべきと思ったらしい。
「なんで俺?」
「宗谷くんが、いま世の中で一番影響力があるからです。選挙参謀から世論主導者と認識されたのでしょう」
「へえ~……俺がねえ。政治や選挙? 難しいことは全然分からないんだけど」
「それでもです。来月の選挙を睨んで、宗谷くんへ間接的に接触しようという動きがあります」
「それって、相談を受けた生徒から聞いたんですか? どんな内容なんです?」
「はい。たとえばですけど……」
たとえば、日本で一番有名なテーマパークのプラチナチケットを「友達と一緒に行ってください」と複数枚もらったとする。並ばなくてもいいやつだ。
もちろん俺は、ウキウキで友達を誘って出かけるだろう。
すると当日、チケットをくれた女子生徒がテーマパークに来ている。
ばったり会えば「この前はチケットありがとう」と話すことになる。
礼儀を欠くわけにはいかないから、話しかけるのは当たり前だ。
彼女の連れもその場にいる。そのとき、一体だれが彼女の連れだろうか。
他にも、特区で一番格式の高いホテルの食事券をくれたりする。
予約されたものなら、その日その時間に行くしかない。そこでもばったり女子生徒と会うわけだ。
高額な食事券をただでくれたわけだ。
そこで話をするのに否はない。テーブルに出向いていって、「ありがとう。おいしかったよ」くらいは言うだろう。
そういう計画があるのだと担任は言う。
女子生徒と一緒にいるのは……簡単に予想がつく。来月の選挙の候補者だ。
と言っても、俺と会ったことを選挙活動には使えない。
未成年は、選挙運動できないからだ。
だが、一緒に写っている写真、親しくしているものが一枚でもあったとしよう。
その場で写真をねだられれば、断る方が角が立つ。
これをちょっとした相手に見せる分には問題ない。
「彼は応援してくれる方の娘さんの友人でね」などと、大会社の社長、政治記者、支持者にささやけばいいのだ。
それが噂として広がる。
途中で「彼は応援してくれている」「二人はとても親しいらしい」に変容するかもしれない。
しょせん噂だから、選挙違反でもなんでもない。
別段、俺に何かをさせるわけじゃない。
俺が物を貰ったり、何かを提供してくれるだけ。
俺に一切、デメリットがない形だ。そういう話が女子生徒に来ているのだという。
「それで相談したわけですか」
「断れない筋から来ているところもあるみたいね。いままでは『夏休み中だから』で引き延ばしていたけど、どうしたらいいですかと相談してきたのよ」
断れない筋……おそらくは母親がらみ。
しかも母親の会社のさらに上。大元とか、大きな取引相手とかなのだろう。
話の出所は政治家だろう。
そこから下っていって、最終的に女子生徒にしわ寄せが来た感じか。
「なるほど……で、俺はどうしたらいいんですかね?」
「どうしたらいいと思いますか?」
「ん!?」
なぜ俺に聞く?
「女子生徒から相談を受けた先生方も答えに窮して、私のところに話が来たのです。私もどうすればいいのか、分かりません」
「まあ……そりゃ、そうですよね」
「とりあえず宗谷くんに話しておこうと思いまして、こうして相談しているわけです」
政治家から大企業の社長へ話が行き、女子生徒の母親が勤めている会社に話が行って、そこから母親を通して女子生徒に話がいく。
女子生徒が困って、学校へ相談を持ちかけた。
話を聞いたその担任は、一瀬先生に丸投げ……げふんげふん相談して、困った一瀬先生は……俺に相談した?
「ここは相談室ですけど、教師が生徒に相談するところじゃないですよ」
新学期早々、俺はなぜ相談を受けなくちゃならないのだろうか。
土日はシャベルかついで、山中を歩いてTKNK掘りしていました。
気がついたら月曜日です。う~む。




