392 ダチとゲーム
「よっしゃ、勝ち!」
「あー、負けた。……宗谷くん強いね」
「はっはっは、俺はゲーム実況で鍛えているからな。まだまだ淳には負けないぜ」
八月ももうすぐ終わる中、俺は淳と香流を家に呼んでゲームをしている。
高二の夏休み。男のダチと騒ぐのも青春の一ページだ。
休み中も仮面実況で会っていたが、今日は男だけの集まりを純粋に楽しもうと思っている。
「次は香流と淳の対戦だな。戦績は……淳が三勝で香流が二勝か」
俺は場所を香流と変わった。
いま、三人で『対戦格闘ゲーム大会』を開いている。
キャラとステージはランダム設定なので、得意キャラだけ使用することはできない。
得意不得意や、マップの有利不利もあって、なかなか白熱した戦いになっていたりする。
「今回はパワー系かぁ。これ、飛び道具への対処が難しいんだよね」
「その分、近づかれたら僕が不利だから」
近接キャラと遠距離キャラの戦いになった。どちらの土俵で戦うかで、勝敗が決まりそうだ。
序盤は淳のキャラが被弾していたが、体力を削りきられる前に組みついて押し勝った。
「うまく近づけたな」
「そうだね。結構シビアなタイミングだったと思う」
感想戦をしているとドアがノックされ、姉が顔を出した。
「タケくん。これ。どうかな」
姉は部屋に入らず、お盆に載ったケーキを部屋の中に差し出した。
「これ、姉さんからだって」
「ありがとうございます」
「ごちそうになります」
淳も香流も如才ない。
よく訓練された返答に、持ってきた姉の方が「あわわ」と狼狽えている。
「姉さん、ありがとう。これ……買ってきたの?」
「たまたま出かける用事があったから」
「そうなんだ。すぐにいただくよ」
差し入れは近所の農家が販売しているロールケーキだった。
使われている卵はそこで飼われている鶏が産んだもの。
生地に練り込まれているのは、色からしてホウレン草か小松菜だろう。
特区内に農家があるというのは珍しいが、地産地消を目指しているらしく、庭先で野菜、その奥ではスイーツが売っていたりする。
家に男友達が遊びに来るのは珍しいからか、姉が顔を出したのはこれで三回目だったりする。
初回は飲み物、二回目は焼き菓子。そして今回がロールケーキ。時間的にこれはダッシュで買いにいった気がする。
「それが終わったら休憩にするか」
せっかくなので、ロールケーキをすぐ食べることにする。
「宗谷くんのお姉さんって、いま大学生だっけ?」
休憩中、淳が聞いてきた。
「おう。小学校は共学だったからどうしても特区から出たくないって、必死に勉強していま特区の女子大に通ってるんだ」
俺がいたので、姉は無条件で共学の小学校に通えたらしい。
低学年の頃は、毎日手を繋いで学校まで向かったのだ。
中学からは、さすがにそういう優遇がないので、姉は共学には通えなかった。
小学生時代の思い出があるせいか、姉は絶対に特区から出ないと頑張っていた。
そして見事、特区の女子大に合格したのだから、相当頑張ったのだと思う。
「そういえばさ、俺はずっとイベントにかかりっきりだったじゃん。淳と香流とも会えなかったけど二人は、どんな夏休みだったんだ?」
「僕は母の会社関連のパーティに出たくらいかな」
「淳のところはいつもパーティしているよな」
「長期の休みのときは、だいたいパーティに呼ばれるね」
パーティ好きだな、淳の母親の会社。
「僕はたまに中学時代の友達と遊んだけど、なんかもう話が合わなくて、一回だけだったかな。会ったのは」
「あ、それ分かる。僕も最近は男子校に通った友達と一緒に遊ばないかな。なんか会話がかみ合わないよね」
「へえ、そうなの?」
淳と香流が意気投合しているが不思議だ。
たった一年や二年で、昔の友人と話がかみ合わなくなるだろうか。
環境が違うと、考え方が違ってくるとか?
「それだけ充実しているってことなのか?」
「そうだね。宗谷くんがいるから学校が楽しいんだと思う」
淳が嬉しいことを言ってくれた。
「俺も淳や香流と知り合えて嬉しいよ。よっし、食い終わったら対戦の続きといくか」
いまのところ、俺が暫定一位で、淳が二位。そして香流が三位だ。
「宗谷くんのクセは分かったから、そろそろ僕も反撃させてもらうよ」
「おう。かかってこい、香流……ってやべっ、これパワー系じゃん」
「あっ、僕もだ」
俺と香流の対戦は、互いに間合いの外から睨み合う展開からスタートした。
「互いに投げ技が得意なキャラだと、一瞬の油断が命取りだな」
「あと数ドット近づいたら吸い込まれる間合いだね。緊張する」
「一瞬の無敵時間でダッシュ……そりゃ!」
当たらない技を繰り出しても、わずかな無敵時間が存在する。その間に近づいたのだが……。
「投げられた……事前に作戦を言うものじゃなかったわ」
俺のダッシュは躱され、無敵時間が切れたあとで投げられた。
「くそっ! だがまだ挽回できるぜ」
そこから互いに打ち合った結果、最初に投げられた分だけ、俺が競り負けてしまった。
「あと二勝すれば、宗谷くんとイーブンだね」
「やられたな……そうだ、今度仮面雑談でもゲーム大会するか?」
「それはいいけど、どんな感じになるの?」
「カメラでプレイしているところを撮って、あとでテレビ画面にくっつければいけるんじゃないかな」
「それくらいなら僕もいいかな。興奮して変なこと口走らなきゃいいけど」
「その辺は編集できるだろ。よし、それまでに腕を磨いておくか」
このあと、それぞれと十数戦して、俺はなんとかトップを死守した。僅差だったが。
ひと息ついていると、ドアがノックされ、姉が顔を出した。
「タケくん。お友達、夕食……食べていく……かな?」
「おお、そんな時間か。なあ、ウチで飯食っていくよな? 姉さん、今日はなに?」
「えっ!? カ、カレーだけど」
「おっしゃ! じゃあ、できたら呼んで。そしたら下りていくから」
「う、うん。お友達……ほんとにいいの?」
姉は香流たちをチラチラ見てからドアを閉めた。
一時間後、呼ばれたので一階に行くと、姉と萌ちゃん、咲ちゃんもダイニングに来ていた。
「萌ちゃんと咲ちゃんも一緒にカレー作った?」
「はい」と元気よく答える二人。うん、いつも可愛い。俺が頭を撫でると二人は嬉しそうな顔をした。
「紹介するよ。イトコの萌ちゃんと咲ちゃん。同じ家に住んでいるんだ。……それでこっちが淳と香流。一年と二年で同じクラスだったダチだな」
「こんにちは、おじゃましています。久能淳です」
「僕は櫛凪香流です。よろしくね」
「宗谷萌です」
「同じく咲です」
「じゃ、自己紹介も終わったし、食おうぜ。姉さん、ちゃんと牛肉だよね?」
姉は苦笑して頷いた。
カレーの肉はチキン、ポーク、ビーフのどれかが一般的だが、俺はビーフ一択だ。
普段はそれほど肉にこだわりはないが、カレーだけは牛肉が譲れない。
「ウチは母さんが遅いから、姉さんが作ることが多いんだ」
二人に説明すると、感心していた。
「お姉さんは料理がうまいんだね。このライタもおいしいよ」
「ライタって……このヨーグルトサラダ? これ、ライタって言うのか。カレーに合うからウチではよく食べてるけど」
「ライタはインドのサラダだから、カレーにはよく合うと思う。僕の家はゆで野菜を副菜にすることが多いかな」
「ゆで野菜か。それもおいしそうだな。香流んとこは?」
「僕の家だと、お弁当だったり、デリバリーが多いかな。カレーもスープカレーにして、パンと一緒に食べることが多いんだ」
「スープカレーもうまそうだな。姉さん、今度スープカレーを作ってよ」
「いいけど……うん、できそう……かな?」
姉は、スマートホンですばやくレシピを確認して頷いていた。
「そしたら香流、また食いに来いよ。違いが分かって楽しいかもしれないだろ。あっ、淳も」
「うん。呼んでくれたら、またお邪魔させてもらうよ」
こうして俺と姉、萌ちゃん、咲ちゃん、淳と香流の六人で、楽しく夕食を摂った。
後日、仮面雑談配信で、そのときのことが話題に出たのはいうまでもない。
2000万PV達成しました。ありがとうございます。




