20.5 私の運命(※ 時岡 真琴)
私、時岡真琴は、中学三年のとき、運命的な出会いを果たした。
運良く、女子の間で密かに噂されていた宗谷武人くんと同じ班になれたのだ。
「一年間、よろしくね」
私がそう告げても、宗谷くんは無言。人慣れしない野生動物のような瞳を向けてきた。
同じ班になった裕子とリエとは、すぐに親しくなれたけど、宗谷くんとは、とても時間がかかった。
「貧乏くじを引かせてしまって、ゴメンね」
一度、裕子にそう言われたことがある。
「ううん。班長は、私から言いだしたことだし、気にしてないよ」
そう答えたが、多少は頬が引きつっていたと思う。
昨年、宗谷くんと同じクラスだった女子が、今年も彼に、猛アプローチをしかけていたのだ。
班長の私が宗谷くんのガードをしているうちに、なぜか私の悪評が学年を駆け巡ったらしい。
私は『男子を独り占めする悪女』なのだと。
この「独り占め」という表現を女子に対して使った場合、最大級の侮蔑となる。
周囲や相手のことを考えず、自分のことだけしか見ていない、考えていない、男性を独占する悪女。
即、特区を退去させるべき人間だと言いたいのだ。
どうやら昨年の班長は、彼女に宗谷くんとの接触を許すかわりに、いろいろ便宜をはかってもらったらしい。
どんな取り引きをしたのか知らないが、宗谷くんは昨年の班長に売られたのだ。
特区には金か権力、もしくはその両方を持つ人間がいる。
私を侮蔑した彼女の親も、それに含まれるのだろう。だからやりたい放題だ。
三年にあがって、私がすべてガードしたことで、彼女は怒り心頭。
悪評を流すしか、対抗手段がなかったわけだ。
「そりゃ、宗谷くん……女性不信ぎみになるわけよね」
裕子がため息をつく。
班が決まった当初、三年目とは思えないほど、宗谷くんの態度は硬かった。
普通ならもう少し、中学生活に慣れているはずだ。
私たちが嫌われていたのではなく、二年のときの班長が原因だったのだ。
「任せて! 宗谷くんには、最高の一年間を提供するつもりだから」
「でもあなた、それをしたら……」
「その先は言わないでっ! 私は気にしないから」
そう言って笑ってみせたが、うまく笑えていただろうか。
私が悪評にめげないと分かると、彼女は大小の嫌がらせを直接しかけてきた。
小さな嫌がらせから、大きなものまで。浜辺に押し寄せる波のように繰り返しだ。
正直、心が折れるかと思った。
だけど、そうはならなかった。
「武人と呼んでもいいよ」
宗谷くん……ううん、武人くんがそう言ってくれた。
彼はこれまで決して、女子には名前で呼ばせたことがないらしい。
距離を詰めたくて名前で呼びかけると、必ず訂正させられたという話を耳にする。
そんな武人くんが、私にだけ名前で呼ぶのを許してくれた。
その衝撃は班内に留まらず、クラスにも響いた。
クラスどころか、学年全体にもその話が広がったのだから、かなり注目されていたと思う。
結果、彼の意に沿わないのは相手の方という見方が一般的となり、私に対する嫌がらせの数々はなくなった。
その後、裕子とリエも名前で呼ぶことを許してもらい、四月に私が宣言したとおり、最高の一年間を提供することができた……と思う。
あれさえなければ。
「まさか、共学校に行くことになるなんて……」
裕子が絶句しているが、正直、私には予感があった。
「担任の瀬場のせいだと思う」
40歳に手が届くといわれるクラス担任の瀬場先生は、とても上昇志向の強い教師だ。
年齢的に、そろそろ校長へのルートに進みたいのだろう。
教育委員会へのウケをよくするため、武人くんは売られたのだと私は確信している。そう、またしても武人くんは売られたのだ。
一般にはあまり知られていないが、従順かつ、容姿が優れている男子が、共学校へ振り分けられる。
母の友人が高校教師をしていて、中高の間で裏取引じみたやりとりがあることを教えてくれた。
担任は、自分が受け持った生徒はかわいい。愛着をもっている。
それゆえ、なかなか共学校へ推薦をしたがらないのだという。
そこをなだめすかして、最適な男子を推薦してもらう。
中高の教師が初冬に集まって話し合い、密かに決めるらしい。
「あれ以来、武人くんは呆然としてるし……わたし、伊月高校受験しようかしら」
「さすがに無理じゃない? 何百倍って聞くよ」
「たぶん、勉強はなんとかなる。だけど、それ以外の判定で落とされるかも」
裕子はたぐいまれな頭脳を持つ超優等生だ。
全国の猛者と比べても遜色ないほど。
だがそれでも、受かるとは言いがたいのが現実。
特区にあるヒエラルキーでは、裕子は平凡極まる一般家庭の出。
そういう人材も伊月高校は求めているが、それは裕子でなければならない理由はない。
「落ちたら素直に一宮に行く。だけど、挑戦させて」
一宮高校は、私たち三人が一緒に行こうねと話し合った高校だ。
男子校の近くにあるため、それなりに難関だが、そこに入って、武人くんを見守ろうと誓い合った。
「伊月を受けるのね。うん、応援する」
「ありがとう、武人くんをお願い」
「分かった。受験、がんばって!」
「ぜったいがんばる!」
だけど、裕子の思いは通じなかった。
面接までいったのだけど、そこまで。セレブの壁は厚かったと落ち込んでいた。
結局、私たちは共学校に行く武人くんについていくことはできなくなった。
失意のまま卒業式を迎え、そして春休みになった。
いくらメッセージを送っても、武人くんからの返事はない。
「思い詰めてなければいいけど」
「やめてよ、裕子」
「だけど、心配だよ……家、行ってみない?」
「それこそ駄目。元クラスメイトが訪れるのはギリセーフだと思うけど、武人くんが嫌がったら、家の人が通報しちゃうかもしれないし」
「歯がゆいわね。どうしたらいいと思う?」
「一応、提案があるんだけど」
そう言って私は、入学式の日に、武人くんを通学路で待ち受ける提案をした。




