020 班で集合
八つの班がすべて決まった。これから各班で集まって、いろいろ決めるらしい。
俺の周囲に、四人の女子が集まってきた。
当然、みな初対面だ。
「知っていると思うけど、宗谷武人です。みんなの自己紹介文をじっくり読ませてもらいました。いろいろ質問はあると思うけど、それは追い追いということで。まずは各自、自己紹介してもらえるかな」
緊張していたが、一気に言うことができた。これは幸先がいい。
「はい。では私からでいいですか?」
「菊家さんかな? どうぞ」
俺が名前を当てると、彼女は少し驚いていた。
「菊家友美です。家はおそらくだれも知らないと思うので、埼玉県のかなり田舎の方とだけ。ここまで二時間かけて通っています。どうぞよろしくお願いします」
菊家さんは、なんというか委員長風味だ。
やぼったいメガネをかけていて、髪は左右で結んでいる。
いいコンタクトレンズがあるにもかかわらず、メガネというのはこだわりなのか、面倒なだけなのか。
俺が彼女を選んだ理由は、苦学生だから。遠距離通学という剛の者というのも基準に入っている。
中学生の頃からスーパーでアルバイトをして、母親の家計を助けていたらしい。
この世界では、中学生からアルバイトができるようになっている。
人口が少ないから、純粋に人手が足らないのだろう。
勤労少女だが学業は優秀らしく、学校の強い勧めでここを受験したらしい。
自己紹介文には書いていなかったけど、おそらくは学業特待生だと思う。
「じゃ、次はあたしね。あたしは遠野彩乃、15歳。こう見えて、ファッションと特区内には詳しいんだ」
こう見えてというか、そうとしか見えない外見の彼女は、コギャル風なアクセサリを身につけている。
各所から鎖が頭を覗かせ、動くたびにジャラジャラと音を立てている。
鎖の先についた小物は、先生に見つかったら、没収されるんじゃなかろうか。
優等生然とした菊家さんとはまったく正反対だが、ここにくるのだから、頭が悪いわけではないだろう。
ファッションに詳しいらしいので、自身でいろいろ研究し、自分にもっとも合ったものを身につけているのだと思う。
彼女を選んだ理由は単純に、他に似たような人がいなかったから。
個性的すぎたので、迷わず決めてしまった。
「橋上雛子です。よろしくお願いします」
三人目は物静かな大和撫子風美少女。着物が似合いそうな、古風な外見をしている。
声が上ずっているのは、緊張しているからだろう。
彼女は外見に似ず、サブカルに強い。ヲタといえばいいのだろうか。
『腐』がつくかは自己紹介文からは分からなかったが、趣味に生きる女子といった覚悟が読んでいて伝わってきた。
あとパソコンにも詳しいらしいので、理系人間かもしれない。
俺はそのへんのところが疎いので、これから助けてもらうことも多そうだ。
「ユウの番だね。青野由宇だよ。陸上の特別推薦枠で入ったんだけど、球技も得意だからね! みんなよろしくね」
小柄ながら、若駒のようなしなやかな肉体を持つ彼女は、自己紹介の通り、スポーツ推薦組。
といっても、学力試験は普通にあるので、もとの世界と同一視してはいけない。彼女こそ文武両道なのだ。
陸上をやっているだけあって適度に日焼けした肌がまぶしい。カリカリジューシーと名付けたくなりそうだ。
この中で唯一ショートヘアである。
俺が自己紹介文から選んだ基準は、他と被らない能力を持っていることだけだった。
容姿や家柄とかは一切考慮せず、本人が面白そうかどうかで決めている。
クラスで一年間、一緒に過ごすのだ。この面白そうかどうかは重要だと思う。
「この中から班長を選ぶわけだけど、これはクラスの女子に恨まれる損な役割になるかもしれない。それでもやりたい人はいるかな」
班長はブロッカーになる。
みんな男子と話したいのだ。それを「彼に用があるなら、私が聞いて、それを伝えます」とガードする。
当然、「何様よ」と恨みを買うことになる。たとえ学校側が「そのように配慮せよ」と言っていたとしても。
「私がやります。さっき名前が挙がったときから、やろうと決めていたので」
菊家さんが手を上げた。他の三人はそれで問題ないらしい。
遠野さんはあからさまに、ホッとした表情をしていた。
「それじゃ菊家さん、一年間、班長お願いね」
「はい。精一杯やらせていただきます」
「そんなに気を張らなくていいよ。何があっても、俺は菊家さんの味方だから、もし不快な思いをしたらすぐに言ってね」
俺がそう告げると、菊家さんは「はい」と少し涙声になっていた。
その後、五人で雑談をしていると各班の自己紹介が終わったらしく、担任が他己紹介をするようにと促した。
順番がきて、俺たち五人は教室の前に並んだ。
そこで菊家さんは、堂々と俺たちを紹介した。
教壇の前からクラスを眺めていると、悲喜こもごもな様子がよく分かる。
中学校と違い、二つの班にしか男子がいない。
残り六つの班は一年間、どうなるのだろうか。
俺は他己紹介を聞きながら、できるだけ菊家さんに負担がかからなければいいなと考えていた。
ちなみに席は班でまとまるのが原則であるため、俺は淳と相談した。
結果、俺たちが隣同士に座り、その周囲を同じ班のメンバーで固める案が採用された。
「席替えをしても、ずっと一緒でいいよね」
「ああ、それでいこう。たった二人だけの男子だしな。仲良くやっていこうぜ」
ガッチリと握手を交わすと、何人かの女子が「ああっ」と、少しだけ悩ましい声をあげていた。
班も決まったし、本格的な学校生活が明日からはじまるのだ……が、そういえば特区外生が知らないことが一つあった。
「そうそう、放課後に担任の先生のところへ行ってね」
俺がそう言うと、菊家さんたちの頭上にハテナマークが浮かんだ。
「行けば分かるから」
詳細は、担任が責任を持って説明してくれるだろう。
簡単に言うと、彼女たちが何の対策もしないと、男子と話をしたいクラスの女子のみならず、他クラス、他学年の女子が押し寄せてくるのだ。
「あの班はガードが緩い」という噂は音速で伝わり、「じゃ、たしかめてみよう」となるのである。
そのために特区内に住む女子は、小学生の頃から鍛えられている。事実、真琴たちのフォーメーションは完璧だった。
彼女たちにそこまで求めていないが、班外の女子が話しかけても、「私は知りません」という態度を取ったら大変なことになる。
すぐ学校の知れるところとなり、彼女たちは呼び出される。
班替えなら穏便に済む方だ。何らかの処罰が与えられる可能性だってある。
「そういうわけだから放課後、よろしくね」
担任からせいぜい派手に脅してもらおう。今後を考えたら、それが彼女たちのためになるのだから。
「……は、はい?」
「とにかく行けばいいんだよな」
「分かりました。みなで参りたいと思います」
「うん、行ってくるよ」
彼女たちはフォーメーションの練習を含めて、二、三時間は拘束されるだろう。
俺はどうしようか。せっかくだし、女神に会ってこよう。




