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173 ボイス販売

 十月に入った。

 先日録音した俺の声……つまりボイス販売がスタートした。


 A、B、Cと、三つのタイプを用意し、それぞれ40音声入れて1500円で販売した。

「三つ同時に販売? 徐々に出していくんじゃなかったっけ?」


 録音しているとき、「なんだか多くない?」とは思ったが、一気録りだろうと深く聞くことはしなかった。

「はじめはそのつもりだったのですが、妙に盛り上がってしまいまして……」


 橋上(はしがみ)さんが用意したのは200語。

 どれを入れるか揉めたらしい。


「決められなかったので、全部出したと?」

「……そうなります」


 すべてのボイスに「あなたへのメッセージ」と「各種操作メッセージ」が入っていて、Aが日常編、Bが特別な日編、Cがシチュエーション編に分けたらしい。

「そういえば、『誕生日おめでとう』だけでも、数パターン録音したもんな」


「はい。それでA、B、Cすべて合わせたコンプリートパックは4000円とお値打ち価格になっておりますわ」

「……それで、本当に売れるの?」


「もちろんです。コストパフォーマンス抜群ですし、知名度からいって、爆売れ間違いなしです」

 最初、希少価値を高めるとかなんとかで、少量のボイスを高額販売しようという流れになっていた。


 それでも十分売れると言われた。

 だが俺は、多くの女性に幸せになってほしいと思っている。


 欲しいと思った人が買いやすい、財布にやさしい値段でいきたいと言った。

 たとえば、アイドルに貢ぐ人たちがいる。これも立派な大人の趣味だ。


 もとの世界でも、推しのためなら借金してでもグッズを購入するという、恐ろしい人たちもいた。


 だが、アイドルに魅せられる多くのファンは、少年少女たちだ。

 CDの大量買いをする大人たちの陰に隠れてしまっているが、どちらかといえば、俺はそんな少ない小遣いをやりくりして買っている人たちを大事にしたい。


 そういうわけで、できるだけ値段を安く、多くの女性に届けられるように頼んだ。

 橋上さんは少し考えたあと「他の方が販売するボイスとの兼ね合いもありますので、収録するコンテンツの数を多くすることで対応しましょう」と言ってくれた。


「おはようとか、誕生日のメッセージはいいけどさ、『メールが到着しました』とか『パソコンを起動します』なんて、本当にいるの?」


「もちろんですわ。Bパターンに収録されています『えっ、もうお別れなの?』は最高です。もうこれで、パソコンの電源を落とす人は皆無となるでしょう。つけっぱなし、間違いなしです」


「さすがにそれはないだろ」

 よく分からないけど、謎な世界だ。


「このまま、季節ボイスやイベントボイスなど定期的に販売していく予定です」

「へえ……」


 橋上さんと話しながら、販売されているページを見てみた。

 サンプルがあり、何気なくそれをクリックした。


 ――おはよう、子猫ちゃん。今日も一日、俺と一緒にがんばろうぜ……おっとその前に着替えなきゃいけないな。俺はあっち向いているから、恥ずかしがらずに着替えてくれよな


『日常編-朝-起床ファイル004』とあった。

「橋上さん……ボイス販売止めたりは?」


「いまから販売を取り下げたら炎上します。そして捕まるの覚悟で、世に広めようとする方が出るでしょう。犯罪者を大量に出したいのでしたら、販売中止いたしますが」


「……………………いや、いい」

 早まったことしてしまったかもしれない。




 俺のボイスが販売されて四日が経った。

 クラスではもう完全に周知の事実だ。


 というか、スマートフォンから聞こえる着信音が、みんな俺の声になっている。

 そこかしこで俺が喋っているんだが……働き者だな、俺。


 ただ、表面上は落ち着いている。クラス内は平穏そのものだ。

 ときどき荒い鼻息が背後に聞こえたりしているが、すぐに離れていく。


 他のクラスからは相変わらずウォッチャーがやってくるが、班員だけでなく、クラスのみんなが協力して俺の目に入らないようにしてくれる。

 団結力あるよな、このクラス。


「しかしすごい人気だね」

「代わってやろうか? あつし


(うらや)ましいから言ったんじゃないからね」

「まあ、それは分かってるさ」


 いまも廊下で「きゃあああ」という声とバタバタ走り去る足音が聞こえてきた。

 鉄壁のクラスガードをくぐり抜けて、教室の入口にたどり着いた猛者がいたのだ。姿を見て満足したのか、撤退した次第だ。


「それでさ、思ったより売れたらしくて、このお金、どうしようかって話してるんだけど、どうしたらいいんだろ?」

 俺がそう言うと、淳はすぐに眉根を寄せた。


「……それ、宗谷くんの班の人が言ったの?」

「そうだけど、どうした?」


「……だって、動画でも宣伝してたし、これまでの人気から考えれば、売れるのは当たり前でしょ? それなのに、想像した以上に売れたってことだよね?」

 一体どれだけ売れたの? と淳は呆れていた。


「そういや、どれだけ売れたんだろ」

 俺もすぐに千や二千は売れるだろうとは思っていたが、まさか万こえたか?


「一度確認しておいた方がいいかもね」

「そうだけど、入金はまだかなり先なんだよな。いま分かるのはDL数だけだし」


 入金予定金額は会員ページから分かるらしいけど。

 だが、淳の言うとおりだ。すべて任せるのではなく、ちゃんと俺も確認しておこう。



ついに投稿文字数が(予約分を含めて)50万字超えました。書いていてあっという間でした。

次の目標は百万字ですが、この分ならばすぐに届きそうな気も……。


私はいつも、「わかりやすさ」「読みやすさ」「没入しやすさ」を意識して書いています。

もし、「読んでいても、あっという間だったよ」と思えたならば、してやったりです。

みなさんは、どうだったでしょうか。感想をお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 姉さん呼びのボイスだとお姉様方に刺さるだろうなあ 実の姉いるから感情込めやすそう
[良い点] 読みやすく内容が分かりやすくあっと言う間に読んでしまいます。 また、主人公が性的に暴走しがちですが、中学高校の班員の娘達がとても良い娘達で、ついついニッコリしてしまいます。
[良い点] 独自の世界観や設定って、どうしても説明が多くなりがちですが、理解するのにストレスなく読めています。 素人意見ですが主人公が転生?者で私達と近い目線で解説があるのと、ストーリーのバランスがい…
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