113 謀の真実
今日は休日。
学校も動画も休み。久しぶりにトレーニング三昧でも……と思っていたら、「一度、トレーニング風景を録画したい」と言われた。
なるほど、スポーツ選手のトレーニング風景は絵になる。
もとの世界で俺は、自分と関係ない種目でも、そういったニュースが流れるとよく観ていた。
だが、休日にわざわざやることだろうか。そう尋ねてみたが……。
「トレーニング風景……かなり貴重ですわ」
「迸る汗……お宝になりますね」
「荒い息の動画か? 高く売れそうだぜ」
「一緒にやりたい!」
反応は様々だったが、全員撮影についてくると言い出した。
そもそも録画は決定のようだ。
しかし、高く売れそうってなんだ?
ちなみに言ったのは遠野さんだ。売るなよ? フリじゃないからな。
というわけで、近所の公園で撮影が開始された。
ただ走る姿を撮るだけではつまらないだろうと思って、どこぞのボクシング映画よろしく、シャドーボクシングをしたり、木にぶら下がって腹筋したりとサービスカットを入れることにした。
鶏を追いまわしたり、生卵ドリンクを飲んだりはしていない。
ただ、階段を駆け上がって「ワー」とは、やりたかった。そういう場所、どこかにないだろうか。
「昨日確認したのですけど、チャンネルの登録者数がかなり増えて、6万人を突破しましたわ」
「まだ、動画投稿はじめて10日も経ってないよね」
一切宣伝していなくてこれだ。拡散するのが早い気がする。
「この分でしたら、10万人はすぐですわ」
「10万人……」
それほど動画視聴の習慣がないこの世界では、すごいことではなかろうか。
だが、それでいい。
できるだけ有名になった方が、俺の言葉を多くの人に届けられる。
「昨夜、『恋の配達人』のプレイ動画をアップしました。ゲーム好きな方が見てくれると思いますわ」
「そうなるといいね」
ゲーム実況のときは「マイクオフ」の部屋に入ったので、対戦相手のことは分からない。
向こうも、あの中に男性が混じっていたとは夢にも思っていないだろう。
昨晩遅くアップしたらしく、実は俺もまだ見ていない。
まあ、動画は逃げないので、家に帰ったらゆっくり確認しようと思う。
あのときはまだそれほど戦略的なプレイができていなかったので、見応えはないと思うが、それでもファンは最後まで見てくれるだろう。
一通りのトレーニングを終えて、公園のベンチで休憩する。
朝が早いためか、まだ人はまばらだ。
「そうだ。昨日、裕子から連絡が来たんだけど、党人会の活動はやはりおかしいって」
「……? もともとそういうお話ではありませんでしたか?」
「いや、もしかしたら、真実は『逆』なのかもしれないって言ってた」
「逆? それは一体、どのような……」
「党人会はもともと、特区推進派の集まりで、男性の幸せを考えつつ、特区をしっかり運営していくのが是とされていた」
「はい。ですがやっていることはその逆で、男性のためといいながら、周囲の女性に難癖をつけたりで、やりたい放題だと」
「中央駅で菊家さんがその被害にあったよね。だから俺たちも党人会にいい印象がない。そして裕子が調べた限りでも、同じような被害を受けた人が多い」
「存じております。党人会の構成員の中に、反対の思想を持った方々がいると伺いましたけど」
「そうなんだ。党人会は反対思想の連中に乗っ取られたと、俺は裕子から聞いた。裕子の調査は信じられる。だからそのまま信じたんだが」
「そう言えば先ほど『逆』とおっしゃいましたが」
「裕子はどうにも腑に落ちなかったので、さらに詳しく調べたみたいなんだ。まだ確定ではないけど、党人会を生贄……つまり、スケープゴートにするつもりかもしれないって」
党人会と中央府の治安維持局が繋がっているのは明白。
これは遠野さんと一緒に、古着屋に行ったときにも聞いた話だ。
「党人会に罪を着せるのですか?」
「おそらく、だれかが告発するんじゃないかって裕子は考えているみたい」
最初俺たちは、特区を住みにくくさせる党人会を憎んだ。
新しい特区へ移住させようとしている。その企みを阻止するために動画を通して『告発』するつもりでいた。
中央局と治安維持局、党人会、華族などが裏で繋がっていることが分かって、裏が取れたと思っていた。
なるほど、これはぜひとも公にして、彼女らの謀を阻止せねばならないと考えていた。
少なくとも、そのつもりでいた。
だが裕子は、その一歩先まで考えて、調べてくれた。
だれかが告発したら、特区や党人会などどうなるのか。
結果、すべてが均等にダメージを負うだろうとの結論に至った。
党人会だけではないのだ。だれが告発しても、党人会と一緒に、特区の信用は落ちる。
そう、特区の信用が落ちるんだ。
「告発すれば、ネオ特区への流れが加速しかねないと裕子は言うんだ」
「ネオ特区への流入を阻止するために告発するのに、それが加速しかねない……ですか?」
「うん。特区は、行政から民間まで腐っている。そういうイメージを植え付けることになる。そもそもそうなんだけどね。だから、信用を無くす」
まともな人が百人いて、まともではない人がその中に数人加わったとしよう。
彼らが方々で問題をおこしたとき、世間はどう感じるか。
集団全体が、悪い印象を持たれるのだ。
「で、では、どうすればいいのです?」
「それをいま考えているらしい。裕子が言うには、この絵を描いているのは、かなり頭のいい人物で、時間をかけて周到に準備しているって。その人は、秩序が乱れた特区を手土産にネオ特区へ移住するんじゃないかって」
「移住ですか?」
「そう。これだけ多方面に影響を及ぼしているってことは、そもそも中にいて中心的な役割を果たしていなければ無理らしい。そんな人はもう、ここには残れないだろうって。それにネオ特区へ移住するなら、いまの地位なんかいらない。だから思いっきりやれる。裕子はそう判断しているみたい」
「すごい話ですわね」
「さすゆうだからな。……つまり、俺が動画で党人会にやられたことを批判したり、公共料金の値上げの裏に隠された諸々を話して理解を得ようとしたら、全部話さなければいけなくなる。相手の思うつぼになるかもしれないんだ」
だれかがタイミングよくやろうとしていることを代理でするに過ぎない。
「わたくしには、何がなんだか……」
「いま裕子が対策を練っている。俺も考えるし、みんなも協力してほしい」
どうやら相手は、金と権力と時間が豊富にあり、それを存分に使ってきている。
後手に回った俺たちが立ち向かうにしても、一筋縄ではいかないのだ。




