109 次の奉活先
裕子から連絡が来た。
いくつかのワードで検索した結果、インターネット上に俺の個人情報は載っていないようだ。
あれだけ話題になっているというのにと思ったが、この世界では男性の個人情報の扱いは厳しい。
過去に、とある男性の住所をインターネットに書き込んだ女性がいた。
それが悪用され、男性が実際に被害を受けた事件がおきた。
住所を載せた女性には、実刑の判決が下されたという。
心の傷を負った男性は、自分のことが全国的に有名となったことにおののき、国外へ脱出したという。
個人情報漏洩法は男女問わずだが、男性の情報を流した者の罪は重い。
いかな仲間内とはいえ、遊びで情報を流出させるのはリスクが大きいようだ。
裕子が調べた範囲で見つからなかったのだから、徹底している。
「でも、それもそうか」
男性に危害を加えた場合は、未成年でも容赦なく裁かれるし、個人が特定されるような書き込みをした場合、特区外退去は確実。
そんなことになったら、もとの世界の性犯罪者以上に、世間から白い目で見られることになる。
そんな危険を冒してまで、情報を流す者はいないのだろう。
ただし、クローズドな場所では別。
少なくとも裕子のクラスでもすでに、俺が伊月高校の1年生であることは、周知の事実となっているらしい。
「今度、学校へ迎えにいってもいい?」
イタズラ心を出して、そう聞いてみたら「本気で吊し上げられるから止めてね」という一文が返ってきた。
女子の嫉妬は怖いらしい。
でも特区なら、男性に慣れているはずでは? と思ったが、すでに俺は特殊らしい。
ミリオンセラーを連発するアーティストが迎えに来たようなものだろうか。
女子校という環境の中では、よほど親の権力がある場合を除いて、頻繁に男性の気配がすると、少々怖いことになるらしい。
まあ、裕子の言いたいことも分かる。
橋上さんに頼んで、毎日動画をアップロードしてもらっているが、そのせいか学校全体がなんだか浮ついている気がする。
「というわけで、先生。奉活先を決めにきました」
「…………」
担任はなぜか、珍しい生き物をみたような目を向けてきた。
「どうしました? 先生」
「宗谷くん、来月も奉活をするの?」
「ええ、もちろんですよ。それがなにか?」
「……そうよね。前回、三件もしたから、来月は休むのかと思ってしまったわ」
「そんなもったいない」
「もったいない?」
「いい思いができて、お金までもらえるのに」
「……奉活の話よね?」
「奉活の話に決まってるじゃないですか。それよりいつもの冊子、お願いします。あっ、今回は特区の中だけにします」
今度は特区内の雰囲気を確かめてみたい。
担任が冊子を持ってきてくれたが、よろけているようだが、大丈夫だろうか。
「先生、疲れが溜まっているんじゃないですか?」
「ええ……よく分かったわね」
「そりゃもちろん……えーっと、どこにしようかな。この選んでる瞬間ってワクワクしますよね」
「…………」
少し、奉活について調べてみたが、一般的には『楽なところ』が人気らしい。
そのせいもあって、奉活を希望する企業は、『楽』であることを強調する傾向にあるようだ。
また、次に多いのが親の仕事関係。そこに知り合いがいる場合、頼まれる場合が多いという。
その頼まれるものの中には「仕事を発注するから」とかが含まれている場合があるとか。
大学生の場合だと、将来就きたい職業に関係した企業などが選ばれるらしい。
職場体験も兼ねているのだろう。
さて俺の場合だが、普段行かないところがいい。それでいて、興味のあるところ。
「先生、決めました!」
「そう。それじゃ、奉活局に報告するから、ここにコード番号と奉活先の名前を書いてね」
「はい……できました」
「また複数……えっ? 宗谷くん!? これ、間違っているわよ」
「どこか写し間違えました?」
「奉活先が、女性下着の会社になっているし、もう一件はここ……女性専門の病院なの」
「そうみたいですね」
「そうみたいですねって」
「ですから、普段行かないようなところがいいかなって思ったんです」
「…………」
草むらから未確認生物が飛び出してきたような顔をしている。
そもそも「女性専用由比先総合病院」と書いてあるのだから、間違えようがない。
これはこの世界に来て初めて知ったのだが、男性を診るには、できるだけ男性の医師が望ましいとされている。
また、できるだけ男性は他の女性と接触しない診察・治療場所があると望ましいとされている。
一応努力目標だが、紛らわしい経営をしていると男性がやってくる。
すると、悪評がものすごいことになるらしい。
泌尿器科の診察室に男性が入っていった場合、用もないのに看護師が入ってきたり、ついウッカリ患者が迷い込んだりと、マスハラが行われたりするとか。
毎回、ちょっとしたミスがおこるような病院には行きたくないだろう。
そういうわけで、普通は設備を分けたりするのだが、そうすると余計な金がかかる。
ゆえに女性専用病院というのが存在するのである。
病院名にしっかり書いてあれば、男性はやってこないため、施設などの配慮は必要ない。
だからといって、男性お断りではない。そういう名前なのである。
もとの世界のアルバイトで、「女性がたくさんいる職場です」とホールスタッフを募集するようなものだ。
「えーと……確認するけど、女性の下着会社と、女性専用の病院……でいいのよね」
「はい!」
なんて胸アツな奉活先だろうか。
これでお金まで貰えるんですよ、奥さん。と言いたい気分である。




