107 注目
橋上さんに頼んで、どんどんと動画を上げてもらった。
1本の時間も長くなり、町を散策したものも一緒にアップロードしてくれた。
結果、ようやくというか、とうとうというか、クラスに動画のことが知れ渡った。
その日、登校したときから教室の雰囲気が違っていた。
固唾をのんだクラスメイトから、じっと見られている。
「おはよう……何だか、雰囲気が変だね」
淳が俺の方へ来て、それから周囲を見回した。
「そうだな。……まあ、いいんじゃない?」
始業前、淳といつもの雑談をしていると、クラスの担任が俺を呼びに来た。
教室が一瞬でざわつき出した。
「一瀬先生、おはようございます」
にこやかに挨拶した俺を見て、担任はこめかみに人差し指を当てて、何かを耐える仕草をしている。
「宗谷くん。悪いけど、始業前にお話があるの」
「いいですよ。……淳、またあとでな」
「うん。宗谷くん、また何かやったの?」
「またってなんだよ」
笑いながら淳に手を振り、担任のあとについていく。
相談室に連れて行かれるかと思ったら、校長室だった。
「失礼します。校長先生、おはようございます」
「1年1組の宗谷武人くんですね。おはようございます。そこに座ってください」
ソファに座ると、体育の吉岡先生と、心理療法士の相田先生がやってきた。
吉岡先生は男子を受け持っている男性教諭だ。俺も体育のときはお世話になっている。
相田先生は優しそうな二十代後半の女性。楚々とした美人で、ちょっと俺好みだったりする。
「インターネットに上がっている動画について聞きたいことがあります」
校長先生がそう切り出し、いくつか分かったことがある。
どうやら俺が脅されてか、なんらかののっぴきならない事情で、動画を上げざるを得なくなったと思ったらしい。
簡単に言うと、弱みを握られたか、権力を持った人の指示か、金銭的な理由で嫌々やらされたのではと心配したようだ。
「まさかそんな風に思われているとは、考えもしませんでした」
「ではあの動画は、なぜ……?」
「男と生まれたからには、一度くらい、得意な分野でてっぺんを目指したくなるじゃないですか!」
人差し指を天井に向けて宣言してみた。
校長先生を含めて、集まった人たちの顔は見ものだった。
口を開けて、呆然としたまま俺の顔を凝視していた。擬音で表せば、テンテンテンでカラスがカーと鳴く感じだろうか。
「俺、結構イケてると思うんですよ」
そこそこのイケメンですら、ためらうセリフ。
「だから、この優れた容姿を活かさない手はないだろうと思って」
炎上間違いなしの自己陶酔。湖水に咲く水仙の花か俺は。
「ダメでしたかね、あの動画」
やや上目遣いで聞いてみたら、全員が首を横に振った。
よし、成功。「ただし、イケメンに限る」をはじめて使ってみたが、便利だな、これ。
動画をなぜ公開したのかはうやむやになり、俺は帰された。
教室に戻ると「きゃぁ〜〜」と黄色い歓声が飛ぶ。
にっこりと笑顔を振りまいて、席についた。
「教室は、どんな感じ?」
そっと菊家さんに聞く。
「動画のことが知れ渡って、恐ろしいほどの質問攻めを受けたわ。正直言えば、ガクブルするくらいみんなの目が怖かった」
「まあ、そうだよね。でもごめん、しばらく耐えてて」
俺に直接聞きに来られないから、菊家さんたちが矢面に立たされてしまう。
でも彼女らが直接俺を囲ったら、それこそすぐにだれかが職員室に走るだろう。
「いいのよ。これは予想していたし」
「いつも悪いね」
「いえいえ、貴重な写真をもらっているし……あっ、これはクラスに内緒だけど」
写真は橋上さん経由で手に入れたやつだろう。
何も言っていないが、現像して額に入れて飾るくらいはしてそうだ。
そういえば、アイドルポスターとかをドアに張って、出かけに……いやよそう。うん、なんでもない。
「はい、じゃ出席を取るわよ」
担任がやってきたので、教室の雰囲気は一応の落ち着きをみせた。
昼休み、事情を聞いた淳が俺のところへやってきた。
「なんか、すごい話を聞いたんだけど」
「多分だけど、事実だよ」
「ほんとに? 顔だし動画をつくったの?」
「ああ、ちょっと有名になってみようと思ってな。淳もどうだ?」
「謹んで、遠慮しておくよ」
「まあ、しばらくは騒がしいかもしれないけど、無視してて構わないから」
事実、何人かの女子が、休み時間に教室を覗きに来た。
個々に相手をすると際限がなくなるし、クラスで不満を持つ女子が出てくる。
とりあえず今は、動画に集中しようと思っている。
それから数日、橋上さんは俺がお願いした通り、多くの動画をアップしてくれた。
噂が噂を呼び、動画の視聴回数がうなぎのぼり。なんかもう、ニヤニヤが止まらない。
チャンネルの登録者数も爆発的に増えている。
SNSでもかなりの盛り上がりを見せており、とくに東京特区で撮影されたことが分かってからはその動きが加速した。
「……で、どうしてこうなってるの?」
俺はいま、『俺の家』にいる。
もう少し詳しく話すと、紅家からもらった、あの数寄屋造りの家にいる。
真琴、裕子、リエが一緒にいる。
菊家さん、橋上さん、遠野さん、青野さんも一緒にいる。
もう一度言おう。
「どうしてこうなってるの?」
キミたち、なんで仲良くしてんの?




