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コード・ゼロ  作者: 黒雪
12/22

予兆

ようやく桜花にもまともな出番が・・・!

 戦闘態勢に入った雪那の眼は、さながら鋭く冷たい氷柱の様。

 その覇気に圧されたか、雪那の前にいる狂魔らしきものも、一瞬動きを止めた。

 だがそれも一瞬。狂魔らしきものはすぐさま雪那へ攻撃を再開する。

 雪那はレイピアを下へ振るう。

 直接当てる訳ではない。ただ、自身の足元へしなやかな剣筋で刃の先を向ける。それだけだ。

 レイピアの刃先がスッと地面に垂直に下りたと同時に、その場に冷気が収束し、渦を巻く。その渦の中で氷の塊が徐々に形成されていく。

 流石に狂魔らしきものも、その渦に飛び込むなどという自滅行為はしないようだ。

 だが例え近づかずにいても、結果は同じだった。

 雪那は腕を引き、刺突の構えを取る。その動きに合わせて冷気の渦と氷が一斉にレイピアに集まり、最早レイピアというより槍のような形状に変化する。

 「・・・冷たい世界で、眠っていなさい」

 構えから刺突を放つまでの動きは、全くと言っていいほど挙動を「予想させない」。

 目に見えないほどの速さ、というのはよく聞くが、雪那自身、自分の動きが相手に見えない程に速いなどと思っていない。そもそもそんな速さで人間が動けるというのは、前時代的なフィクションものの中でだけだろう。

 だからこそ、雪那の動きはただの直線上の動きではなく、放つ前の挙動で予測されないよう心掛けていた。

 目の前のそれに当てるだけなら、そんな必要性も無かったが。

 冷気と氷の槍は呆気なく狂魔らしきものを貫いた。

 刃の接触部から狂魔らしきものは凍りつき、活動を停止させた。

 狂魔らしきものを排除するのに、僅かに数十秒しかかかっていなかった。

 標的の動きが完全に停止したことを確認した後、雪那は構えを解き、レイピアを戻した。

 「ふう・・・」

 先程までの冷徹な眼光は無くなり、普段の穏やかな眼差しに戻っていた。

 「さて、これは・・・どうしよう・・・?」

 雪那は目の前にある凍り付いた狂魔らしきものを見て困惑した表情になる。当然と言えば当然だ。人通りが少ないとはいえ、このままこれを放置する訳にもいかないのだから。

 そう、雪那が思案していると。

 「・・・っ!?」

 不意に、背後に禍々しい気配を感じて、雪那は振り返った。

 「もう一体・・・!」

 そこにいたのは先の、というより雪那の目の前で凍死しているのと、同形の狂魔らしきもの。

 正面からなら雪那は同じようにあしらっていただろうが、今は完全に先制を許してしまっている。レイピアもしまったばかり。

 とっさに雪那は防御の姿勢を取る。たとえそれが意味をなさないものであっても、人間は反射的にそうするのだろう。

 だが狂魔らしきものの攻撃が雪那に当たる前に、狂魔らしきものを、一本の杭が天上から貫いた。

 それには、何枚もの札が貼られている。

 『六根清浄。・・・急急如律令』

 どこからともなく聞えた、少女の声。

 同時に、狂魔らしきものに刺さっていた杭が激しく発火する。

 「グ・・・アアアアアア!!!」

 狂魔らしきものはおぞましい奇声を発する。

 それを断ち切るかのように。

 『鎮マレ』

 炎は激しさを増し、爆炎を起こした。

 それと同時に狂魔らしきものは炭と化す。雪那とは正反対の方法で敵を鎮めた人物が、刹那の前に姿を現す。

 「フフ、駄目だよ雪那。油断大敵、警戒は常にしておかないとー」

 「・・・桜花!?」

 そこにいたのは、雪那やミカヅキと行動を共にする少女、桜花だった。

 彼女も同じく学校の帰り・・・という感じでは無かった。

 先ず服装から、雪那の様に高校の制服ではなく、巫女服を身に纏っている。それも一般的なものとは違って、動きやすいように所々改造が施されているものだった。

 「どうして・・・それに、その服装は・・・」

 驚きを隠せないままの雪那に、桜花は炭化した狂魔らしきものを見てから、雪那の方に向き直った。

 「こんな感じの狂魔モドキが、今第七区で複数出現してるらしくてねぇ」

 「なっ・・・!?」

 「もーぉ雪那気づかない?確かにこの時間帯表を歩く人は少ないけれど、それにしても全く人がいないでしょう?」

 「あ・・・」

 そう言われて、雪那は周りを見る。街道にいるのは二人だけだ。だからこそ、桜花も街の中で堂々とその姿を見せられるのだろう。

 「という事は、ミカヅキも?」

 「どうだろうねぇ。まあ私は高校以外じゃずっとあそこにいるからね」

 そう言って今度は、第七区の「外」にある、小高い山を見た。

 「何かあれば私が一番に気付けるけどさ」

 「なるほど」

 そんな会話をする途中で、雪那ははっとしたように桜花に言った。

 「他の・・・他の狂魔は!?」

 「ん・・・ああ、それなんだけど」

 今度の桜花の顔は、何処となく浮かないものになった。

 「・・・何でか、私の倒した狂魔モドキ以外の反応が消えてるんだ。それも異常な早さで」

 「・・・?それは、私達以外の何者かが応戦していると?」

 「だと、いいんだけどね」

 桜花の曖昧な返事に雪那は更に疑問を重ねる。

 「どういうことですか?」

 「消えてるのは生命反応だけじゃなくて、死体もろとも。一瞬で殺して、辺りに何の痕跡も残してない。確認してみたけど、そうね、狂魔モドキがいた辺りが荒れていた事くらいしか分からなかったわ」

 桜花のその言葉に、雪那は得体の知れない不気味さを感じた。

 その時。

 「桜花ー!・・・と、あれ雪那もいるのね」

 雪那が歩いてきた方の道から、ミカヅキが駆け寄ってくるのが見えた。

 「あ、ミカヅキ。どんな感じ?」

 「現在・・・十五時十二分、か。正体不明の狂魔は全部排除したわ」

 二人と話せる距離に来てすぐに、ミカヅキは現状報告を行った。

 その報告に、桜花は驚愕とも困惑ともとれそうな、複雑な顔をした。

 「・・・少なくとも、十数体はいたはずだけど。収まるのに十一分しか経ってない、か」

 「・・・私が排除したのは二体程度よ」

 ミカヅキも桜花と共通した違和感を感じている様子だった。

 「私はあれで二体。雪那が一体だから」

 桜花の目が細くなる。

 「・・・半数以上が、「何か」にかたずけられた、と?」

 「流石雪那。話の読み込みが早いね」

 「しかし、一体誰が・・・」

 「隊長達じゃないわよね」

 「それは無いと思うな。今頃高校で動けないと思うから」

 そこまで言って、三人は顔を見合わせる。

 「・・・兎も角。狂魔モドキが消えて人が表に出てくる前に、一時退散しよっか」

 「そうですね。・・・あ、これは」

 雪那が、自分が無力化した狂魔らしきものを見て不安げに桜花を見る。

 それで察した桜花はその動かなくなった狂魔らしきものに近づいて、手をかざした。

 『六根清浄、急急如律令』

 詠唱する。すると、凍っていた狂魔らしきものの死体が、内側から焼き尽くされた。

 「とりあえずこれで適当に避けておこう」

 「そ、そうですね」

 顔色一つ変えない桜花に、若干戸惑った顔をしながらも、雪那はそれを素早く片付けた。

 「後で回収してもらわないと、ですね」

 「そうだねぇ」


 数分前。


 ドンッ。


 ドシャ・・・。


 ドンッ。

 

 ドシャ・・・。


 「よし終わり」

 ハンドガンをまっすぐ前に向けていた剱は、狂魔らしきものを一掃したことを確認すると、その手を下ろした。

 「狂魔に似た何かがって言ってたから持ってきたんだけど・・・「これ」を使うまでもなかった、か」

 右手に持ったブレードを宙で回転させる。

 「さて転送っと」

 予備動作なく、狂魔らしきものの死体は何処かに消えた。

 その後剱はバックステップの要領で、後ろの建物の屋根に移動する。

 勿論能力の恩恵あっての所業だ。

 「お疲れさん」

 そこには紫苑とメア。

 「これで終わりだね」

 「正直手ごたえ無さ過ぎて面白くなかったな」

 暢気にも二人は欠伸をしている。

 だがそれは剱も同じ意見を持ったらしく、同感だ、と言うと小さく溜め息をついた。

 「帰るか」

 「そうだね」

 「どうせだし、報告も兼ねて、俺ん家に集合するか?近いし」

 「さんせー」

 「偶にはいいかもね。否さんには報告しておこう」

 緊張感の無い会話を交わし、その後三人で紫苑の家の方へ向かって歩いて行った。

 途中からは普通の街道を歩く。まだ狂魔らしきものが殲滅されたことが広まっていない所為か、黄昏時の第七区は酷く静かだった。


 紫苑の言葉通り、紫苑の家へは徒歩で数分ほどしかかからなかった。

 改めて見ると、紫苑の部屋は一人暮らしにしてはかなり広かった。

 「ふへへぇー」

 「他人の家に来ていきなりベッドにダイブする奴がいるか?」

 「・・・いるじゃん。そこに」

 部屋に入るや否や、メアは紫苑のベッドでごろごろしている。

 紫苑と剱はベッドの横にある卓袱台辺りに腰かけた。

 「・・・さて、と。それでだ、今回の事件、どう見る?」

 特に前ぶりなく紫苑は話を振る。

 「ふむ・・・そうだね」

 「・・・あの狂魔みたいなの、「混じってた」ね」

 ベットで寝転がっているメアが、そう呟いた。

 「混じってた。・・・確かに、表現としては間違っていないかもね」

 「そうだなー・・・もし悪魔を鹵獲してた奴らが、今回のと関わってんなら」

 紫苑が顔を上げる。

 「何かすげぇヤな予感するんだけど」

 「・・・ねぇ剱」

 メアがベッドから上半身を乗り出し剱の肩にもたれる。剱は最早何も言わない。

 「どうした?」

 ただ、短く返事をするだけだ。

 「剱がさっき言ってたその心配はない、の続き。聞かせてほしい」

 「・・・ほう」

 「剱、大体解ってるんじゃない?今回の事」

 メアの言葉に剱の目がスッと細くなる。

 「メアにしては珍しく鋭い事を言う・・・まあ隠す気はさらさら無いけど」

 そして剱が続ける。

 「簡潔に言うとね、悪魔を鹵獲していた連中は、まだ第七区ここから離れていない。というか、この近くにアジトを持ってる」

 「「ほうほう?」」

 その言葉に再び二人は食いつく。

 「・・・それで、同時に実験も行ってるようだよ」

 剱は、わざとそこで言葉を切った。


 「人間に、悪魔の因子を移植するっていうね」


 なんとか土曜日に出せました。明日は零落者でも書こうかなと黒雪です。

 今回は下手に続けるとかなり長くなりそうだったのでいったん切りました。自分で確認していて思うんですが・・・自分、最後の伏線の張り方適当な気がしてなりません。自負しているのでどうか温かい目で見て頂ければと・・・

 そう言えば、少しだけ余談を。

 実は先日に(何とは言いませんが)大事なものを紛失しかけまして。正直まあそれが見つかったからいいものの、失くしたのに気付いた時は小説の事すらまともに考えられなくて・・・

 見つけられてなかったら、今日小説出せていないんだろうな、と。なんとなく思った次第です。はい。

 では今回も最後までありがとうございました。

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