第7話 食事
城の中はどこも埃ひとつなく清められており、いたるところがカラフルな花々が飾られている。
「どうぞこちらへ」
ベールの女性が招き入れた部屋は、広大な食堂。50人が一度に食事ができるほどの大きなテーブルは、更に大きなテーブルクロスが皺無く覆っており、細かな模様が刻まれた長いローソクが等間隔で置かれている。
平山健太郎は、迷うことなくこの城の主が座るであろうその席に座る。そう、彼こそがその城の主なのだ。
テーブルには次々と料理が運ばれてくる。アラビア風の建物なのだが、料理を運んでくるのはイギリス風の執事たちだ。クリスマスに食べる七面鳥や、生き造りの刺身皿、イスラム社会ではありえない子豚の丸焼きといった、統一感のないメニューが並ぶ。しかし平山の手がとどく範囲には、カレーライスやカツ丼、ミートソーススパゲティといった庶民的な料理があった。
そうした料理を、次々に平山は口に運ぶ。
全ての皿は、素晴らしい味付けだ。かつて平山が食したなかでも最高の味付けが再現されている。自分が食したことのみがこの世界で再生されているため、一度も食べたことがない七面鳥などはたんなる食卓の飾りにすぎなかった。
手の届く範囲の皿は空になった。すると直ぐに、その代わりが運んでこられる。平山はそれらの皿にも遠慮なく喰らいつく。
味わうことはできる。満腹感も感じる。しかし、食べすぎ時のむかつきや胃もたれといった症状は全く出てこない。ローマ帝国が絶頂を迎えていたとき、ローマ市民たちは嘔吐しながらも食事を楽しみ続けたというが、平山のこの世界は、そうした苦しみもなく、食事を永遠に続けることが可能なのだ。
食べることにも飽きてきた平山は、食卓が殺風景であると感じる。するとその途端、四方の扉が開き、女たちがわらわらと入ってきた。20名ほどの女性達は、皆看護婦姿だ。アラビア風の建物に看護婦が登場するという不自然さに、誰も抵抗を感じていない。平山健太郎の脳内では、さしておかしな状況ではないのだ。
女達の顔は、殆ど平山が知っている面々である。主に会社の同僚達だった。いまの会社のOLから、以前勤めていた企業の受付嬢など、こちらも統一感はまったくなかった。口下手な平山は、それらの女性達とまともな会話を交わしたことはなかったが、この場では彼は羨望の的となっている。
「すてきな食べっぷりですね」
「男らしいわ」
「なんてワイルド」
「私も食べて欲しい」
口々に女性たちは、平山の食事を賛美する。普段の平山は、いつも食べ方が汚いと蔑まれるのであるが、この場では違っていた。
平山は顎を動かしながら、その後の相手をいやらしい目つきで物色していた。