第8話 戦い
「食欲と性欲、君が満たす欲望は、いつも同じだな」
ガツガツと食事を続ける平山の背後に、いつのまにか島津が立っていた。
腕を組み、円柱のひとつに背をあずけ、つまらなそうにタバコを吸っていた。彼はスーツ姿だ。やはり、世界観に統一は見られない。
「なあ、もっとおもしろいことをやらないか。大陸をひっくり返すとか、月を地球にぶつけるとか」
平山はまだ料理が残っている皿を一枚つかみ、島津へ向けて放り投げる。磁器の大皿はフリスビーのように一直線に島津へと飛んだ。
しかしそれが島津に当たることはなかった。彼の目の前で粉みじんに割れる、ということもなく、ただたんにその皿は煙のように消えていた。
全てが自由になるこの世界で、平山が唯一自由にできない存在、それがこの島津であった。
平山は間髪入れず、アラビア風の曲がった剣であるシャムシールを中空から取り出し、島津に切りつける。島津が寄りかかっていた石の円柱が真っ二つに切られ、崩れ落ちる。しかし、島津の姿は消えていた。
「僕に勝とうなんて無理なんだよ。なんどもやって分かってるだろ」
島津は紙のようにひらりと舞い、巨大なテーブルの上に立っていた。
シャムシールを捨て、次に平山はアサルトライフルを手にする。作り出すという準備すら要らない。彼が『欲しい』と念じたものは、その瞬間に手に入っているのだ。
フルオートに設定し、弾倉が空になるまで島津に向かい放つ。
響き渡る銃声、発砲の感触、硝煙の匂いまで、リアルに平山は感じていた。
島津は、弾を避けようともしていない。何発かは彼の体を貫通していた。しかし、血は全く出ていない。スーツにも穴は空いていなかった。
「無駄だって言ってるのに。僕に消えて欲しければ、そう口で言えばいいだけだよ。完全にはいなくならず、また君の前に現れるけど、僅かな間なら、さっきみたいに好き勝手なことができるのに。それとも、僕と本気で戦うことを望んでいるのかい?」
勝てないことは、平山も悟っていた。戦車に乗って島津を轢いたときも、彼には毛ほども傷つけることができなかったのだ。たとえ核兵器をぶつけてみても、結果は同じだろう。
それでも、平山健太郎は島津が嫌いだった。何もかも自由になるこの世界で、唯一自分の言うことを聞かない存在。けして邪魔をするわけではない。ただ側にいて、平山の行為を時々観察している。そんな存在が気になってしょうがなかった。




