表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 堀 雄之介
49/50

第49話 浄土

 目を開けると、真っ白な世界が広がっていた。


 雲の中にいるような、ぼんやりとした白い世界。


 平山はあたりを見渡すが、誰もいない。そして何もない世界だ。新しいガイドの姿も見えなかった。


 だが、気分は悪くなかった。


 不安もなく、恐れもなく、焦りや何かしらのプレッシャーも感じることもない。


 安らかな気持ちになれる、不思議な世界だった。




 平山はただ、その白い世界を歩いていた。


 全てが白いため、比較になるようなものもない。その世界は、例えるならば無だった。




 歩き続けているうち、何人かの人物とすれちがうようになる。人々は霧の中から現れ、そして消えてゆく。


 古今東西、様々な人種、服装をした男女だった。時間と共に、人の数が増え、消えない人々も多くなっている。


 平山は、向かい合いチェスのようなゲームをしている二人の男に目を奪わた。


 一人は髷を結った日本人で、サルのような風貌。もう一人は白人の彫り深い顔立ちで、左右の眼の色が違っている男だった。


「さすがに強いなあ。またワシの負けじゃ」


「いやいや、今の勝負はあぶなかった。まぐれ勝ちだな」


 二人は平山にも理解できる言語で語り合っている。


 勝負事を終えた二人は、楽しそうに互いの戦術を褒め合っていた。


 穏やかな世界だと感じていた平山の耳に、怒声が聞こえた。


「そんなことでは人間は救えない。やはり苦しみというものを乗り越えねばならない」


「愛だよ愛。すべては愛でなんとかなるもんさ」


 振り向くと、スキンヘッドの老人と髭面の中年男が、白熱した議論を交わしていた。


 大きな声を張り上げてはいるが、敵意は全く感じられない。二人とも、ただ必至に考え、意見を伝え合うのみだった。




「ここが、上位世界。どんな気分だい?」


 気がつくと、新しいガイドが現れていた。


「なんだか、ほっとする世界だな。それでいて、楽しい気もする」


「この上位世界にくれば、欲望の大部分は薄れてしまうんだ。それがイヤだと、普通の夢の世界へと戻ってしまう人も多いけど、君はどうする?」


「しばらく、過ごしてみようかな。また、次に離脱したときも、この世界へ来れるんだね?」


「ああ、来れるさ。今日のところはもう休んだらいい。いろいろあって、疲れてるだろう」


 平山は頷いた。穏やかな気持ちのまま、彼は夢の世界を去ることができた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ