続話 「リスタート」
身体が消えていく。
「こんなもんか、はは…」
セトの生命はリンク、もといあの世界によって維持されていた。
故にあちらの世界が消えればセトの命も尽きる。
「もってあと数分ってとこか」
力の入らなくなった足を曲げ、ビルの壁へともたれ掛かった。
外からは何やら歓喜の声が聞こえる。
「ああ、楽しそうだなぁ~はは」
などと強がりを言ってみるも、
残るのは虚しさだけだった。
「飲みますか?」
「ん?」
隣に黒いローブの少女が飲み物を持ち座り込む、
少女の身体も薄く消えかかってきていた。
「お前もあっちの世界の?」
「はい、事情がありましてこちらに」
「へぇ。じゃあ俺と一緒で消えちまうってわけか」
皮肉交じりに言ってみるも、
なんだか少女は嬉しそうだった。
それでいて、悲しそうでもあった。
「俺なんかと一緒でいいのか?」
「はい」
「最後に見たいものとか見ないのか?」
「もう見ました」
「そうか」
話が続かない。
少女が気を使っているのかとも思ったが、少女の表情は満足気である。
顔はローブのせいでよく見えないが口元だけはチラッと見える。
「お前は怖くないのか?死ぬのが」
「死ぬと決まった訳ではありません、もしかしたら生まれ変われるかも」
「だから死んでんじゃねぇか」
「ふふ」
これから消え失せるというのにどうしてこうも楽しそうなのか、
セトはなんとなく不思議な気分に陥っていた。
「でも少し残念なのは貴方とは一緒に行けないことですね」
「ん?ああ、俺は地獄行きってか?」
「いいえ、貴方は天国にも地獄にも。まだ行くことは出来ません」
「は?」
「なぜなら…」
少女の持っている武器が光り出す、
その光は天高くへと雲を突き抜けて輝いた。
(あの武器は確か…)
「ルナティック・スフィア。」
「そうそうそれそれ、って心読むなよ」
どうも調子が狂う、
この少女どこかで会ったのだろうか。
そうセトは思いながら光の先を見つめた。
すると、光の上を滑るようにこちらへと飛んでくる物体がある。
目を凝らすとそれは見覚えのある武器だった。
「壊世…!?」
「私と共に行くのは彼です」
壊世は俺の足元へと突き刺さると、その姿を人に変えた。
「setoか、随分と恰好の良い登場ですなあ」
「そういうお前は色々と薄いぞ、年のようだな」
「ほざけ」
相変わらず仲良くなれそうにない、
しかしなぜあの少女がsetoのことを知っているのか。
セトは脳をフル回転させる。
「考えなくても分かるだろ」
「いいや、全然?」
「…とにかく、時間が無い。交代だ」
setoの手が差し出されたので思わず握る、
すると俺の身体は色を取り戻しsetoは薄まった。
「なにこれ気持ち悪い」
「俺だってお前の色素が入ったみたいで気持ち悪いぞ」
緊急事態だというのに争う二人、
そんな二人を見て少女が笑った。
「ま。もうそろそろ時間だ、顔を最後に見せてやったらどうなんだ?」
「そうですね…」
「?」
セトが会話についていけないにも関わらず進む話、
少女はゆっくりとフードを脱ぎその顔をあらわにした。
「…っ!?」
「お久しぶりです、セト」
「リ…ノア?」
「はい」
自らの目を疑う、
自分が今まで探し続けてきた存在が突然目の前に現れたのだから、無理もない。
思わず頭が真っ白になった。
「おい、嘘だろ…いやこんな時に会えるなんて」
「少々、残念でしたね」
「いや!俺はお前となら、あの世だって…!」
叫ぶセトの口へとリノアが「そこまで」とでも言わんばかりに人差し指を触れさせる、
セトはそれ以上何も言えなかった。
「セトまでこっちに来てしまってはsetoの思いが無駄になってしまいます、セトはこちらの世界に残ってください」
「そんな…っ!俺は、ずっとお前のことを…!」
「大丈夫です、分かっていますから。私もですよ」
目から何か熱いものが溢れだす。
悲しいから?違う、嬉しいから?そうじゃない。
意味も分からずセトは涙を流していた。
「リノア…」
「ありがとうセト、あちらの世界でもう一度クエストを出来たとき。凄く楽しかったですよ」
「そんな、俺はまだ話したいことが…」
「…ゲームを嫌いにならないでくださいね」
「時間だ」
setoの声と共にリノアの身体は消え去り、同時にsetoも消えていった。
「リノアあああっ!」」
セトはその場に泣き崩れた。
―あれから何日が経っただろう。
朝も昼も夜も、
俺はあの日のことを思い浮かべていた。
ずっと前にリノアと出会えていたこと、
その時にリノアだと気付けていればもしかしたらもっと違う運命を辿れたかも知れない。
そんな公開に犇めきながらただただ涙を流した。
そんなある日、
ふとテレビをつけた。
ニュースではやはりあの日の出来事が放送されていた。
像の上に立つリンク、そこへと向かうプレイヤー達。
そして死んでいったプレイヤー達、
各プレイヤーの葬儀場まで記載されていた。
「はぁ…」
ため息交じりに画面を見つめる。
とある会社がいい訳のように「これはプロモーションだ、宣伝だ」などと会見で説明している、
死人が出ているのにそんな言い訳が通るわけがないだろう。
「阿呆かこいつら」
テレビから目を反らそうとした時、
会見に出ていた男がこちらを見ている様な気がした。
「政府も必死だな」
俺は朝ごはんを作ろうと台所へと向かう。
冷蔵庫へと手を伸ばしたところでインターホンが鳴った、
「うざったい」と思いながらも玄関に出る。
「はい、どなたですか?」
「これはこれは初めまして、セト様とお見受けします」
「そうですが」
「実は私、こういうもので」
玄関前に立っていたのはスーツ姿のサラリーマンっぽい男性だった、
男は俺へと名刺を差し出すとニコニコと微笑んでいる。
(『J・Mカンパニー』…?えっと確か、ニュースでやっていた…)
「貴方たちですか、ろくでもない言い訳を思いついたのは」
「言い訳?とんでもない!列記とした広告ですよ」
身振り手振りと忙しく、
男はジェスチャーを踏まえながらこちらに感情を伝えてきた。
「ですが、ニュースを見ておられるのでしたら話は早いですね」
「?」
「貴方様には是非ともこのゲームに参加していただきたく参った次第です」
男は俺に一つの段ボールを渡すと車に乗って帰っていった、
説明書は箱の中だとだけ言って。
「中身は…DVDとなんだこの機会?ゴーグル?」
中には説明用と思われるDVDが一枚とゴーグルらしきものが一台、
あとはラ〇トセイバーのような棒が一本だけ入っていた。
『テーテレッテー♪』
愉快な音楽と共にテレビにCMが映る、
映像は極めて普通のCM、内容が少々意味ありだった。
「これは…」
思わず食いつく。
内容というのは、
ゲーム内からモンスターが飛び出して町を襲う。
それをプレイヤー達が狩るといったゲーム広告、
しかし重要なのはそこではない。
「CMのプレイヤーがつけていたゴーグル、これと同じものだ」
手元にあるゴーグルを見つめ直す、
どう見ても同じゴーグルだ。
政府がRNW事件の言い訳用に作ったイベントかとも思ったが、
どうもそう浅くは無いようだ。
しかも俺を指名とは何か引っかかる、
『Road New world』と何か関係があるかもしれない。
「ゲームスタート…か」
手元に会ったゴーグルと棒を持ち、
俺は町へと踏み出した。
真実を知るために。




