貴族事情④
だいたい暴言を吐いたのはリュート様なのに、何で私に突撃して来るんだろう?
やっぱり勝てそうな方を見た目で選んだのかしら。
さて、前にこんな風にご令嬢に突撃された時は受け止めたけど、この方たちはちょっと……。
とりあえず、ぶつかる直前にスッと避けてみるか。
「うおーーーー!!」
いやいや、ちょっと待って!
どう考えても貴族のご令嬢がパーティー会場で出して良い声じゃないでしょう?
自分でもわかるぐらい私の顔は引きつっていると思うよ。
とにかく避けよう。
私は頭から突撃して来るニコルさんをぶつかる直前にスッと避けてみた。
ズサササーーーー!ゴロゴロ!
どうしよう……物の見事に転がっている。
私、ヨケタダケダヨ。
「「ニコル!!」」
残り2人のご令嬢がニコルさんのお名前を叫んでいる。
そしてその目は完全に私をロックオンしてしまっているようだ。
あう〜〜、やっぱり受け止めた方が良かったか。
「よくもニコルを!」
「そんな体で何が出来るって言うの?絶対後悔させてあげるから!」
コワ〜〜。
野生化しているよ、誰か捕獲して下さい。
ユメールさんとホーリーさんは自分が最初に戦うと、何やら言い争いをしている。
この間に帰らせていただくわけにはいかないですかな…………ああ、うん、無理ですよね〜〜。
どうやら話し合いは終わったようだ。
最初に来るのは……ホーリーさんみたい。
「さっきのニコルの突撃を避けたのはまぐれに違いないわ。だってニコルの突撃はイノシシだって倒すのよ!運が良かっただけ、それだけよ!」
はあ、まさか北の国のご令嬢がイノシシを頭突きで倒しにいくとは……。
世界って広いのね。
それに初対面の人に頭突きをするのは良いことなのかい?
もう何もかもが不思議な国だ。
ホーリーさんはニコルさんのように前を見ないで突撃して来るのではなく、構えながらジリジリとこちらにやって来た。
いや、本当にさ、私だから良いけど普通のうちの国のご令嬢だったら卒倒するよ。
ホーリーさんは私に近づくと、いきなり腹に突きを入れてこようとした。
私は自分の体に当たる前に、ホーリーさんの腕を掴みそのまま一本背負いの体勢に持ち込み、勢いそのまま投げた。
ドスーーン!
ホーリーさんは何が起こったわかっていないようで、床に倒れたまま目を白黒させている。
それにしてもいきなり人の腹に突きを入れようとするとは……。
「ホーリー!っく〜〜、ニコルに続きホーリーまで……。いい加減にしなさい!私たちが誰だかわかっているのですか?!この国の貴族の中でも代表権を持つ家、そして独身の貴族の男性から引く手あまたの、あなたなんて本来会話も出来ない存在なのよ!それなのに、それなのに〜〜!」
切れたユメールさんがまたもや突撃してきた。
凄い勢いで私の方へ近づいて来たかと思ったら、そのまま回し蹴りをかましてきた。
あ〜〜、そんな露出の多い衣装でそんなことしたら…………下着が丸見えです。
私はなかなかの速さで蹴り出された足を手で止めた。
そしてそのままその足を押し戻し、ユメールさんが体勢を崩しているところで首に手刀を落とした。
ユメールさんはそのまま気を失い床に崩れ落ちそうになったが、頭をぶつけると危ないので体を支えて横にしておいた。
ふう、本当にこの国の貴族のご令嬢はどうなっているんだ?
女性にここまで攻撃されたことなんてないよ。
パチパチ
うん?なんか拍手が聞こえる。
私が振り向くとリュート様と……いつの間にか現れていた見物人多数が拍手をしていた。
パチパチパチパチ
どんどん拍手の数が増えている。
「なんて華奢な姿なんだろう!」
「凄い!何であの体でユメール嬢たちとやり合えるんだ。」
「しかもまだ全く本気を出していないようだ。一体どこのご令嬢なんだ。」
ありゃ、目立ってる。
これはマズイ。
私が焦っているのがわかったのか、リュート様が私の方へ来たかと思ったらそのまま私をお姫様抱っこして猛ダッシュをした。
「な!誰だ、あの華奢な人を攫ったのは?」
「ま、待ってくれ!せめて名前だけでも〜〜」
「あの実力、是非我が家に迎えたい!」
リュート様が頑張ってダッシュしてくれたおかげで、何とかあの場からの脱出に成功した。
「リュート様、ありがとうございました。」
「いえ、元はと言えば私が原因ですから……リリーナ様申し訳ありませんでした。」
そう言うリュート様は、怒られて落ち込んでいる大きいわんちゃんのようだった。
つい、その姿にキュンとなってしまって頭を撫でてしまった。
ちなみに今だに私はお姫様抱っこされていますよ。
撫でられたリュート様は最初はビックリしていたが、だんだん笑顔になってくれた。
うんうん、別に気にしていないから落ち込まないで下さいな。