当然の流れ
アレク様によるお説教タイムもようやく終わったようだ。
さっき兄に吹き飛ばされた時よりも皆さんのダメージが大きそうなんだけど。
あちらこちらでピクピクしながら倒れている人が見受けられる。
兄が物理で、アレク様が精神的に鍛えているのね。
私とアレン君は、アレク様に挨拶してから帰ろうと思って待っていた。
さあ、挨拶をしたら屋敷に戻って兄とサナがどうなったか確認しないと。
「アレク様、今日は突然お邪魔してしまって申し訳ございませんでした。」
私はアレク様と、後ろで伸びている団員の皆さんに頭を下げて謝罪をした。
理由はどうあれ、この場を騒がしてしまったのは私の責任だし。
「いえ、リリーナ様謝罪はいりませんよ。騒ぎが大きくなったのは……この転がっているヤツらが大はしゃぎしたせいですから。それよりも感謝したいくらいです。隊長はここ最近気の抜けた状態でしたからね。これで少しはマシになるでしょう。もしもサナさんに振られた時は、騎士団をあげて残念会でも開いてあげますよ。」
アレク様が爽やかに笑いながらそんなこと言ってくれた。
アレク様の言葉に、団員の皆さんも賛成の言葉をあげている。
『残念会熱烈歓迎!』
『サナ様!隊長よりも俺の方が優しいですよーー。』
『隊長、フラれろ!』
うん、主に残念会開催に力が入っているご様子。
さすがブレないね。
「ええ、その時はよろしくお願いします。でも、きっと残念会は開催されないかもしれませんわ。」
私の言葉にちょっとびっくりした顔をした後、アレク様は優しく微笑んでくれた。
「……隊長の想いは報われそうなんですね。では、今まで以上に仕事を頑張ってもらわなければ。」
じゃあ、上手くまとまったところで帰りますか。
私とアレン君が一緒に訓練所を出ようとしたその時、黒い影が私たちの目の前に舞い降りた。
突然の黒い影にアレン君が私の前に出て構えている。
「おっと、攻撃しないで下さい。驚かせたことは謝りますから。申し訳ないです。……おお、本当にリリーナ様がいらっしゃる。ふむふむ、これはどうしたものか…………。」
この声、黒い影の正体はどうやら久しぶりのハンゾウさんのようだ。
「ハンゾウさん、お久しぶりですね。」
「あ、ああ、お久しぶりです。ところで何故城に?リリーナ様はここを避けておられたと思っておりましたが。ま、まさか何か問題でも!」
ハンゾウさんがプルプル震えながらそんなことを言っている。
お、避けていたのはバレていましたか?
「問題は……まあ、解決しそうですわ。家族の問題なので大丈夫です。あと、私たちは今屋敷に戻るところなのでお気になさらないで下さいな。」
そう言って、私はすぐに歩を進めようとした。
しかし、それをハンゾウさんが両手を広げ阻止してきた。
「あら、ハンゾウさん……どいて下さいませんか?」
「ちょ、ちょっとお待ち下さい。……うう、そんな目で見ないで下さいよ〜。ほ、本当に少しだけ待って下さい!お願いしますリリーナ様!」
ハンゾウさんはついにお得意の土下座を繰り出してきた。
これは……無視して横を通り抜けたりしたらダメなのかな?
ここでの滞在時間が延びれば、それだけ危険が……。
なんて思っていたけど、もうその危機はすぐ近くに来ていたようだ。
「リリーナ様、今ちょうどレオン王子とスミレ姫が毎日恒例のお茶会を開いておりまして。それで是非ご参加いただ……」
「いただきません!」
私の代わりにアレン君がきっぱり断ってくれた。
そりゃそうだ、無理でしょ。
「で、では、ちょっとだけ、ほんのちょびっと会ってみたり……」
「「しません!!」」
「ですよね〜。ってそれだと姫が荒れる……ああ、それは困るな〜。」
ハンゾウさんがああだこうだ言っているけど、正直付き合う義理はないと思う。
もういいや、帰ろう。
「アレン、行きましょう。」
「はい、リリーナ様。」
私たちはハンゾウさんを置き去りにして帰ることを選択した。
これ以上ここにいたら本当に現れるよ、王子と姫が。
私たちが訓練所を出て城を出るために門へ向かう途中、さっき通った時はなかったはずのものがあった。
…………なんで、この中庭に突然お茶会会場が出現している訳?
ちょっと離れているけど……完全にいるよ。
何がって?そんなの決まっているでしょう。
「リリーナ様……どうしますか?」
アレン君が呆れたような声音で聞いてくる。
どうするって……どうしようか?
「そうね……ここを通らないと門に辿り着けないのよね。でも、あそこを通ったら……捕まるわよね。」
私とアレン君が立ち止まって話し合っていると、後ろから声をかけられた。
「おや、帰られたのではなかったのですか?……ああ、原因はアレですね。ふむ、ではこうしてはいかがでしょう。あまり使われていない出入り口があるのですが、そこを使われては?」
「ほ、本当ですか?そんな便利なものがあるのであれば是非教えて下さい!」
私たちはアレク様の案内で中庭のお茶会会場を避けて、別の出口へ向かった。