兄とサナ➂
団員たちのぶつかり稽古もひと段落したようなので、兄に声をかけることにした。
「お兄様。」
私の呼びかけに兄が、びっくりした顔でこちらを振り返った。
「なっ、何でリリーナがここに?」
「そんなのお兄様に急用があったからに決まっているではありませんか。」
「急用?」
兄は心当たりがないようで、しきりに首を傾げている。
ほほう、サナのこととは全く考えつかないのね。
「お兄様、何故サナに『守られていればいい』なんて言ったのですか?」
「なっ、何でそれを……そ、そんなのリリーナには関係ないだろう!」
「関係ない……ですか。……そんなわけ、関係ないわけないでしょう!サナは私の大事な侍女で、姉のような存在ですよ。そのサナが泣いていたんです。関係大アリですわ。」
私たちのやり取りを兄に吹き飛ばされ、倒れている団員たちも聞いていた。
『隊長の人でなし〜』
『妹を除け者にするな〜』
『リリーナ様、怒った姿も素敵だ!』
みなさん吹き飛ばされた割には元気そうですね。
兄にもその声は聞こえていたようで、『あいつら……あとでもう一度訓練してやる』と言っている。
「お兄様はサナのことをどうするつもりですか?このままもう関わらないようになさるのであれば、私はサナを連れて長期で国を出ます。」
私の言葉に兄が目に見えて焦っている。
「ちょ、ちょっと待て!早まるな、長期って何だよ。リリーナのことだから本気で当分国に帰って来ない気だろう?い、1年か?…………そ、その目はま、まさか3年か!…………おい、5年はないよな?な?」
兄のテンションがおかしくなり過ぎて、私の肩を持ってユッサユサと揺らしてくる。
兄の馬鹿力でそんなことされたら、さすがの私も具合が悪くなるんですけど。
そんな時アレン君が私の肩にあった兄の手を、サッと除けてくれた。
「リカルド様、リリーナ様が女性ということをお忘れなく。リリーナ様だったから何事もないようにしてましたが、普通の人だったらとっくにぶっ倒れてますよ。」
まあ、そうね。
普通の女性だったら悲鳴をあげて、ばたんキューでしょうね。
「えーっと、アレンありがとう。こほん、お兄様。私は本気ですよ。お兄様のお答え次第ではお祖父様に協力を仰いで速攻で行動いたします。お兄様、もう一度聞きます。何故サナにあんなこと言ったのですか?」
兄はしかめっ面で『むーー』と唸っている。
しかし、黙ったままでは私が行動に移すと考えたのか話し始めた。
「俺は……サナが好きだ。いや、むしろ愛している。はっきり言って、好きだと自覚してからはサナがいないとおかしくなりそうなんだ。だが、ダミアンにしろ、このメンバーにしろサナを狙う奴が多過ぎる!俺としてはサナを守るのは俺の役目であって、サナは俺に守られていれば良いと思って言ったんだが……。」
うん、わかった。
兄とサナは完全に会話が足りない。
普通に会話してたらこんなことにならないでしょう。
「お兄様、サナはその人たちからの攻撃について話していたのではありませんよ?サナはお兄様との今後を見据えて発言したと思うのですが、伝わりませんでしたか?サナは……サナは自分は貴族ではないから身の回りの世話と戦いでしか役に立てないと泣いていました。お願いだから逃げずにきちんとサナと話し合って下さい。」
私の言葉を聞いた兄は『でも』とか『あ〜〜』とかブツブツ言っている。
何でこういう時に、いつもの猪突猛進具合が発揮されない訳?
冷静に話し合おうと思っていた私だが、だんだん腹が立ってきた。
私は今まで心の中では兄にイロイロ言ってきたが、物理攻撃は母の役目でだったのでしてこなかった。
しかしここは一発ヤらなきゃいけない時ではないでしょうか?
私は未だに何かブツブツ言っている兄に近づいた。
私に気づいた兄が顔をこちらに向けた時、私は顔に笑みを貼り付け兄のお腹に渾身の一撃を放ってやった。
ドコッ!
「いっって〜〜〜〜!」
兄が膝をついてうずくまっている。
正直兄を殴った私の拳も痛いよ。
でも、そんなことは感じさせず私は兄の前に立った。
「そんなウジウジしている姿なんてお兄様には似合いませんわ!いつものように当たって粉々に砕ける勢いで行動して下さい。じゃないと……本当にサナは2度とお兄様には会わせませんよ。」
私の言葉にうずくまっていた兄が顔をあげ、そして何故かギョッとした顔をした。
「なっ!リリーナ、お前……泣いてるぞ?」
え?私は目元に手を当てた。
……本当だ、濡れている。
私自身気づかぬうちに、感情が高ぶり過ぎて泣いてしまったようだ。
兄は私の泣き顔を呆然と見ていたが、急に頭を勢いよく振り出した。
「あ〜〜〜〜!本当に俺は何をやっているんだ。妹と大事なサナまで泣かせて……。リリーナ、ありがとう。俺は馬鹿だった。いや、まあ、今もそうかもしれないが。でも!今なら……今ならまだ間に合うよな?」
そう言うと兄は、先ほど私が与えたダメージなどなかったように、訓練所を風のように去って行った。
ふう、これで私の役目は終わりか。
と、思っていたが何故かこの後、騎士団の団員に稽古をつけてくれと迫られる騒ぎになったが、私の代わりにアレン君が大暴れという結末で。
騒ぎを起こした団員は皆、アレク様に延々とお説教もされていました。




