兄とサナ➁
「ねえ、サナ。サナのその気持ちはお兄様に伝えたの?お兄様はあんな感じだから言わなければ伝わらないわよ。そもそもお兄様はサナに何て言って結婚を申し込んだのかしら?」
私の質問にサナはたどたどしく答えてくれた。
「リカルド様は……私にけ、結婚して欲しいとおっしゃられました。しかし、その後に……守らせて欲しいと言われて。……私は守られるだけの存在なんて望んでおりません。そのことを伝えたのですが、何故か『サナは俺に守られていればいい』とおっしゃられて。それで、私、変なスイッチが入ってしまったのかリカルド様に勝負を挑んでしまいました。その後のことはリリーナ様も知っていらっしゃるかと……」
なるほど、サナの気持ちはわかった。
でも、あの兄が何故サナを守られるだけの存在と思ったのか。
サナを好きだと思ったら考えが変わったのかな?
ここで私が出来ることは……
「サナ、聞きたいことがあるのだけど……サナの素直な気持ちを教えてくれるかしら?誤魔化したり、建前なんていらないわ。サナがどう思っているか知りたいの。」
私の言葉にサナが「はい。」と小さく返事をした。
「サナはお兄様と結婚したい?」
「…………したい……です。」
ふう、良かった。
なら、私が動きましょう。
「サナ、ありがとう。あんなお兄様を選んでくれて。」
私はそうサナに言うと、部屋を出た。
目指すは兄のところ。
近くを通ったセバスチャンに兄の行方を聞くと、どうやら騎士団の訓練所向かったらしい。
訓練所……か。
善は急げって言うし、行きますか。
私は一応お祖父様には言ってから出かけようと思い、お祖父様がいる部屋へと向かった。
「……と言うわけで、騎士団の訓練所に行って来たいと思うのですが。」
私の突然の提案にも、お祖父様はその顔に笑みを浮かべて
「ほお、騎士団に殴り込みか。うん良いぞ、行っておいで。まあ、リリーナに何かあるとは思わんが一応アレンを連れて行きなさい。」
お祖父様、殴り込みではないですよ?
アレン君連れて行くと本当に殴り込みのようになってしまう可能性があるけど大丈夫かな。
「わかりました。では、行ってまいります。」
私はアレン君を連れて騎士団の訓練所を目指した。
その馬車内
「リリーナ様……その、騎士団の訓練所に行って大丈夫ですか?」
うん、邪魔しちゃダメってことかな?
アレン君がそんなこと言うなんて珍しい。
「ええっと、お兄様の訓練の邪魔になるかもということかしら?」
「いえ。訓練についてはどうでもいいんですが……ただ、騎士団の訓練所って城の中じゃないですか?もしかしたら、レオンやスミレ姫に会うんじゃないかと思って。」
…………すっかり頭からそのことが抜けていた。
そうだよね、レオン様やスミレ様の家に行くようなものだよね。
サナのことで頭がいっぱいだったとはいえ、そんな大事なことを忘れるなんて……。
「す、すぐに用事を済ませれば大丈夫……よね?」
「大丈夫です。何が起きても無事リリーナ様は城から脱出させてみせますから。」
何て心強い言葉だろう。
アレン君も一緒に帰ろうね。
そんなことを話しているうちに目的地に到着した。
さあ、兄に会いに行こう!
「うん?アレンとリリーナ様……ですか?何故こちらへ?」
訓練所へ向かう途中で見知った顔に会った。
アレク様だ。
「まあ、アレク様こんにちは。丁度いいところでお会いしましたわ。お兄様がどちらにいるかお分かりになりますか?」
「ああ、隊長ですか。隊長でしたら今、訓練所で恒例行事の真っ最中ですよ。」
「恒例行事……ですか?」
「ええ、まあ説明するより見た方が早いでしょうから、行きましょうか。」
私とアレン君はアレク様について訓練所の中へと入っていった。
中に入った途端叫び声が。
「「「「今日こそは、打倒隊長!!」」」」
その掛け声とともに騎士団の団員たちが兄へと向かっていった。
「……良い度胸だ。返り討ちにしてくれるわーーーー!」
兄が気合一発、言葉の通り向かってきた団員たちを吹き飛ばしている。
溢れ出てくる団員たちを次から次へと。
「これが、恒例行事ですか?」
私の言葉にアレク様が頷いていらっしゃる。
毎回こんな感じなんだ〜、騎士団って。
その間も次々と団員が吹き飛んでいる。
だけど……兄にやられている割には回復が早い。
「毎回やっているだけあって団員たちが打たれ強くなっているんですよ。前なら1回吹き飛べばそれで終わりだったのですが、今は5回ぐらいは向かっていくようになってます。成長ですね。」
そっか〜、これも訓練なんだね。
時々『サナ様を嫁に〜〜!』とか『アンジュ様に会わせろ〜〜!』とか聞こえるけど、あれも一種の気合の言葉なのかな?
ただ、その言葉が出たあとの兄の攻撃がハンパない。
ついでにアレク様もアンジュ様発言した団員に何か投げている。
……あ〜、アレク様、さすがに木刀とはいえ投げるのは如何なものかと。