ダミアン暴走
目の前では不思議な光景が広がっている。
サナと兄の戦いだったはずが、今ではサナを狙うダミアン様と兄との戦いに変わりつつある。
「邪魔をしないで下さい。私はサナさんとお付き合いさせていただきたいだけなんですから。」
ダミアン様がおかしいことを言っている。
その発言にサナと兄も戸惑っている。
「えーっと、ダミアン殿?今は俺とサナが戦っているんだが……」
「何故ダミアン様が?」
2人とも何故ダミアン様が乱入して、その上攻撃を仕掛けてきて、サナとの交際の話しが出ているのか全く理解出来ていないようだ。
「ダン先生、ダミアン様を止めていただけませんか?」
私の言葉に、ダン先生ではなくお祖父様が答えた。
「いや、止めなくて良い。ダミアン殿の参戦で事態も動くだろう。」
ええ〜〜、確かに何かは起きるだろうけど。
だけど、もしもダミアン様がサナに勝っちゃったらどうするの。
そんなことを考えている間もダミアン様はサナに攻撃を繰り返している。
もちろんその全てを兄が防いではいるけど。
「しかし、あれじゃな。我が孫ながらちょっとばっかし教育を間違ったかの〜〜。」
ダン先生がそんなことを言っている。
「ちょっと……ですか?」
ダン先生の言葉にアレン君が疑問を呈している。
確かに、あれはちょっとではないような。
それにしてもダミアン様はスゴイ。
あのただの木の棒であそこまで鋭い攻撃をできるなんて。
普通なら初めの一撃を入れた時点で、兄に棒を斬られていても不思議ではないのだけど、今も例の木の棒は健在だ。
ほら、今も……
「何で邪魔するんですか?私はサナさんに用事があるんですよ!」
ダミアン様が素早い打撃をサナ目掛けて放つ。
兄がサナを背に庇いながらそれを全て剣で弾いている。
「だ〜か〜ら〜、何でそこでダミアン殿が混じってくるんだ!これは俺とサナの問題なんだよ!」
兄が必死にダミアン様に訴えている。
対するダミアン様はというと。
「だって、サナさんに勝つと結婚を前提にお付き合いできるんでしょう?なら、私も参戦させていただかなければなりません。」
などと、独自の解釈で戦いに混じっている。
たぶん、勝てばサナとお付き合い出来る権利は兄にしか発生しないかと。
「はあ〜〜?何であなたがサナに勝つとサナがあなたと結婚しなきゃいけないんだ?どう考えてもおかしいだろう?」
「先ほどサナさんが言っていたではないですか。『私に勝てたら真剣に結婚を考える』って。」
「いや、だからそれは俺とサナの話しであって、ダミアン殿は関係ないだろう?」
兄とダミアン様が目で追うのが大変なくらい素晴らしい素早い打ち合いをしている中、その会話の内容は間の抜けたものだった。
兄が何度もダミアン様は関係ないと言ってもダミアン様はサナを狙うのをやめない。
本当に変わった人だ。
「ちょっと……いや、かなり変わっていますが、さすがは師匠のお孫さんですね。この間あった時はボーッとしたイメージがありましたが、騙されました。1度真剣に手合わせしてみたいです。」
アレン君が真剣な表情でダミアン様を見つめている。
その目は獲物を狙う目だ。
でも、気持ちはよく分かる。
私も出来るなら1度くらいは戦ってみたいもの。
「あ!」
アレン君が声を上げた。
慌てて私も兄たちの方を振り向くと、兄が横腹を押さえて膝をついていた。
何がどうなってそうなったの?
私は小声で、アレン君に聞いてみた。
『ねえ、アレン。お兄様はどうして膝をついてしまっているのかしら?』
『あ、はい。ダミアン様の攻撃がちょうどさっきサナさんのムチを受けたところと同じところに入ってしまったようです。あれはかなり痛そうですね。』
それはさすがの兄も膝をつくか。
兄は膝をついたまま動けずにいる。
ダミアン様は兄が動けない隙に、本来の目的のサナへと木の棒を向けた。
「さあ、サナさんやりましょうか?」
ダミアン様はそう言うと、サナへと突っ込んでいった。
サナはそんなダミアン様にムチを構え応戦するつもりのようだ。
ダミアン様の強烈な一撃がサナへと放たれた。
木の棒とはいえダミアン様が使えば、それは本物の剣の攻撃と変わらない気がする。
ダミアン様の一撃は、サナのムチをいとも簡単に吹き飛ばしてしまった。
「きゃっ!」
サナが短く悲鳴をあげて、倒れこんだ。
それでも諦めてはおらず、落としたムチを拾おうとしている。
しかし、そのムチをダミアン様が素早く蹴り飛ばしてしまった。
「あぁ!私の……リカルド様にいただいた大事なムチが……」
サナが悲しそうな顔をしている。
……もうそろそろ私も参戦してもいいかしら?
これ以上サナがやられる姿を見ていることは出来ない。
私がダミアン様同様、近くに落ちていた木の棒を持とうとした時ダミアン様がサナの目の前に立った。
「さあ、これでおしまいです。サナさんを打ち倒せば私の勝ちですね。」
そんなこと、させない!