表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『真理子という名前』  作者: 蔭翁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/27

第27話 次の舞台 ――役を生きるということ



拍手の余韻が、まだ会場に残っていた。


だが――

その音は、すぐに現実へと変わる。


「本選進出者の皆さんは、別室へ移動をお願いします」


スタッフの声。


選ばれた者たちは、ゆっくりと歩き出す。


振り返る者はいない。


いや――振り返れない。



---


■ 廊下


扉の外。


静かな廊下に出た瞬間、空気が変わる。


誰もが言葉を探している。


最初に口を開いたのは、紗江だった。


「……よかった」


それは、ほとんど息のような声。


詩が小さく笑う。


「うん……」


その一言だけで、十分だった。



---


■ 控室


案内された部屋は、先ほどまでの待機室よりも広く、整っていた。


中央には長机。


その上には――


台本。


数冊、きれいに並べられている。


「こちらが、本選の課題になります」


スタッフが説明する。


「演技審査です」


空気が、わずかに張り詰める。



---


■ 配られる役


一人一冊、台本が配られる。


詩は、そっと表紙を開いた。


タイトル。


――『透明な境界線』


短編の脚本。


登場人物は、二人。


場面は、一つ。



---


■ 内容


静かな会話劇。


親友同士。


だが――


どちらかが嘘をついている。


それを知りながら、もう一人は問い詰めない。


関係が壊れることを恐れているから。


そして最後に――


「それでも一緒にいる理由」が問われる。



---


■ 紗江の戸惑い


「……これ、難しくない?」


紗江が呟く。


詩も頷く。


「うん……正解がない感じ」


感情の揺れ。


言葉にしない本音。


それをどう表現するか。



---


■ 玲の視線


玲は、すでに台本を読み終えていた。


ページを閉じる。


「相手次第だな」


短く言う。


その言葉に、詩が顔を上げる。


「相手……?」


「一人じゃ成立しない」


玲はそれだけ言って、椅子に座る。


(確かに……)


詩は改めて台本を見る。


会話劇。


つまり――


“関係”を演じる試験。



---


■ 奏の分析


奏は、静かにページをめくっていた。


「沈黙が多い」


誰に向けるでもなく、そう言う。


「台詞より、間」


葵が小さく頷く。


「見る側の想像力に委ねるタイプね」


その言葉に、空気が少し変わる。


ただ演じるだけでは足りない。


「感じさせる」必要がある。



---


■ ペア発表


「それでは、ペアを発表します」


スタッフの声。


全員の視線が集まる。


「――佐久間詩さん」


詩の心臓が跳ねる。


「星野玲さん」


一瞬の沈黙。


詩は、ゆっくりと玲を見る。


玲もまた、視線を返す。


(この人と……)



---


■ 紗江の相手


「田村紗江さんは、藤原葵さんとペアになります」


紗江が「えっ」と小さく声を上げる。


葵は静かに微笑む。


「よろしく」


「は、はい!」


対照的な二人。



---


■ 奏


「三浦奏さんは、小林悠さんとペアです」


奏は軽く頷く。


悠は、少しだけ緊張した表情で会釈した。



---


■ 始まる準備


「準備時間は30分。その後、順に演技を行っていただきます」


短い。


だが――


十分でもある。



---


■ 詩と玲


詩は、玲に近づく。


「よろしくお願いします」


少し緊張した声。


玲は、静かに頷く。


「どっちの役やる?」


台本には役名が二つある。


“真実を隠す側”と、“気づいている側”。


詩は少し考えて言う。


「……気づいてる方」


玲は一瞬だけ詩を見る。


「いいのか?」


「はい」


迷いはない。


玲は小さく息を吐く。


「じゃあ、俺が隠す側だな」


決まった。



---


■ 読み合わせ


最初の一言。


詩が口を開く。


「ねえ、最近――」


少し硬い。


だが、言葉は丁寧に紡がれる。


玲が返す。


「何?」


自然。


力みがない。


(すごい……)


詩は思う。


まるで、本当にその関係があるかのような距離感。



---


■ ズレ


だが、すぐに違和感が生まれる。


会話は成立している。


だが――


“通じていない”。


玲が言う。


「一回止める」


詩が驚く。


「え……?」


「今の、言葉だけになってる」


核心を突く。


詩は、言葉を失う。


「相手を見ろ」


玲の声は、静かだが強い。


「台本じゃなくて」



---


■ 再び


詩は深く息を吸う。


そして――


もう一度。


「ねえ、最近――」


今度は、玲を見る。


その目の奥を探るように。


玲が、わずかに表情を変える。


「何?」


その一言に、温度が宿る。



---


■ 変化


空気が変わる。


言葉の間に、感情が流れ始める。


詩は感じる。


(これが……演技)



---


■ 時間


30分は、あっという間に過ぎる。


「まもなく開始です」


スタッフの声。



---


■ 舞台裏


再び、あの場所。


だが今回は――


歌ではない。


言葉と沈黙の勝負。



---


■ 詩の胸


(怖い……)


正直な感情。


だが同時に――


(やってみたい)


新しい感覚。



---


■ 玲の横顔


玲は、静かに目を閉じている。


余計なものを削ぎ落とすように。



---


■ 呼ばれる


「最初のペア、準備をお願いします」


番号が呼ばれる。


次。


また次。


そして――


「次のペア、星野玲さん、佐久間詩さん」


来た。



---


詩は、一歩踏み出す。


玲も、同時に動く。



---


役を生きる時間が、始まる。



---


(第27話・了 → 第28話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ