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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第十一章 女王と黒猫
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ミヤリ捜査官の簡易報告書・8


 飢えた猛獣を相手にするのは危険だから、先払いしておく方が安全ね。


 ユレス捜査官のお嬢様制服姿には、もれなく私のお嬢様制服姿もついてくるけれど、だからこそ、私がこの映像を好きにしていい権利があるのでそこは割り切ってもらうわ。


 駆け引き材料として使うことを想定しなかったとは言わないけれど、思ったより綺麗に撮れているし、旧世界の服装の参考資料になりそうだったから、ユレス捜査官の同意も得て映像を貰っておいて良かった。


 アレク監察官も納得の出来栄えだったようで、絶賛された。


「素晴らしいですね。ミヤリ捜査官もよくお似合いです。二人でポーズまできめてくれるとは……サービスしすぎではありませんか?」


「撮影しているアドニス管理官の指導の下に演じております。旧世界の女子学生的振る舞いだそうです。ユレス捜査官は嫌がったのですが、アドニス管理官が旧世界の平和的文化活動の貴重な資料になると説得しました」


「……素晴らしい指導だと褒め称えたいところですが、アドニス管理官は行き過ぎた指導をしていたりしませんか?」


 一瞬ひやりとしたけれど、殺気ではないわね。単に、面白くないと。


「旧世界の法律では、成人男性が未成年女子学生に手を出すのは犯罪行為でしたし、アドニス管理官はそれも含めて指導しております。

 探りを入れられる前に言ってしまいますが、アドニス管理官はユレス捜査官の兄のようなものです。

 過保護な父親たちと違って立ちふさがったりしませんし、めんどくさい爺たちと違って試練を与えることもせず、妹の身の安全に配慮してくれるなら、むしろ二人の関係を応援してくださると思います。

 アドニス管理官の性癖からして、アレク監察官にとって最も安心できる男と言っても過言ではありません」


「え……っと、あの、突然性癖とか言われると私も困ります。ミヤリ捜査官は気にしないと分かっていますけど、性癖問題は拗れると危険ですし、当事者不在のところで踏み込むのもどうかと」


「アドニス管理官から、変な誤解を受けて嫉妬されたくないので、機会があったら伝えて欲しいと言われておりますので、ご安心ください。

 アドニス管理官は、物語や映像作品の登場人物、旧世界用語で言えば二次元の住民で、絶対に実在しない人物相手にしか興奮できず、恋愛感情を抱けないそうです。医務室で測定をしたこともあるようですが、現実の人間はどれだけ極上美人であろうが無反応だったという鉄壁の変態性癖です」


「……安心したと言うには、新たな変態性癖にどう反応するのが安全か分からないので、困っています。いえ、安全な変態性癖で良いと思いますけど、遺物管理局職員の方たちは、互いの性癖を熟知し過ぎていませんか」


「性癖ごとき些末なことに思えるくらいに、特殊事情持ちが多いからです。特殊事情のせいで性癖も特殊になる場合もありますし、性癖が緊急時の咄嗟の判断と行動に影響することもありますので、把握しておいて損はありません。

 現在、特殊事情のせいで恋愛以前の未発達な情緒のユレス捜査官と、特殊事情のせいで作品の登場人物しか愛せなくなったアドニス管理官の二人が、アイス・パレスの隔離封鎖に巻き込まれました。

 旧世界的に言うところの吊り橋効果で恋愛に発展する可能性は皆無ですが、両者ともに相棒のAIが強力で、マスター保護のために柔軟な行動も辞さないがために、迂闊に介入した場合、危機的状況に陥る可能性も想定されます。

 どうか、理性的な行動をお願いします」


「やはり、アイス・パレスですか」


「やはり、察していましたか」


「犯罪でないと前置きして言いますが、ユレスが生きてどの方向にいるかくらいは確認できる仕込みをしています。常時確認はできませんが、条件が満たされた場合は、たとえ隔離閉鎖されていようが確認できるようになります」


「どのような設定をなさっているか聞いても?」


「ユレスが監視猫を構い倒していると発信されるようになっている、と言うのが分かりやすいでしょうか。ユレスは動揺したり、何かを胡麻化したいときは、大体監視猫を構いますから」


「なるほど、監視猫につけた赤いリボンですか」


「はい。気づかれずに救援信号を発するのに使えるかもしれないと、警備局で開発中の装備でもあるので、警備局長もご存じです」


 さすが、犯罪にならないよう、ぎりぎりのところを上手くすり抜けるわね。

 取引や駆け引きも華麗にこなすけど、幸いと言うべきか残念なことにと言うべきか、アレク監察官は私相手にはそうする気が無い。


 手玉に取れないとか、相手にならないという意味ではなく、私の持つ取引カードが強力かつ有効過ぎるので、最初から最大限譲歩してくるからよ。

 そのために私は、当人が許可をくれているとはいえ、ユレス捜査官関係の情報やら映像やらを提示しなければならないため、板挟みと言えば板挟みだけど。


 ユレス捜査官が封鎖されたアイス・パレスにいるという情報は、アレク監察官には隠しておくのが最善手だったけれど、隠し通せるとは思えない。

 だから、隠さず話して釘を刺す方がましと判断して、ガンド捜査官から貰った報告書や、この地の現状についても隠すことなく明かした。


「……なるほど、警戒したくなるくらいに情報を明かしてくれましたが、それだけ私の暴走を警戒されていましたか」


「警戒しない理由がありますか?」


「無いですね。ですが、私をある意味信用して、隠さず教えてくれたようですので、自重します。ゼクスを私にけしかけて、邪魔させることも考えていますよね?」


「検討はしましたが、手を組んで二人で脱走される危険性の方を高く見積もりました。それに……マークから私に何の連絡もないのが気にかかったからです。マークは、私たちとの友情より、男同士の友情を取ったのではないかと」


 アレク監察官は本当に素直に答えるつもりだったのか、いい笑顔で口を開いた。


「マークは友情の板挟みに悩んだようですが、最終的には私の味方になってくれました。ですが、私に対してもはっきり状況を伝えて来たわけではありませんよ?ただ、ドルフィーと自分を信じて欲しいとだけ通信文が来ました」


「……マークは大自然の掟を優先するとはいえ、機密漏洩はしないとは信じています。ですが、同志の絆を優先して、結果的に情報漏洩してくれるのが困りますね」


「お互いの最愛のために協力しあうのが最善ですし、敵対関係になりようがありませんから、私たちは常に親友でいられます」


 ユレス捜査官は種族の壁を越える気が無いので、アレク監察官はドルフィーたちがユレス捜査官を取り巻いていても嫉妬はしない。

 そして、種族の壁を越えるつもりでいるマークが、ドルフィー・ハーレムの主に手を出すことはないと納得したため、マークとも反発しない。


 むしろ、ユレス捜査官と交流するドルフィーたちは事件性皆無で平和的で素晴らしい光景だと意気投合して、その美しい光景を守るために協力を誓い合ったらしい。

 裏事情が特殊過ぎるけれど、表面だけ見れば、まっとうかつ爽やかな友情が築かれているように見えるわ。


 親友マークからの通信のおかげでぎりぎり自重してくれたようだけど、際どいわね。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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