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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第十一章 女王と黒猫
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ミヤリ捜査官の簡易報告書・5


 アレク監察官と視線を交わした瞬間、確信したわ。いけると。


「単刀直入に聞きますが、誰とどういう取引をして拘束されてここに来ることに同意したのですか?素直に答えていただけた場合、旧世界のお嬢様制服を着用したユレス捜査官の映像記録を差し上げます」


「素直に自供するつもりでしたが、いただけるものはいただきます。本件に関わらないことでもなんでも聞いてください。私は常に、正当な対価を払う用意があります」


 さすが話が早い。お互いに頷き合ったら、リマが引きつった声で割り込んで来た。


「え、ええー、ミヤちゃん、いくらなんでも、初手から取引ってどうなの。アレク監察官も、あたしの前で報告書に書くのに困るようなこと言わないでくださいよ」


「いかに報告書を作成するかも訓練の範疇ですよ、リマ。今回はミヤリ捜査官から報酬を約束されていますので、後で報告書の相談にも乗りますが、言葉を取り繕わずに言えば、ベルタ局長と取引しました。

 海浜自治区の占い師エマが、ケイトと密会したそうです。その後、ケイトは<救世の箱舟>について探りを入れていたので、ケイトをあえて<救世の箱舟>近くに行かせて反応を窺うことになったのですが、怪しまれていることを察知されないよう、別の理由でケイトに私を拘束させてここに送り込むことにしたわけです」


「なるほど、被疑者と監視役が逆なわけですか。……おかしいとは言いませんが性急ですね。ゼクスが突然来たからですか?」


「と説明されましたが、ベルタ局長にしても力技過ぎるので私も不審に思いましたが、報酬がよかったので、うっかり飛びついてしまいました。

 今までどれだけ交渉してもいただけなかったユレスの子どもの頃の映像を気前よく提示されたからには、何か別の重大案件も関わっているのかもしれませんが、ミヤリ捜査官もご存知なさそうですね」


「残念ながら。リマは何か指令がきていたりするの?」


 さっきからリマが腕輪を操作して情報照会していたけれど、首を振った。


「局長からは現場判断に任せるってだけ。事情と詳しい指示はアレク監察官から聞けってことだろうって班長が投げてきたけど、どういうことなんだろ。もしかして、局長からの抜き打ち試験?」


「無いとは言いませんが、違和感がありますね。豊穣祭の屋台通りの打ち上げの大宴会中ですし、ベルタ局長も新作バトルドレスをお披露目する予定でしたから、お楽しみの最中に試験仕掛けるような真似はしないと思います。

 別件となりますが、アイス・パレスが封鎖されたので、そちらの対応に動くついでか、何らかの思惑があってということはありそうですが」


「え……アイス・パレスが封鎖ですか!?それ、特務課の緊急出動案件じゃないですか。でも、封鎖?」


「はい、封鎖されたので、出動したくてもできません。私も大宴会に行くところだったのですが、アイス・パレスで抗争が始まりそうだという通報があり、急遽監察局長が仲裁のために行くことになって、私は警護役として同行を求められました。

 アイス・パレスは自治区申請していて、自治区の運営方針や区長選出のための会合に自治局と監察局も参加する予定だったはずが、監察局のごたごたのせいで延期となった挙句に不満が高まってという流れだったようです。

 武闘派の抗争に巻き込まれる可能性が非常に高いので、私が同行するのも仕方ないと言えば仕方ないのですが、私を待っている間に、アイス・パレスは隔離封鎖されました」


 アレク監察官の話を聞きながら私も情報照会したけど、公式情報では広報されていないし、遺物管理局からも大した情報は得られないわね。


「遺物管理局では一部の職員に警戒態勢への移行が指示されたようですが、私はその対象外ですので詳細情報は開示されません。……ここまで情報が制限されていると、かえって不穏ですね」


「う、うーん、<知識の蛇>が仕掛けて来たとか?」


「ユーリ捜査官が最近アイス・パレスに行っていたわけだから、ユーリ捜査官が何か仕込んだ可能性もあるし、脳筋の聖地で何があっても驚かないけれど、情報不足の現状であれこれ悩むよりは、片づけられる案件をさっさと片づけた方がいいわ。

 とりあえず、<救世の箱舟>と占い師エマについて、ケイト監察官から情報抜く方法を考えないと」


「その通りだと思うけど、なんか、すごく違和感……上手く言えないけど、罠にかけられた感じがするというか、あっ!?」


 リマが分かりやすく動揺したけれど、油断し過ぎよ。元班長の方が注意したわ。


「リマ、私は一応拘束されて送り込まれてきた部外者の立ち位置でもありますし、事情聴取される側ですので、何事かあったことを態度に出して付け込まれるような隙を見せてはいけません。ミヤリ捜査官ほど厳しく警戒して欲しいわけでもありませんが」


「え、えっと、その、事情聴取の結果、怪しくないと判断したことにしてください!それより、大変です、ここも封鎖されました!」


 そう言われて、リマへのお説教は放り投げた。


 指導も説教も緊急事態にやるものではないわ。少なくとも素人には無理よ。ローゼス管理官が、分かってないお子ちゃまはやらかしたときに叱らないと分かってくれないのよと言うけれど、緊急事態と異常事態の渦中にあってもなお余裕がある人に限定して、そうするべきだと思う。


 アレク監察官も建前と立場は脇に置いて、リマが表示した通信文を見たけれど、警備局長命令で<救世の箱舟>用に設置した転移装置の使用停止となっている。

 とはいえ、通信制限がかかっているわけでもなく、単に転移装置を用いた双方向の移動ができなくなっているだけだし、何より警備局長の正式命令でとなれば事件性は限りなく低い。


 リマもすぐにそれに気づいて落ち着いたけど、うーんと首をかしげている。


「局長命令だからいいとするには、何のためにとか何があってって理由もなく移動禁止になると、すごく悩ましい。ミヤちゃんは遺物管理局から何か連絡来てないの?」


「来ていないわね。……でも、それはそれでおかしいとは思っていたわ。マークからも連絡が来ていないのよ。リマは?」


「あ、そう言えば来てない。マークも大宴会に行く予定だし、映像記録取ってすぐに送ってくれるって言っていたのに」


「私の奥さんはすでに会場にいますが、ローゼスに今日はお付き合いの指導をするから、段取りが狂わないよう直接通信文を送らないようにと言われていました。私が急遽監察局に連れて行かれたことは、ロージーが伝えてくれるはずですが、ロージーからも何も連絡が無いのは……気になりますね」


 三人で顔を見合わせて頷き合った。


 本題から逸れるし優先すべき他の仕事があるけれど、これは確認した方がいい。理屈ではなく、経験がそう言っているわ。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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