WILD CHARENGER Act.4
5回戦のデュエルのチーム分けは以下の通りとなった。
津々井:佐志
チャン:真壁
むしゃむしゃ:竹内
小川:神林
後藤ちゃん:吾妻
僕は昼食と同じく後藤さんと組むこととなった。
皆でレンジからフィールドに移り、アクリルボードが貼られている高台の客席からフィールドを観察する。
最初のカードは津々井さん:鈴羽ちゃんVS椎名さん:真壁さんチームだ。
津々井さんと椎名さんは同じチーム同士なのである程度手の内を知っているはずだしコンペの得点上は椎名さんの方が強いが見た限りだと実戦での実力は拮抗しているはず、そうなるとこの勝負の行方は女子2名にかかっている事となる。
レンジから上に手を振っている鈴羽ちゃんに手を振り返してから観戦に入る。
「そういえばあの子知り合いなの?」
「ちょっと前に一緒に遊んだ」
僕が後藤さんにそう答えるとブザーが鳴り戦闘がはじまる。津々井さんは鈴羽ちゃんと分かれ、真壁さんは椎名さんの後についていく。鈴羽ちゃんが側面で待機をし椎名さんを見送り真壁さんの後ろにつく、状況判断が巧い。
先頭では津々井さんと椎名さんの撃ち合いがはじまり、それに呼応するかのように鈴羽ちゃんが障害物の角を遮蔽として使って側面攻撃を行う、動きが良く出来ている。真壁さんを倒し、津々井さんと椎名さんの撃ち合いは津々井さんが勝った。
次のカードは武者小路さん:竹内さんVS小川さん:神林さんのチームだ。
今回は小川さん、神林さん側に対し武者小路さんと竹内さんがどう対処するかが見どころとなる。
戦闘が始まると他の3人とくらべ武者小路さんが明らかに出遅れていて竹内さんと武者小路さんはそれぞれ集中砲火で攻撃されあっけなく倒される。
さて自分の番になり2人で準備を行う、相手は津々井さんと鈴羽ちゃんだ。
「あのさ……作戦があるんだけど」
僕は後藤さんにある提案をする。
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「津々井さんと鈴羽ちゃん、この組み合わせは今回の中で一番厄介だと思ってる」
準備を行いながらわたしは吾妻の話を聞く。
「先ず抑えたいのは正面突破してくるであろう津々井さんをなるべく早く倒す事、できれば被害は抑えたいけどどっちかはやられるかもしれない。そうした後は移動を繰り返して鈴羽ちゃんを倒す、見た限り鈴羽ちゃんが強い理由というのは位置取りと攻撃のタイミングにあるんだ、射撃自体は巧い方であるけど必中という程じゃない」
「最悪なのは正面突破してくる津々井さんに手間取って鈴羽ちゃんに側面を取られること、それは防がなきゃいけない。なので後藤さんは側面から僕の援護をして正面は僕が行く。そうすれば僕に攻撃が集中すれば儲けものだし、そうでなくても1対2という最悪のパターンは回避できる」
比較的理にかなった戦術だ。特にわたしの扱い方が上手いのがいい。
2人でフィールドに入り拳をぶつけ合って戦闘に入る。
わたしは肺に新鮮な空気を入れて頭を空っぽにする。そうすることでわたしは兵士となる。
先ず吾妻を先行させてわたしは左回りで後をつける、障害物の隙間から吾妻を視認しつつ佐志の気配が無いことを確認して素早く移動する。
吾妻や佐志本人はわからないだろうが佐志は右か左かを選ぶときに左を選ぶ癖がある、わたしも左回りを選ぶことで佐志との接敵を先延ばしにして津々井に遠慮なく攻撃を加える。
どうやら津々井と吾妻が正面対決をはじめた。津々井は堂々と立ち、吾妻は障害物の角を使って攻撃の機会を伺っている。
津々井がリボルバーで連射を始める前に弾を当てておく、これも独特な癖があるのでわかりやすい。
津々井に当てたと同時に吾妻も当てられたらしい。そうなれば後は一対一だ、わたしは佐志の裏を取るように動き佐志の背中に1発当てた。
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1回戦は後藤さんのおかげで勝てたが椎名さん真壁さんの2回戦は1回戦の戦術では各個撃破されて終わりだ、理由は1回目と違い相手は互いに援護しあっているからだ、津々井さんと鈴羽ちゃんみたいな爆発力こそ無いものの安定性が高く堅牢な戦術だ、特に厄介なのは2人共初対面でありながら互いの死角をカバーしあってる事、それに加え1回戦の奇襲に学び椎名さんが真壁さんに合わせの速度を落とし真壁さんは椎名さんの動きを補うように動いている事だ、それで竹内さんを正面で撃破して武者小路さんを追い込んだ。
で、あれば必然的に正面対決となるが椎名さんはともかくとして真壁さんの射撃は思ったより正確なのも問題だ。
一か八かの賭けではあるがハマれば確実に有利になる戦術を後藤さんに説明しておく。
「吾妻が先頭で防戦をしている間にわたしが後方から狙撃か」
これは昔読んだ本にあった戦闘ヘリの対地攻撃フォーメーションを真似たものだ、先頭の僕が被害担当になることによって後藤さんが安定した攻撃の機会を得る事という事だ。
さらにもう一つ仕掛けを説明してから戦闘に入る。
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改めて思うが吾妻の戦術眼は鋭い。
戦術の在り方も真っ当だし、それにもう1つの策も的確だ。
その策のためにわたしは呼吸を止めてから彼女を狙う。
もう一つの策とは真壁を集中砲火で当ててからジャッキーを攻撃する。理由は説明しなかったもののわたしが考えうるに彼女が今回の中で唯一電動ハンドガンを持ち込んだからであると思う。
電動ハンドガンというのは単純に言えば電動ガンをハンドガンサイズにまで小さくしたもので、電動ガン特有の命中精度や動作の安定性をハンドガンサイズで使えるという利点がある。
彼女自体はそんなに腕が立つわけでも実戦で強くもないのだがなにか得体のしれない不気味さはある。不安要素は早めに排除するのが一番だ。
わたしは真壁に弾を当てる、吾妻は椎名との撃ち合いに負けたがわたしが敵を討つ。
「勝ったぜい」
わたしは吾妻とハイタッチを交わす。
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3回戦の武者小路さんと竹内さんとの対決は各個撃破で楽に勝てたが問題は次だ。
4回戦の戦術に関しては難しかった、3回戦はともかく1回戦、2回戦共に強敵であったが戦術に偏りや穴がありそこを突く事で勝数を稼いでいた、最も僕の戦術よりも後藤さんの実力が伴っているからこそ勝てた。
4回戦の小川さん神林さんチームは津々井さん鈴羽ちゃんチームみたいな連携を駆使した爆発力も、椎名さん真壁さんチームみたいな安定性も無い代わりに単純に個人個人が強いストロングスタイルだ。
「……そこで提案したいのはこっちは徹底的に役割分担に徹する、それ自体は2回戦の延長線に過ぎないけど今回は僕は回避に専念するから君はなんとかして1人ずつ倒してくれ」
無責任な事を指示しているとはいえ正直な話これ以上の策が浮かばないのも事実であった。
当たって砕けろの精神で4回戦を迎える。
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先行している吾妻を視界に捉えながら拭えない違和感を覚えていた。
フィールドの中央近くまで来ているのに誰もいないのだ、嫌な予感を感じ肺に空気を入れる。そうしてから五感全てを使って今の状況を理解する。
「後ろか!」
視界の隅に神林の姿が見える。
わたしは振り向きざまにブラインドショットをかます、神林の方がだいぶ早く射撃をしていたがわたしの不意打ちには対処できなかったのかわたしの弾に当たり、それと同時に腕に弾が当たる、ドロー。
一応1人倒したものの、残りを吾妻だけで対処できるかどうかわたしは倒れながら結論を出した。
まぁヤツならなんとかするだろう。
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視界の端で後藤さんが倒れ、それと同時に小川さんが正面から現れる。
なるほど連携をしなかったのではなく今までは連携をするまでもなく倒せていたという事であったのか。後藤さんが神林さんを倒した前提で作戦を練る。
正面から撃ち合って先ず勝てる相手ではないので回避に専念する、相手の目と銃の向きを見ながら移動経路を導き出し次の計画を練る。
小川さんの弾は今の所当たらず奇跡的に全弾回避できているがいつまでも続くものではない。僕は障害物に隠れ移りながら考える。
そうだ、いつまでも続かないのは小川さんも同じだ。
種類は違えど互いに同じ拳銃のみで戦っている以上弾数は限られていてまだ1発も撃ってない僕に比べ既に3発も外している小川さんのほうが同じ銃であったとしてもその分少ないし、小川さんのマカロフが何発入るかわからないがタクティカルマスターの26発とくらべ小型の拳銃で小口径弾をつかいシングルカラムのマガジンを使う以上、26発よりも確実に少ない筈だ。
僕は頭の中で大体の計算を行う、ベレッタとマカロフのマガジンの大きさ、ダブルカラムとシングルカラムの事を勘案に入れ多く見積もって15発と結果が出たが、そうなるともっと撃ってきてもいい気がする。
今までの発砲回数は8発、装弾数が15発であるとすればまだ半分しか撃ってきていないし1発当てればいいだけなので仮に僕が小川さんならもう少し積極的に撃つ。
マカロフのマガジン容量は……8発、実銃と同じ8発という可能性はもうないので最低10発、多くて12発と推測した。
そうなれば相手の射撃に注意しこっちから攻勢に出れば勝てる。
そう踏んでくるりと振り返り銃を向ける、小川さんが正面から狙うが僕の意図を察したのか即座に障害物に身を隠す僕はゆっくりと小川さんを追跡すし無駄弾は撃たないが当てられそうな時は躊躇わずに撃つ。
我慢できなくなったのか小川さんも2発応射するが銃の動きと向きを見ていたため当たらずにやり過ごす。
そしてマカロフのホールドオープンを確認する、僕はここぞとばかりに息を止めて小川さんににタクティカルマスターを向ける、照星の先には逃げようとする小川さんがいて僕はそれを正確に狙い、当てる。
試合終了のブザーが鳴り響く。
勝った、勝ったのだ。
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休憩室の椅子に座ったら気が抜けてしまった。
未だに脚の震えが止まらず、手に至っては銃を握ってるのか紅茶のペットボトルを握ってるのかわからない状態だ。
「吾妻さんはすごいでありますな」
向かいに座っている鈴羽ちゃんがニコニコしながら褒める。
「に、しても泉美らしくもないよなぁ……全く当てられなかったんだろ」
「そうそう、ワンマガジン全部外すなんて珍しいよね」
「動く的は苦手、それと神林君と共同で炙り出す予定だった」
「いやー面目ない」
隣の席ではブラックレインズが神林さんも交えて反省会を行っていた。
「はい、じゃあ結果発表とします」
松岡さんと後藤さんがボードに得点を追加した。
そして驚くべき結果になっていた。
一位:スタッフ後藤ちゃん
二位:神林朝平
三位:小川泉美
四位:吾妻円
五位:佐志鈴羽
六位:むしゃむしゃ
七位:チャン・コーウイン
八位:真壁まりや
九位:津々井康隆
十位:竹内翔
すっかり忘れていたが5回戦は後藤さんも全勝していたのだ。4回戦の時点で後藤さんは順位は中位につけていたので必然と加点が追加されてしまった。
「これどうしましょ?」
「繰り越しで神林さんが優勝でいいんじゃない? というわけで優勝は神林さん。拍手」
「うわー納得いかねぇー」
「神林さんには優勝賞品として、ウチの商品券5000円進呈させていただきます」
神林さんは松岡さんから商品券をもらう。
優勝できなかったことは残念だが同時に結果を出せたという事は良かった。
楽しかったコンペも終わりお開きという雰囲気になった。
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昼下がりの大規模なショッピングモールの駐車場、やや空白が目立ちつつもまばらに埋まってる内の1台、白いセダンの中に2人の男女が座っている、男は運転席に座り女は助手席で資料を読んでいる。男はマツケンこと松岡研二だが女の方はOLらしい格好をしていて長めの髪は下ろし眼鏡をかけている陰気ではないが何処と無く暗い感じのする女だ。
「とりあえずは民間レベルでいいからその2人の身元洗ってよ」
「ええ、たしかに受領しました」
「それよりも希子から聞いてはいたが、本当にアンタ鏡子なのか?」
「ええ、そうですよ。ここにいてこれを読んでるのが証拠ですね」
「いや、驚きだよ。普段は凄い威圧的でキツいのに、今は本当に影薄くて地味で何ていうのか変装だったら本当によく出来てるよ、いやホント」
「そろそろ戻りますね」
車から出てから鏡子は何を思ったのか踵を返し運転席の窓を叩く。
運転席のパワーウィンドウが開く。
「それとあんまり希さんをこき使っちゃ可愛そうですよ」
「へいへい」
鏡子は窓越しに松岡の胸ぐらを掴む、女の細腕とは思えない力が松岡を座席から浮かび上がらせる。シャツに全体重をかける形になった松岡は泡を食いながら自分のボスとこの女が同一人物であるとはっきり理解した。
「もう一度だけ言っておくが希は貴様を守る大切な戦力だって事を忘れるな」
「あっ、はい」
「わかったなら大丈夫ですね、それじゃお仕事の方頑張ってくださいね」
鏡子はニッコリと笑ってから松岡の胸ぐらから手を離した。
ショッピングモールへ向かいフードコートで昼食を摂ってから、ショッピングモールの裏手にある施設の中にある建物の中に入った。役所みたいなホールがあり多くの若者が座って待っている前を横切りロッカールームで靴を履き替えて着替える、外行きの羽織を脱ぐと薄手のカーディガンを羽織り、首から下げていて堂々とした大きさの胸の下当たりにありやや見えづらくなっている名札には「教務課 岡鏡子」と書かれていた。
岡鏡子は着替え終えるとホールの奥にあるカウンターの内側に入り、席につき時計を確認して13時きっちりに休憩中の札を外して「45番の方どうぞ」と言った。
果たしてこの女は一体何者なのか、悪玉の親分なのか、それとも善玉なのか。
乞う、ご期待。
今週のエアガン
むしゃむしゃのMEUピストル
メーカー:東京マルイ(カスタム)
武者小路愛用のハンドガン、ノーマルのMEUピストルからセフティやスライドストップを大型化しマグキャッチを左右両用に変更、リアサイト部分にはピープサイトを搭載し、マガジンハウジングを大型化するなど、全体的にカスタムが施されている。
また武者小路は気温や気圧等から逆算しその都度マガジンバルブを変更するなどセッティングにもこだわりがある
KJ MK-1 22 Target Pistol(後藤仕様)
メーカー:KJワークス
フィクスド(スライドが動かない)ガスガンの中でほぼ一番性能が安定してるといっても過言ではないエアガン。
後藤はそれのアイアンサイト仕様のフレームに小さい白いゴキブリのペイントを施している。それ以外は全くのノーマル仕様である。
ちなみに上にレイルがついている仕様を使っていない理由はスコープやダットサイトを装備しないからである。筆者としてはシンプルなのが好きなどと明確な理由がなければ上にレイルがついている仕様にしたほうがいいと思っている。