攻略対象【魔導師】と【賢者】
アマンダは一人で生徒会室で資料の整理をしていた。
シェイラが怪我を負ってから3日たつ。
回復魔法を直ぐにかけたとは言え。切断された手足が元に戻るのには時間がかかる。
早くて半年遅くなると2・3年かかってしまうのだ。
アマンダが聖女として目覚めるのは魔王復活の後で学園の卒業パーティーの時だ。
バタバタと慌ただしくルドルフがドアを開けて入ってきた。
「どうしたの? そんなに慌てて?」
アマンダは首を傾げる。
流石ヒロインだ。見とれるほどの可愛さ。
などと考えている余裕はないとルドルフは頭を振る。
「シェイラが攫われた!!」
ルドルフは悲鳴に近い声で叫ぶ。
「えっ? 嘘……なぜ?」
アマンダは固まった。脳が理解することを拒絶しているのだ。
「沙耶が言ってた『これは乙女ゲームじゃないかも知れない』と……」
「『乙女ゲームじゃない』でも可笑しいわ。攻略対象の名前もヒロインの名前も悪役令嬢の名前もそのまんまなのに?」
アマンダこと薫は考える。
「待ってよ。待ってよ。待ってよ。そうだ!! 【 あなたの側にいさせて~ 薔薇は月に微笑む ~ 】は第三弾があって確か秋に発売予定でタイトルは……【 あなたの側にいさせて ~ 薔薇は魔王に微笑む ~ 】ってタイトルだったはずよ」
「夏休み前にうちら死んだからそのゲームの内容は知らん」
「うん。確かルートは二つあって。ヒロインが攻略対象と魔王退治に行くルートと魔王に攫われて魔王に恋をするルートよ」
「魔王に攫われる? それだ! きっとアマンダ(沙耶)は魔王に攫われたんだ!! そうすると聖女であるアマンダ(薫)を狙って階段で二人を襲ったのは魔王か?」
「その可能性があるわね。あれ? でも攫われるのは悪役令嬢だったかしら?」
「選択があるのかもしれない。王太子以外の好感度を上げていたら悪役令嬢が攫われるっていう」
「そうかも知れないわね。発売前で詳しい内容はゲーム本に載ってなかったし。攻略本も出ていなかった」
「そうするとアマンダ(沙耶)は魔王城に居るのか?」
「多分」
「アマンダ(沙耶)救出には後誰と誰が必要なんだ?」
「聖女(私)と王太子(茜)と聖騎士と魔導士と賢者だったはずよ」
「仲間はどうやって集めるんだ?」
「神殿や森の中や砂漠に住んでいるから訪ねるのよ」
「時間がかかるな」
「大丈夫!! こんなこともあろうかと魔道具を用意してる」
「本当か!!」
「ついでに魔導士もそこに居るわ」
「でかしたアマンダ(薫)!!」
「取り敢えず森に案内するわ」
二人は生徒会室を飛び出した。
~~~~~*~~~~~*~~~~~
鬱蒼と生い茂る暗い森。人々はその森を終末の森と呼ぶ。
そこに魔導師のルイボスティー・ハモンドがいる。
暗い地下室で男が一人それを見上げていた。
「いい……凄くいい。君は最高だ!!」
男はそれにスリスリする。
ルイボスティーは優秀な魔導師だが、とても残念な魔導師でもある。
乙女ゲームの攻略対象であるからとても美形なのだが残念である。
美形だからこそその残念さが際立っているのである。
彼は魔導船に舐めるような視線を向ける。
キモイ。
ハッキリ言ってきもすぎる。
魔道具フェチの彼は魔道具の嫁を造っている。まだ完成はしていないが。
「頼もう~~‼」
アマンダは地下のドアを蹴破り現れた。
「道場破りかよ‼ 乙女ゲームのヒロインが台無しだ‼」
思わずルドルフは頭を抱える。
「何事だ‼」
ルイボスティーは叫ぶ。
「変態魔導師‼ あんたのママンにばらされたくなければ協力しなさい‼」
アマンダは魔導嫁を舐め舐めしている写真を魔導師に突きつける。
「い……何時の間にそんな物を映したんだ‼」
「そんなことはどうでもいいわ‼ こんな姿をママンに知られたらあんたのお小遣いは止められるわよ‼」
ルイボスティーは悲鳴を上げた。
「お小遣い(研究費用)を止められたら僕の嫁が作れなくなる~~~‼ お願いします。それだけは勘弁してください‼」
「わおっ‼ 完全な変態だ‼」
ルドルフは土下座をする変態魔導師を睨む。
「変態でも天才よ‼」
「確かにそうだな。この魔導船は今すぐ使えるのか?」
グスグス泣きながら変態は答えた。
「一応点検は済んでいるよ」
「なら私が言う場所に飛ばしなさい」
魔王よりも悪どい笑みを浮かべるヒロイン。
それでいいのかと思わずツッコミを入れたくなるルドルフだった。
「はいっ~~~~」
ルイボスティーは怯えながら答えた。
「攻略相手を脅迫するヒロインって……」
ルドルフは呆れてアマンダを見る。
あのゲームこんなんだったっけ?
ヒロインは可愛くて努力家で一途で……
あれ?
確かにアマンダの容姿は可愛し、努力家で学年トップの成績で、攫われたシェイラを助けようと一途に頑張っている。
合っているけど何かが違う。
三人も転生者が居るからゲームに歪みが出てきたのだろうか?
多分中の人が違い過ぎるからだろう。
「ルドルフ‼ 早く乗って‼」
先に魔導船に乗り込んだアマンダの声が飛ぶ。
「あ~~はいはい」
ルドルフは慌てて魔導船に乗り込む。
魔導船の中は割と快適でゆったりとしている。
何となくヨットの操縦席に似ていた。
アマンダは魔導師を殴りながら【天空の神殿】に魔導船の進路を進めた。
【天空の神殿】は山の頂にありゴルフル修道者達が日夜修行している。
山はとても険しく、並の者では近づけない。
そこに【天空の賢者】と呼ばれる者が居る。
天空の神殿ははるか下に雲を従えていた。
神殿の上に魔導船を止めると三人は神殿に降り立った。
「すいません。ここに【天空の賢者】ガイアス様はいらっしゃいますか?」
2・30人ぐらいの修道者たちがざわざわとこちらを見ている。
「これはこれは王太子様。良くおいで下さりました。どうぞこちらにおいで下さい。ご案内いたします」
20代ぐらいの質素な修道服を纏った青年が三人を案内する。
三人が案内されたのは崖だった。
「ここに賢者様がおいでになるの?」
案内されたのは神殿の一番端で空と雲しかなかった。
アマンダは辺りをキョロキヨロと見渡した。
誰も居ない。
「客人をお連れしました」
青年は崖下に声を掛けた。
賢者は崖下にいた。
褌いっちょでロープで逆さまに吊るされていた。
「これ……何の修行なんだ?」
ルドルフは困惑顔で案内の青年に尋ねた。
青年はサッと視線を逸らす。
うん答えたくないんだね。
「ただの趣味だ」
崖から登ってきた賢者はサラリと答えた。
賢者は50代ではあったが、鍛え抜かれた体をしていた。
(なあ……賢者も攻略対象だよな……枯れ線なのか?)
ルドルフはアマンダに声を潜めて尋ねる。
(好感度が上がると賢者は若返りの薬を完成させるの)
アマンダは親指を立てるとルドルフにウインクをした。
(私はマッチョ爺でもいける‼)
それを聞いてこいつストライクゾーン広すぎないか?
いや。ゴリマッチョは好きだが細マッチョは嫌いだったな。
あれ? ストライクゾーンは狭いのか?
ルドルフは悩む。
アマンダは手早く王太子の婚約者が攫われたことを告げ。
一緒に救出してくれるように頼んだ。
「良かろう。この老骨に鞭打って必ずや婚約者殿をお助けいたしましょう」
賢者は鞭でわが身を打ちながら魔導船に乗り込んだ。
褌のままで……
「すいません。すいません。清めの儀式の内は褌で過ごすことになって居るんです」
三人を案内した青年はそう答えた。
修行なんて言っているけど単なる変態なだけじゃないのか?
ルドルフは思ったが突っ込むのを止めた。
兎に角時間が惜しい。
「聖騎士は何処に居るんだ?」
地図を睨むアマンダにルドルフは尋ねた。
「砂漠のオアシスにいるわ。彼を回収して砂漠の向こうにある魔王城にカチコミをかけるわよ‼」
アマンダはやる気満々だった。
待ってて沙耶‼ 必ず魔王は倒す‼
魔導船は変態たちを載せてオアシスに向かった。
砂漠の中に突如現れる城塞都市ランダ。
その日も穏やかに終わるはずだった。
だが、突如城塞都市の上空に魔導船が現れた。
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2019/10/25 『小説家になろう』 どんC
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