第1話追放された俺
「戦場で突っ立って、敵をボケーッと見てるだけの無能はいらん! 今日限りでお前を聖騎士団からクビにする!」
王都にある聖騎士団の作戦室。
豪華な革椅子に深く腰掛けた団長のガイルが、俺に向けて突き放すようにそう言い放った。
彼の背後に控える副団長や、お抱えの最高位魔術師たちも「当然だ」と言わんばかりの冷たい視線を俺に送っている。
「……僕を、クビにですか?」
「そうだ! 自覚はあるだろう、レン! お前はいつも魔王軍との最前線で、一番後ろにポケットに手を入れたまま棒立ちしているだけ。剣を振るわけでもなく、派手な攻撃魔法の詠唱をするわけでもない。ただ敵を凝視しているだけの置物が、なぜ我が団で一番高い給料を貰っているんだ?」
ガイル団長は、机をバチィィン! と激しく叩いて鼻で笑った。
「我が聖騎士団の精鋭たちを見ろ! 彼らが剣を振るえば、魔王軍の凶悪な魔物どもは地面に下半身が埋まって動けなくなり、あるいは同じ場で足踏みを繰り返してマヌケにフリーズする! これは我ら騎士団ないの戦闘能力が高く、魔王が恐れているのだ!彼らはその隙を見逃さず、実力で魔物を一網打尽にしてきたのだ! お前のような怯えて突っ立っているだけの無能は、我が団の士気を下げるゴミでしかない!」
……はぁ。やっぱり、気づいてなかったんだな。
ガイル団長が自信満々に語っている、魔物たちが地面に埋まったり、同じ場で足踏みを繰り返したりする現象。
それ、全部俺がやってたんだけど。
俺の持つ固有スキルは【全自動・世界干渉】。
この世界のシステムそのものに干渉し、俺が視界に入れた敵を強制的に『バグらせる』ことができる、神域の隠し能力だ。
敵の判定をバグらせて『壁の中に埋め込む』。
敵のモーションをバグらせて『無限ループでフリーズさせる』。
そうやって俺が戦闘中、裏で全自動でフリーズさせて、完全なサンドバッグ状態にした魔物を、こいつらはただ安全な後ろから殴っていただけ。
それを「自分たちの実力だ」「聖なる騎士の覇気だ」と勘違いしていたらしい。
「あの、ガイル団長。僕が敵を凝視するのをやめたら、魔王軍は本来のデタラメな強さで動き出しますよ? 本当にいいんですか?」
「ハッ、負け惜しみを! いいからさっさと荷物をまとめて出て行け! お前のような無能の代わりなど、いくらでもいるわ!」
そこまで言われたら、もう引き止める理由はなかった。
ぶっちゃけ、魔王軍の幹部を何百体も同時にフリーズさせ続けるのって、めちゃくちゃ目が疲れるんだよな。実質24時間ワンオペのブラック労働だったし。
「わかりました。今までお疲れ様でした」
俺は未練なく、黄金に輝く高級なギルド証を机に置くと、作戦室を後にした。
これでやっと、長い有給休暇が取れる。目がシパシパするから、これからはどこか誰も来ない静かな辺境の地で、のんびりスローライフでも送ろう。
あ、そうそう。
忘れないうちに、今まで聖騎士団の戦域全体にかけていた『全自動バグ発生システム』のアクセス権、全部消去しておこうっと。
――これが、世界を裏で支えていた『バグらせ師』が、国を去った瞬間だった。
* * *
翌日。王都から馬車で数日離れた、不毛の地と呼ばれる未開拓の辺境の森。
「ふぅ。ここなら空気も美味しいし、静かで最高だな」
俺は木々の合間で、ぐっと背伸びをした。
まずは拠点となる家が欲しいところだけど、大工を雇う金もないし、自分で木を切るのもめんどくさい。
「よし、じゃあ……世界のシステムを、ちょっとだけバグらせるか」
俺は足元に落ちていた、なんの変哲もない小さな小石を一個、拾い上げる。
そして、その小石の『オブジェクトID』を凝視し、世界のバグを意図的に誘発させた。
「【座標無限増殖】」
ポンッ! と小石が心地いい音を立てて弾けたかと思うと、次の瞬間、木でできた立派な『ログハウス』が、地面からニョキニョキと無限に生えてきた。
普通の人間が見たら気絶するような光景だが、世界をバグらせられる俺にとっては、小石のデータを書き換えて家をリスポーンさせるなんて朝飯前だ。
「よし、最高に快適な家ができたぞ。次はご飯だな。ええっと、野生のリンゴの木があるな……これの『収穫フラグ』を無限ループに書き換えて……」
俺がリンゴの木を凝視すると、一個実をもぎ取った瞬間に、次のリンゴがポコッと一瞬で生えてきた。もいでも、もいでも、無限に真っ赤な高級リンゴが湧き出てくる。
「すごいなこれ。一生働かなくても、全自動で食いっぱぐれないじゃん」
俺が辺境の森で、世界のバグを私物化して超快適なスローライフを始めた、まさにその頃。
王都の最前線では――凄惨な地獄の幕が上がっていた。
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