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独裁者





 さて、鳩派の粛清は済んだ。だから次は本格的に議会を停止する。賽を投げるのは今日、第4回政務院特別議会だ。というわけで私はラスアジィンニコフと共に場所に乗り、政務院議会まで向かっている。


 「まさか、ここまでやるとは思いませんでしたよ」


 車窓を眺めなら彼は静かに言った。


 「言い訳はしない、正しい事だとは思えない。でも必要な事だったとは考えている」


 「昔の貴方とはまるで人が変わったようだ。あの時の、スカートを履いたまま皇帝になると言ったら笑いますかなんて言っていた貴方とは」


 「その私は消した。この世界には不要な人間だから」


 私の胸に彼の人差し指があった。少しくすぐったくて不愉快だけれど、気持ち悪いという感じはしない。なんというか、今から説教されるんだなという純粋な、少しばかりの恐怖があった。


 「玉ねぎと人間は似ています。だって我々の成長の仕方は経験とか知識を何重にも貼り付ける物であり、その一番内側は変わりませんからね」


 弱い私は子供時代のものだから絶対に消えないと、そう言いたいのか、貴方は。でもそれでは私はあまりにも救われない。だってこれから自分自身を損ない続けるような道しか残されていないんだから。だから、消えてくれなきゃ私が困るんだ、あの弱虫は。


 「それは貴方の主観だ。私は信じない、人は変われるものだから」


 「そうですか、なら生涯を賭けて証明してくださいね。できなければ貴方は死ぬだけだ。そしてそうなった時、私は貴方の代わりに皇帝になりますよ」


 皇帝になる、独裁官でもなく、皇帝に。やはり野心の男だよ貴方は。星ガモフでもいいなんて言うよりも貴方にはそっちの方が似合ってる。あぁ、だから貴方は玉ねぎと言ったのか。貴方自身が子供の時に夢見たアレクサンドル大王を忘れられないから。


 「そうしたければそうすればいいよ」


 しばらくして馬車は政務院議会に辿り着く。多くの政務院議員は今日もまた決まらない会議をするんだろうなとか思ってるんだろうけれど、今日は違う。

 会場の中はいつもと変わらず人熱で妙に暖かった。火山噴火の影響で外がかなり冷えているからそのせいでってのもあるだろう。


 「諸君、第4回政務院特別議会は本日招集されました。議会を開式致します」


 いつもの口上を読み上げて議会を開式する。皆、いつものような顔をしている。責任感を持った大人の覚悟した顔である。私は今からこの顔を、この矜持を踏み躙るんだ。


 「では第一位、ポンペイウス=エンデラ山破局噴火に対する対策……とする予定でしたが予定変更とさせていただきます。では第一位、ヘラヘラ緊急法の実施についての投票とさせていただきます」


 驚愕、困惑、不信、あらゆる負の感情が議会に満ちる。それもそのはず、ヘラヘラ緊急法とはヘラヘラ帝の立法した、緊急時に限って皇帝に国家と臣民の全ての権利を委譲する法律である。つまり名目上だけだった皇帝大権、皇帝の独裁がこの法律によって現実となるのだ。


 「……平民議員としてはヘラヘラ緊急法が可決するとなれば全員が辞任を表明すると宣言する!!」


 ミュラと平民議員が声を上げる。すると貴族議員やパトシキ・トカーまでも同意を示して叫んだ。


 「圧政だ!貴族議員としても皇帝陛下がヘラヘラ帝と同じような路線を取ると言うのなら我らは貴方を受け入れられない!」


 ブルースが立ち上がると同時に議会の扉は開かれる。そして扉から数百名の兵士達が入ってくる。大きな盾と赤いマント、大槍と金色の兜。そして兜に付けられた赤毛のトサカ。そう、精鋭兵である。


 「なんたる不遜か!」


 ブルースは叫んだ。


 「皇帝陛下の御前であるぞ!!」


 兵士は貴族議員、平民議員を取り囲んだ。しかしミュラもパトシキ・トカーも怯まない。やっぱり彼らは私よりもきちんとした政治屋だよ。


 「軍部……貴方方こそ皇帝はハンコを押すだけの機関に過ぎないと、承認をするだけの機械に過ぎないと言っていたはずだ!」


 パトシキ・トカーは槍を向けられながら話した。ブルースは道化を貫いて彼に言い返す。


 「畏れ多くも皇帝陛下を機械に例えるとは何事か!」


 2回ほど机を叩き、議会を鎮める。


 「全員黙れ!投票とします」


 投票用紙が配れる。賛成か反対か、それを考える時間は必要ないのですぐに回収する。勿論、記入の時間に兵士に脅させた。こちらとしても反対が多くて人数を減らしてやり直しなんてやりたくないので。


 「では開票とさせていただきます。賛成票192票、反対票102票、棄権36票。投票の結果より、ヘラヘラ緊急法は今この瞬間より効力を発揮し、緊急事態の解除宣言まで効力を発揮します。よって全ての議会は再び招集が掛かるまで解散とします」


 政務院特別議会なので護民院の承認も神星院の承認もいらない。ここまであの時の、第二次奴隷戦争の思いつきに助けられるとは思わなかった。


 「み、認められるか!こんなもの!!!」


 パトシキ・トカーは叫びながらこちらに近づくが、屈強な兵隊に抑えられて床に伏せた。


 「政務院は閉会してるので無関係の方は今すぐご退出下さい」


 「ふ、ふざけるな!私は政務院議員だぞ!」


 「政務院議会は解散しました。よって今の貴方の肩書きは貴族でしかありません。次回の政務院議会での当選を切に願っております」


 貴族議員、平民議員が退出する。勿論、抵抗する人もいたが屈強な軍人には勝てず、返り討ちにされるだけだった。


 「さて、軍部の皆様。先ほども申し上げた通り只今は緊急時に御座います。ですから軍の反乱を避ける為に戦時徴収法を有効とします。また、ハンニヴァルカ・アナキヌス・スパルタクス対策の専用部隊の編成を要請致します」


 悪役みたいだ、心の底からそう思った。

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