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最終勝利者は私?





 ミュラは立ち上がり、短くこう答えた。


 「平民議員としては、この度の問題について私たちは関与するべきではないと考えています。よってこの場での発言は控えさせていただきます。まだ投票についても同様で、棄権とさせていただきます」


 彼ら平民議員の仕事はあくまで平民の利益になる事である。故に独裁官制度というものに対して何ら解を出す事をしなかった。何より平民の利益の保護は彼らじゃなくて護民院の仕事だしね。餅は餅屋って言うように彼らも素人判断するより専門家に任せるべきって判断したんだろうね。


 「ありがとうございます、ミュラ・ユリアス氏。では貴族代表パトシキ・トカー氏、お願いします」


 パトシキ・トカーは見るからに困惑していた。当然だろう、軍部はヘラヘラ帝もその弟も殺してるんだから、軍部の狙いは権力の簒奪しようってしてた軍部がいきなり権力なんていらないっすよって清廉潔白さを演じてるんだから困惑もするよ。正直、気の毒だ。


 「はい。貴族議員としては独裁官制度の廃止に軍が賛成であるのなら、昨今の情勢を鑑みて魔法規制を緩和してもいいのではと考えています。ただし一つだけ教えて下さい、どうして今になって軍部は権力拡大を諦めたのです?以上、終了させていただきます」


 軍部が権力を拡大するには独裁官制度が必須だ。だって独裁官って6ヶ月間皇帝より権力を持てる制度何だしね。でこの6ヶ月ってのはカルタゴン戦争で延長されて終身独裁官なんて言って独裁官が死ぬまでに延長とかやっちゃったから貴族達はこれが怖いし軍部はこれを使おうって必死こいてたんだ。だから軍部が独裁官なんてやらないし消してもいいですよって言っちゃったら貴族としても軍部を止める理由がないんだ。


 「では軍部代表、ブルース・タヌキウス氏。お願いします」


 「我々軍部は先程申し上げた通り、独裁官制度を廃止しても良いと考えています。さて、先程のパトシキ・トカー氏の質問に答えましょう」


 彼は大仰に手を広げ、声を張り詰めて話した。まるで演劇をするようであり、私を含め議会の皆が彼の世界に引き込まれた。そう思うと、若くして鷹派の首魁となった彼も私やヘラヘラ帝と同じく制御不能な神輿なのかもしれない。


 「私たち軍部は兼ねてより権力拡大を求めてきました。その根源は信頼のおけぬ政府や皇帝によって、この広大な帝国領必要十分な戦力を与えられなかったという焦燥から来るものであります」


 「ですが、聡明なるヘリオース帝はガイウス魔法法の廃止とヘリオース魔法法の制定という形で我々の兼ねてよりの願い、いえ、帝国が帝国たる得る必須であった魔法の大々的な軍事転用を成すと約束して頂きました。故に我々が独裁官という形で権力を拡大し魔法の大々的な軍事転用というものを叶える必要がなくなったのです」


 「以上で終了とさせていただきます。皆様、ご清聴誠に感謝致します」


 完璧だよ、ブルース。貴方なら素晴らしい道化になれると思ってた。まるで、イグニオン神星会議の時の私を見ているみたいだ。


 「ありがとうございます。では私、皇帝ヘリオースの意思表示をさせていただきます」


 立ち上がり議会を一瞥する。

 10秒、10秒の沈黙だ。皇帝の、この国の、ひいてはこの世界において一番の発言件を持つ私の発言。この一言で歴史が変わってしまうと多くの人は認識している、私を含めて。故に沈黙が有効なんだ。緊張感を与えて、最高潮になった時に沈黙を破る。第二次奴隷戦争、第一回政務院特別議会で私の勇姿を見ていた彼らにはよく効くはずだ。


 「諸君。一つ言っておきます。私は諸君らと違う時代に産まれました。故にハンニヴァルカを知らないのです。帝国の悪夢と呼ばれた、史上最強の男、ハンニヴァルカという人間を」


 「ですから独裁官という形でハンニヴァルカを知る者に軍事的・政治的な最高権力を与える、という理屈も理解できるのです」


 「ですがそれはいけない。大いなる国家であるマレ・ノストルム帝国を統べるのは同じく大いなる存在、大いなる礎石でなくてはなりません。そして、その礎石たり得るのは皇帝権威であり、私でなくてはいけないです」


 「故に私は独裁官制度の廃止を求めます」


 拍手が聞こえる。どうだ、ラスアジィンニコフ。私の勝ちだよ。


 「では、投票とさせていただきます」


 その後投票が行われ、賛成多数により独裁官制度の廃止は可決された。また、ヘリオース魔法法も同様に賛成多数による可決される。

 つまり私はガイウス魔法法の廃止と独裁官制度の廃止を同時に成した。後は流れに任せてヘリオース魔法法も廃止して、アナキヌス・スパルタクスの問題を解決するだけだ。

 私は勝ったのである、完全勝利だ。完璧なまでの。

 その後晴れ晴れとした気持ちで政務院議会を退出した時、強い風が吹いた。春一番というやつである。


 「ヘリオース陛下、この後いいですか?」


 「あぁ、ラスアジィンニコフ。いいよ、書類仕事しながらでもよければ」


 城に戻り、いつもの執務室へ。先に口を開いたのは彼だった。


 「やってくれましたね、正直そう思いましたよ」


 「それだけ?こう、なんかもっと言いたい事あるでしょ」


 負け犬の遠吠えが聞きたい、というのもあるかもしれない。でもそれ以上に私が彼という政治のプロから見て、敵と見做さられる人物、つまり皇帝として相応であるのか知りたいんだ。


 「えぇ、そうですね。では言わせていただきますよ」

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