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第3話 暗黒穴の行方

 かくれんぼには必勝法がある。

 ①隠れ場所を探すときは、探す側の視界に入らないようにする。

 ②できるだけ体を縮こめる。

 ③動かない。

 ④音を立てない。

 ⑤近くにあるもので体を隠す。

 ⑥見つかる危険性がある場合は、移動する準備をしておく。

 これらを滞りなく行わられれば、いつまでも見つからないのだ。

 件のブラックホールは、自らが見えないという特性を生かして、これらをことごとく無視して、とにかく知的生命体のいそうな場所を避けてそこにしばらく潜んでいる、という戦術をとっているように考えられた。

 かくれんぼといよりは人目を避ける、といった塩梅だ。

 ブラックホールを探すものはダイキニといったもの好きぐらいしかいないのだし、たくさんある中で、わざわざそのひとつを見つけようとは思わない。

 これまではそれでよかったのだ。

 わたしが高速移動するブラックホールをあえて選んだのは、より見つからない方法を選んだものがいるとすればと、帰納した結果だ。

 しかし現在のテクノロジーから見れば、証拠のまき散らし過ぎだ。

 当人は気づいてないようだが、第三者から見ればより際立って目立っていることをまるでわかっていない。

 わたしは、徹底的に感覚を研ぎ澄まして、重力波を発生させて周囲に向けて送り込み、その反射や屈折を検出することで、ブラックホールの位置や形状を推定しようとした。

 重力波は光速なので、当たりが付けばそうそう時間はかからない。

 全周囲にいっぺんに発生できないのが痛かった。

 それでもまたもや待つ時間というものが生まれることになった。

 一番の問題がある。

 見つかったとして、相手は気づくのだろうか。

 そうである可能性は大いに高いのだが、そうだったとしたら、急いでそこに向かったとしても、相手はそこにはもういない。高速移動しているのだ。

 追い詰めるには最低でも2、3人いる。

 ドローンでも使おうか。

 船にはクラフトマシンが積んである。

 基体はすでにあるので、重力波を発生させるマイクロブラックホール装置をつくりだせば事足りる。

 アリスに指示を出していると、どこからか咳が聞こえた。

 休憩室だ。

 空耳だろうかと、念のため、確認しに行く。

 そこには、ラフにソファでくつろぐダイキニがいた。

「どういうこと?」

「量子テレポーテーションさ。もうひとりはブラックホールの中にいる」

「会いに来てくれたの?」

「君が会いたがっていると思ってさ。オレはいわば幽霊だ。ここにいていないも同然。おっと、乱れが生じたな」

 もうひとりがイベントホライゾンを乗り越えようとしているのか。それともスパゲッティ化が始まっているのか。

「君がやろうとしていることは自殺行為だぜ。オレが言うのも何だが。いっておくが、ここにはなにもいない。それにもうすでに目標は達せられているんだ」

「どういうこと?」

「AIさ。量子人格型AIはもう人間以外の知的生命体だろう?」

「それじゃダメなのよ。人間から離れないといけない。ちょっとでもタッチしていてはいけないのよ」

「異質では同質だと思うけれど?」

「地球産ではどうしてもイメージというものが付きまとう。それにロジックは類推される。真に異質なもの。別のところ、外からでないと。かつて人間が自分の国から外のものを受け入れていったように」

「違うな。君は本心を隠している。本当は、その先をみているんだろう」

「……」

「外からのものというのは、生命体というだけでない。伴っている文化、思想、付帯する知的財産そのものだ。君は知的シンギュラリティを狙っている」

 沈黙が数舜、荘厳に支配した。

「愛よ」

「エゴの間違いでは?」

「2716」

「?」

「今まで失ったボディの数。わたしは、人一倍、ボディというものを想ってきた。考えてきた。慈しんできた。最初はエゴだったわ。自分勝手な、わがままな欲望。それがボディをたくさん経るに至って、そのたびごとに魂に刻み付けられる揺さぶりを受けた。強烈な変容だった。どこからだろう。それに触れられるようになってきたのは。それはある本で言われている、素朴なロマン主義や、愛の理想理念化、ロマンに敗れたニヒリズムではなかったわ。なんとかしてそれらを乗り越えることができた、ひとつひとつ解消することに成功したのよ。というのも、これまた別の本で言われている技術の修練としての”その”境地に立つことができたからよ。服を脱ぎ捨てるように身体を変えてきたものには到底及ぶべくもないでしょうね」

「その本ならオレも読んだよ。自身や世界の苦悩、矛盾を、一挙に解決してくれる絶対的調和、”人類愛”でもないんだな?」

「そういうロマンではないわ」

「ならオレからは何も言うことはない。せいぜいよろしくやってくれ」

 扉を開けて部屋を出ていこうとしたところで、ナオは声を掛けた。

「人間は正しくあれるのかしら」

「あろうとすることはできる」

 残ったのは、飲みかけのコーヒーと、成っただろうボディがひとつ。

 

 

 

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