1話
「ねえ二宮君」
放課後、俺は後ろから呼ばれて振り返ると、同じクラスの枚方朱乃がいた。クラスメイトの女子で名前と顔が一致する数少ない1人だ。
なんだろう、何か提出物の催促かな。
「私と友達にならない?」
……またか。
同じようなセリフを、何度も聞いたことがあった。
俺はクラスで、【菊間俊介となぜか親しいメガネ陰キャ】として認識されている。
俊介は2年生ながら高校バスケ部のエースで、学校全体でも1.2を争うモテ男らしい。
彼とは小さい頃から一緒に遊んでいて、今でも仲がいいが、自分とは真逆の存在だ。
幼なじみでも無ければこんなに仲良くなることは無かっただろう。
これまでそんな俺を踏み台にして、俊介に取り入ろうとする女子が何人もいた。枚方朱乃もその内の1人になるんだろう。
「枚方さんは……その」
「枚方でいいよー、私も二宮って呼ぶね?」
短い茶髪に短いスカート。見た目同様コミュ力全開の彼女は、恐らく無意識に会話の主導権を握っている。
本当に……陽キャ怖い!
「……枚方は、なんで俺と友達になりたいの?」
同じ様な事何度もあると、最初のうちは自分に気があるのか? なんて思ったりもしたが、いつも俊介目当てだと知って落胆するので、もう慣れてしまっている。……はずだ。
「え〜、理由なんている?」
俺に質問された女子は、大抵そう答える。
やっぱりな。知ってるぞ、お前が俊介狙いだってことは……
「ぬあ゛」
突然枚方が俺のメガネを外す。得体の知れない良い匂いで頭が一瞬くらっとした。
「ほら、やっぱ二宮ってメガネ外したら結構可愛いよね」
近い近い、絶対貴方に可愛さでは勝てないです。あと胸当たってます……。
鼓動が早くなり、思わず心の中で本音が出た。
落ち着け、落ち着け、と唱えてなんとか平常心を心がける。
えっと……いつもならそろそろ俊介について聞いて来る頃のはず。
「菊間君と仲良いんでしょー?」
だったり、
「菊間君ってどんな人なのー?」
だったり、バリエーションは様々だ。
だが、枚方は全然そんな素振りを見せない。それどころか俺に興味津々のようで、全身をジロジロと眺めている。
「俊介、呼んでこようか?」
中々聞いてこなかったので、少し苛立ち、こっちから聞いてしまった。
「え、なんで菊間?」
「ああ……なんでもない」
なるほど、そういうことか。じっくり焦らして行くタイプって訳だ。
俺は脳内の辞書に、新たな項目として加える。
「ふーん。てかさ、二宮って……彼女とか、いるの?」
いきなり恥ずかしそうに小声で聞いて来る枚方。
え、なんでそんなこと聞くんだ? もしかして本当に俺のこと……
……いや焦るな、一旦落ち着け。
こいつは俊介が目当てなんだ。そんなことは有り得ない。
「い、い、いや、べ、別に? いないけど?」
落ち着けていなかったようだ。
これは後でもの凄く後悔してベッドの中で悶絶することになるだろう。
「そ、そうなんだ……へぇ」
なぜお前もキョドる……
一気に静かになった枚方。
俺が新たな会話を始められる訳もなく、しばらく沈黙が続いた。
「優ちゃーん、今日部活オフみたいだからさ、一緒に帰らねー?」
少しすると、俊介が大声でそう言いながら近付いて来た。
名前が優太だから優ちゃん。まあ小さい時に付けたんだから至極ストレートな呼び名だ。
「って枚方じゃん、優ちゃんと仲良かったんだ」
「うん、友達になった」
気まずい雰囲気から一転して明るくなる枚方。もう俺とは友達らしい。
その前に2人は元々知りあいだったのか。
わざわざ俺を使わなくても良かったんじゃないのか?
陽キャはよく分からん。
「菊間、私も一緒に帰っていい?」
「ああ、もちろん」
……本当に陽キャはよく分からん。




